あらすじ
1881年イギリス、エセックスのターングラス館で起こった毒殺事件。事件解明の鍵は、館に監禁された女性が持つ一冊の本にあるという。一方、1939年アメリカ、カリフォルニアでは推理作家が奇妙な死を遂げる。彼は、死ぬ間際に58年前の毒殺事件の物語を書いていた。
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Posted by ブクログ
★5 上下反転裏表、二つの物語がお互いに関連し合う極上のミステリー #ターングラス #鏡映しの殺人
■きっと読みたくなるレビュー
書籍を裏表上下反転させて読むという手の込んだ装丁、これは単行本で手に入れたくなっちゃう。こういう形式の本をテート・ベーシュって言うんだって。なるほどー
読む前から既にギミックとして面白いんですが、中身もしっかりと濃厚な味わいで素晴らしい。エセックス篇は19世紀末の時代背景。ゴシックホラーな雰囲気が漂う中、作中作が秘められた謎に迫っていく。
カリフォルニア篇は20世紀の第二次大戦前。こちらは一気に現代的な情調になり、サスペンスやロマンスも含んだミステリーなんです。どちらもターングラス館という建物が鍵になっており、また共通テーマとして家族が綿密に描かれています。
この二編の色調が違うのが面白いんすよ。どちらもミステリーではあるんですが、エッセンスも謎自体も違うから最後まで飽きずに読めちゃう。それでも物語は絡み合っていて、どちらも終盤に差し掛かってくるとゾワゾワ感が襲ってくる。露骨ではなく引き算で読ませるのが上手で、二つの作品の狭間を想像せずにはいられなくなるんすよね。
またキャラクターが濃いの。カルピス原液で飲んでるのかっていうくらい濃い。コイツ何もんやねんって人ばっかりで興味津々、脇役ですら気になる。人物に力強さがありすぎでしたね。
私は時代順にエセックス篇から読みましたが、カリフォルニア篇を読み終わった後、さらにエセックス篇をパラパラと読み返すことになりました。これは永遠と読み続けることになるという危険性がありますね。過去に何があったかという期待が膨らむから、カリフォルニア篇から読むのもオススメかも。うーん、どっちがいいんだろ。たぶんどっちでも楽しめますよ。
●エセックス篇
19世紀末のエセックス、ターングラス館で起こる毒殺疑惑事件。医者であるシオメンが館の住人である司祭を訪ねて…
舞台設定が怖い… こんな島、絶対行きたくねーよ。登場人物もみんな腹に一物もってそうでヤダ。なんといっても例の女性ですよ、なんなのこの人… 背景を知りたいけど、知ってしまうと取り込まれてしまうような恐ろしさ。事件の展開もしっかりしてるし、特に後半の作中作とカリフォルニア篇の関連が気になってが読む手が止まりませんでした。
●カリフォルニア篇
20世紀前半のカリフォルニア、俳優志望のケンが州知事の息子オリヴァーが書いた小説の謎を追う…
爽やかーな青春テイストかな?と思いきや、中盤に差し掛かった頃から一気にミステリー身が帯びてくる。小説にはどんな秘密があるのか、エセックス篇との繋がりや特に人間関係が紐解けてくると… ヒリヒリしちゃうー
巧妙な仕掛けでエンタメ性が抜群、訴えるテーマも粘り気があって重厚感も心地よかった。今年のミステリーランキングに入る作品かも!
