あらすじ
「きみがいなくなっても教室はそこにある」――かつて王立学院で魔術師を目指していたにもかかわらず、十年前の〈ある出来事〉をきっかけに魔力欠如者となったソール。現在はしがない古書店店主として、控えめな暮らしに身を置いている。そんな彼の店を訪れたクルトは、身分と容姿、能力を兼ね備え、魔術師としての将来を嘱望される完璧な学生だった。
学院の日々を想起させるクルトにソールは反発しながらも惹かれていき、クルトは魔力欠如ゆえにソールに興味を抱く。しかし十年前に何もかもを失ったソールには自尊感情がなく、クルトへの想いを押し殺すばかり。正反対のふたりの恋のゆくえは――?
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世界の見えかた
学生時代の好奇心から『罪』を犯してしまった書店の主人ソールと挫折を知らないエリート学生クルトの物語。
出会った当初のクルトは若さ故の傲慢さもあり、どこかソールを見下したような態度を取ります。そしてソールもまたクルトに対してあまり好意的な印象は持たなかったようで、傲慢な学生と偏屈な書店主という一見限りの関係で終わるはずでした。
そんな2人が徐々に近づいていく様子が本当に丁寧に描かれていきます。
ソールに惹かれていることを自覚したクルトは一途に彼を慕いますが、大人であり事情を抱えたソールはクルトを受け入れつつもどこか距離をとっている雰囲気です。
クルトの将来を思い、不利になるような行動を慎むように諭すソールと何よりもソールと共にあることを望むクルト。お互いに相手を想うが故に巧くかみ合わない2人がもどかしくも尊いです。
特にクルトが変わっていく様子の描きかたが秀逸です。
ソールと知り合ったことでクルトの世界は変わります。思い描いた将来さえも変えてしまうほどの恋の熱に浮かされた様子、学生という立場故に越えられない壁に悔しい思いをする様子の描写がいかにも若者らしいです。
そして『訳あり』な大人であるソールがクルトと同じ温度で恋愛にのめり込むことができず、どこか諦念めいた思いを抱くのもリアリティーがあります。
多少の問題を残しつつも幸せな、そして未来に希望が持てる結末もとても良かったです。
切なくて深い物語でした。