【感想・ネタバレ】文庫版 鵼の碑のレビュー

あらすじ

百鬼夜行シリーズ新作長編!

殺人の記憶を持つ娘に惑わされる作家。
消えた三つの他殺体を追う刑事。
妖光に翻弄される学僧。
失踪者を追い求める探偵。
死者の声を聞くために訪れた女。
そして見え隠れする公安の影。

発掘された古文書の鑑定に駆り出された古書肆は、
縺れ合いキメラの如き様相を示す「化け物の幽霊」を祓えるか。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

京極堂シリーズ、何と十七年ぶりの第十弾。

昭和二十九年二月。日光。父殺しの記憶を持つ娘に惑わされる劇作家。消えた三つの他殺体を追う刑事。燃える碑の妖光に翻弄される学僧。失踪者を追い求める探偵。死んだ大叔父の声を聞きに訪れた女。発掘された古文書の鑑定に駆り出された古書肆は、縺れ合いキメラの如き様相を示す「化け物の幽霊」を祓えるか。

京極堂、関口、木場、榎木津らシリーズ主要キャストが揃い踏みというだけで鳥肌モノ。そして、頭は猿、手足は虎、尾は蛇という鵼の如き異様な絡まりがもたらす眩惑は、このシリーズならでは。

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2025年11月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

この本を読む前に、念のためシリーズの既刊を調べてみた。
『邪魅の雫』だけ、読んだ記憶がない。
他はうっすらと思いだせるのに、これだけがまっさらということは、読み忘れていたか?
と焦ったが、読書記録を調べてみたらちゃんと読んでいた。
内容も、自分のネタバレなしの感想でちゃんと思い出せた。
よかったよかった。
古いものほど思い出せるのは、それだけ何度も思い出したからなのだろう。

『人の思いを察することのできない、幼稚化し肥大した自我・自意識しか持たない人たち。
この作品のこの事件と、私の世界のあの事件が繋がっている。』
前作を読んだ感想に書いてあった自分のことばであるのに、もう、私の世界のあの事件というのがどの事件のことなのかはわからない。
けれど、今作はそれ以上に作者がこのシリーズに事寄せて、現実の社会に物申している気が色濃く感じられた。

鵼(ぬえ)というのは、頭は猿、体は狸、尾は蛇、手足は虎の姿をしているという。(諸説ありますが)
そんな生き物はいるはずがない。
とは思うのだが、あちらからもこちらからも目撃情報や文献が出てくると、何らかの生き物が見間違えられたかして存在していたのだろうと思う。
にしても、つぎはぎすぎる。

そしてそれは、今作の作品の構造と極めてよく似ている。
いくつもの話のパーツがつぎはぎなのだ。
同じ人物が少しずつ様相を変えて別人の話に関与してくる。
本来つながっていると思われる人が見つからなくて、関係ない人が見つかるというもやもやとした気色悪さがキメラ状になって物語を織りなす。
なのであらすじなんて書きようがない。

あらすじは書きようがないけれど、先日マタギが主人公の本を読んだばかりだというのに、今作もまたマタギがかかわってくる話だったことに驚愕。
これは何かの陰謀でしょうか。←んなわけない

最初に関口が登場したとき、まだその名前が出てくる前から関口だとわかった。
うつむいて、もごもごと不明瞭なことを話す男は、それは関口だ!
例えば木場のシーンになると脳内に宮迫博之の顔が浮かぶ。
榎木津なら阿部寛だ。
京極堂はたいてい後ろ姿だ。またはうつ向いた横顔。
めったにその顔が脳内に現れることはないが、現れるときは堤真一だ。
でも、関口には顔はない。
作中では猿のような容貌と書かれているけれど、うつ向いているのだから見えようはずがない。
何年たっても揺るがないイメージ。素晴らしい。

17年ぶりのシリーズ新作なんだそうだ。
ずいぶんと間が空いたものだ。
そしてこの間にあった事件や事故や災害が、この作品の中に見え隠れしている。

『断罪は司法に委ねるべきだ。どんな形であれ一般人に罪科の決定権はないし、決定していない罪に斟酌することは無意味だ。こと刑事事件となれば、道徳や倫理で判断していいものではないだろう。』
妙にタイムリーだが、もちろんこれ以前から行き過ぎた正義感というのは問題になり、事件も起きていたわけで。

『夢の未来エネルギイ、現代の錬金術、魔法の万能技術――原子力はそう謂われ続けていたんだ。(中略)そんなものはない。メリットは必ずリスクを伴うんだ。リスク管理こそが何よりも肝要だろう。しかし信奉者にそんなものは見えないんだよ。』
リスク管理をしておいて損はないと思うんだけど、いつも後回しにされるのよね。

『化け物は、人と人、文化と文化の間に置かれる緩衝材のようなものなんです。』
今の世は、自分と他者との間の緩衝材がことごとく取り払われて全力でぶつかり合っている、妙にギスギスした時代だと思う。
世界を見ても。

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2025年02月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