■ぜっさん推しポイント
私が子どもの頃、警察官や弁護士など正義の味方に憧れていました。そのため中学高校時代は、真面目に勉強していたつもりです。しかし大学に入ると研究や社会に馴染めず、はみ出した人生を歩んでしまうことになりました。なので自分の子どもには、途中で勉強を放棄することなく、学業を全うして欲しいと願っているんです。
しかしそれって親のエゴですよね… どんなに愛していたとしても、どんなにその判断の妥当性が高いと思っていても、それは一方的な価値観の押し付けでしかない。親子関係であっても、人権は個別にあるし、考え方も違って当然なのにね。ぼんやりと自らの家族観を見つめ直すことになる作品でした。
Posted by ブクログ
2つの中長編小説を収録した一冊の本、それだけだと良くあることだが、装丁にテートベーシュというギミックを用いた凝った1冊。そのギミックを楽しむことを主眼においた2作品。
1つは19世紀の陰鬱なエセックスの離れ小島で起こった殺人事件とターングラス館の主の病気の謎を追う話。
もう1つは20世紀大恐慌後WW2前のカリフォルニアで俳優志望の主人公が友人の書いた小説の謎を追う話。
2つの小説は全く違う雰囲気をまといつつ、ターングラス館や話中小説の相関関係などメタな要素を踏まえて展開する。双方各々の収束はするものの、両方を読み終わった時に組みあがっていた2作の関連が紐解けると、別な光景が見えてくる…という展開。
凝った手法で楽しめるが、その構成上それぞれの話に自由というか余裕がないような気がした。それも含めてギミックなんだろうけど。
Posted by ブクログ
19世紀のエセックスと20世紀のカリフォルニア、二か所に存在する謎めいた「ターングラス館」でそれぞれ起こる事件を描いた本作は、「テート・ベーシュ」と呼ばれる造りの本になっています。各章を読み終えるごとに反転する物語の構成はとても凝っていて、これは是非とも紙書籍で読むべき一冊です。どちらから読むことも可能ですが、個人的にはエセックス篇→カリフォルニア篇の方がよいんじゃないかな、と思いました。実際正当な向きとしてはこっちが正しいかな?
ガラスの牢獄に閉じ込められた女性を巡る物語であるエセックス篇は、時代背景もあって幻想的な雰囲気に彩られています。一族の因縁の物語、そして見事な毒殺トリックに驚愕させられました。
一方ではこれまた謎めいた一族の物語を描いたカリフォルニア篇、こちらはスリリングさもあって楽しいです。そしてこの物語にまつわる謎のヒントがエセックス篇に書かれていたり。本当に、この仕掛けが楽しい!
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テート・ベーシュという形式だそうだ。一見二つの物語が一冊にまとまっていて、『どちらからも読めて単独でも成り立つが、両方読んで初めて完全な理解に至る』。この本ではエセックス編とカリフォルニア編に分かれているが、やはり相互に関わっていて、両方読んだあとに、先に読んだ方をもう一度確認したくなる。楽しめた。
Posted by ブクログ
発売時から気になっていて、やっと読めました。
時代背景が1800年代以降、古く怪しい館を主軸に据えていて、設定はとても好み。
趣向を凝らした作りだけど、全体を通じる謎はシンプル。
もう一つ二つの展開を期待してしまったけど、(浅いミステリー読みのわたしでも展開が見越せてしまったため。逆にヒントを多く散りばめて読者の謎解きのハードルを下げてくれていると言えます)
この作品形態で整合性を保ちながら完成させているのはすごいです。
今後、作者の他の作品も読んでみたいとおもいました。
Posted by ブクログ
作りが凝ってるのはいうまでもありませんが、事件の真相も捻りがあってなかなか唸るものがありました。舞台となっている当時の雰囲気をうまく練り込んで、いかにもありそうと思わせているところは見事です。それぞれのパートに書かれているところがいたるところでクローズアップされるので、読み返さざるを得ません。何度も読むことになるので、非常にお得感がありますね。一冊で二度楽しめることは確かだし。ただ、作りの複雑さゆえ、内容に重みが薄れた感も。ミステリに重み求めるのも野暮な話ですが、これだけ作り込んでいるので、さらにズシリとくるものがあったらなあ、と思ってしまいました。シメオンもケンもちょーーーっと軽いんですよね。
Posted by ブクログ
表裏反転のミステリー。表紙も中身も設に驚いた。こう言うのをテート・ベーシュと言うらしい。
19世紀末のエセックスと、20世紀初めのカリフォルニアを舞台にしたパートの2つから成り立つ。どちらから読んでも良いらしいが私はエセックスから読み始めた。読むだけでも舞台となる島の荒涼とした表現にタジタジになる。反対にカリフォルニア編はスピーディーな展開でわかりやすい。
他の方も書かれていたが、私もまた、もう一度エセックス編を読んだが、深い謎を解き明かしたようで読んで良かった。
Posted by ブクログ
面白い構成の本。表側からと表紙側の両側から物語が始まり上下ひっくり返して読む。話も表の話と裏の話では印象が変わる。良くできている。扱っている内容は現代にも通ずる人権の話。それもだ冒頭から匂わされてはいるけれども少しずつはっきりとわかっていく演出がにくい。ただ、お話自体はそれほど好みではなかった。現代に照らし合わせて考えさせられはするけれど、そこまで感情が動くことも、面白さにワクワクして読みやめられないこともなかった。後味も決して良くはない。
Posted by ブクログ
「テート・ベーシュ」っていうらしいです。
両方に表紙があって、両方から読む。
この小説では、片方が作中作として使われてる。
どちらから読んでもいいらしいですが
読み終わった感じではやっぱり
装丁通り「表:エセックス篇」から読んで正解。
エセックス篇では
医師シメオンがターングラス館で暮らす叔父に
「誰かが自分を毒殺しようとしている」と
訴えられて謎を解こうとする。
館の一室には叔父の弟を殺したかどで
その妻フローレンスが閉じ込められていて
一番怪しいのは彼女だが
部屋からは一歩も出られないのにどうやって?
対するカリフォルニア篇のほうは
役者志望の青年ケンが主役で
州知事の父を持つ友人の死に疑問を持ち
彼の妹と共に真実に迫ろうとする。
友人の書いたターングラス館が舞台の小説に
謎の鍵があるとみて
エセックスに向かったふたりが知ったのは…。
エセックス篇がミステリで
カリフォルニア篇はサスペンスかな。
私はエセックス編が好みでした。
Posted by ブクログ
読んでいて面白い1冊でした。
しかけも。
ただ、読後感が微妙に終わったので、星3.8くらい。
4にはしにくい。
エセックス篇、カリフォルニア篇、どちらも好きな感じですが、個人的にはカリフォルニア篇の方がより好みです。どちらも現代ではないので、ゴシック風味、クラシック風味があります。
そしてイギリス小説、アメリカ小説を書き分けている、そんな印象もありました。
どちらから読んでもいい、とはあるものの、本の体裁としてエセックス篇から読んだら?という出版社サイドの意向を感じるのと、話全体の味わいをよりおいしく感じるなら、エセックス篇から。
アマノジャクな方はカリフォルニア篇からどうぞ(笑)
ほんの真ん中に砂時計のイラストが2個。
これも雰囲気を伝えてくれました。
ケンとコララインはどうなるんだろう…
後日談がないのが消化不良の原因かな。
機会があれば読んでみてほしい1冊。
テートベーシュとしては、エヴァン・ハンターのキャンディランド以来。
もう一度そちらも読みたくなりました。
Posted by ブクログ
テート・ベーシュ。
何これ、作り自体がおもしろー、初めて出会った。
でも意外と昔からやられている製本技法なんですね。
日本でも折原さんの作品でやられているとか。
イングランド南部のレイ島(干潮時は陸続きだが、満潮時には連絡路が水没してしまうような土地。陸繋島ってやつ?)。
この島唯一の建物、ターングラス館の主の病の原因を探る出だし。
次第に体面が剥がれ落ちてくるかのように、この家の住人が関わっていた忌まわしき罪が露わになってくるゴシックミステリ調のサセックス編。
本を閉じ、ひっくり返して180度回転させてページを開くと始まるカリフォルニア編。
うって変わって富と名声、成功と権力の夢の中を泳ぐ『グレート・ギャツビー』かのような世界感。
映画俳優を目指す主人公のケンはひょんなことで知り合った知事の息子で著名な作家でもあるオリヴァーと親しくなる。
オリヴァーは悩みを抱えているような素振りを見せたとある夜半に拳銃自殺してしまう。
ケンはオリヴァーの妹のコララインと共にその真相を探る。
2つの編はそれぞれがそれぞれの作中作のような位置付けとなっており、また作中の様々な登場人物やシンボル、エピソードがときに直接的にときにメタファーとして登場し、相互に行きつ戻りつするなんとも眩惑的な読み心地。
まさに鏡に鏡を映したときに現れるような光景が広がっている。
ただちょっとそれぞれのオチが普通のミステリ的。
ちゃんと収まってるのだが、なんか急にそこだけ個々の作品に意識を戻されて、変に地に足着いた形になる。
むしろわけわかんないくらいの匂わせ終焉の方がこの作品には合っていたのでは。
あと、相互の絡み合いを重視するあまりか個々の展開のストーリーテリングの点で単調さを感じた。上手くいきすぎるというか。
とはいえ総体として、本としての細工とタイトル、2編の物語が織りなすテーマ性が物凄くよく表現されている一冊。