久しぶりに百鬼夜行シリーズが読めて嬉しかったです。今回は、事件に首突っ込んでいく感じじゃないためか、悲しいとか遣り切れないとか、そんな深みに嵌らずに読めました。

複雑さはピカイチでした。今まで、全然関係なかった物語が、一つに集約されていくお話は結構ありましたが、このお話は最後、全部散らかっていきました(笑)。微細に関わりが強固になっていると思わせておいてのすれ違い。凄すぎました。

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2025年03月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

読み終わった!という達成感と、残された空虚感。この空虚感は、今回の事件に翻弄された登場人物が感じたものと同じと思われます。別々の事件が重なり合い
収束していく様子にワクワクしていたのに、蓋を開ければ何もない、まさしく鵼そのものな物語だったのでした。

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2024年12月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

期待通り楽しく読むことができた。
今までの作品と比べると、舞台となった日光の歴史についての言及が多く、トラベルミステリー的な要素が強かったように感じた。本作初登場の緑川佳乃は、病理学者として地方大学の医学部で助手をしていて、中禅寺や榎木津、関口と幼馴染でもある。小柄だが非常に聡明なキャラクターで、今後の作品で活躍しそうな予感を抱いた。
毎度の事ではあるが、京極堂の説教は心に沁みる。しかし、本作の京極堂の説教は他作品とは違う印象を受けた。以下、少しだけ触れておく。

「違うんだよ緑川君。...。化け物とは、異った文化習俗を持つ他集団との間に生まれる恐怖、軋轢や齟齬そのものなんだ」
          中略
「化け物は、人と人、文化と文化の間に置かれる緩衝材のようなものなんです。...」
          中略
「居ないものを居ることにすると云う優れた文化はどうやら廃れてしまったようです。...」

これらのフレーズからは、メタフォリカルなモノの捉え方が軽視され、科学的合理主義や個人主義的思想に時代が移り変わっていくことに対して京極堂が諦観の念を抱いているように読み取れ、切ない気持ちになった。本作の時代設定は昭和29年であり、歴史的には高度経済成長期に突入する前年という時代設定だ。
日本がこれから先進国へと成り上がっていく変革期にあって、時代の流れに翻弄されながらも逞しく生きるキャラクターの姿に勇気をもらった。

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2024年11月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

いつもの通り見事な構成。
中禅寺が気心知れた(?)相手にはしない丁寧な対応をしているのを見るのが好きなのだけど今回は築山さんや仁礼さん相手にそれがたくさん見られて楽しかった。あとめちゃシゴデキで何か嬉しい。
多分色んなテーマが今作には盛り込まれていると思うけどコロナ禍以降特に顕著になったように思う陰謀論について、なるほど鵼のようなものなのかもなと感じたりもした。
ただ読み進める熱量をそれほど得られず読み切るのに時間が掛かった。
ひい。ひょう。と、寂しい鵼の声がよく似合う締め方で、それでも読後感は悪くない。

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2025年06月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

なるほど、鵺の各パーツに各々が背負う物語を嵌め込んで収斂させていく構造になっているのか…と感心しつつ読んでいったわけだが、巻末の解説で小川哲氏がそのあたりを至極的確に詳述されており、私などの出る幕はないのでそれはひとまず置いといて。

前作の時にも感じたが、今作においても、令和の現代になってようやく声高に議論されるようになってきた種々のトピックスがふんだんに盛り込まれている。
例えばジェンダー平等であったり、ハラスメントであったり、陰謀論やフェイクニュースであったり、無戸籍国民の問題であったり。
中でも原子力を巡る諸々については作品全体の中核を成す柱の一つといって過言ではない要素になっているし、はたまた今の日本政府や自公政権を揶揄しているとも取れる描写もある。
著者が現代社会における”分断”を強く憂いていることは共感を以て良く理解でき、その帰結としてインクルーシヴを説いているのだろうと思う。
ただ、昭和20年代後半と思しき当時に木場が「女医」という単語に引っ掛かって気にする…というくだりは明らかにやり過ぎだろう(笑)。
論点はずれるが、かつて無毒とされていたヤマカガシが毒蛇であると公式に認められたのは1970年代のはず、それなのに門外漢の京極堂が”ヤマカガシには毒があるらしい(しかも2種類の毒!)”という主旨の発言をするのも、あまりに後出しじゃんけん感が強く、違和感が残る。

京極堂といえば、例に漏れず今作でも長広舌を打つシーンが何度もあり、言葉を選ばず評すれば、屁理屈めいた衒学が冗長過ぎて肝心のプロットがぼやけてくることも…というのももはや近作ではお馴染み? であるが、日本人の宗教観について語られている内容には首肯した。

そのプロットについて言えば、さすがに微に入り細を穿ち、水も漏らさぬ完成度に仕上げられている。
これだけ複層的で枝葉が四方八方に伸びた巨大な楼閣を破綻なく組み上げる手腕には、心の底から恐れ入る。
そしてこれも解説で小川氏が触れられているが、「巷説百物語」シリーズとの繋がりが明白に示されたという点において、古くからの読者にとっては嬉しいばかり。
私も読んでいる最中、なんとなく引っ掛かりというか、記憶の引き出しの奥をつんつんとつつかれているような感覚を随所で得ていたように思うが、最後の最後で笹村市雄が姿をくらます際の所作を見るにつけ、はっきりと自覚された次第。
なるほど、市の字か…。

「信仰は人が生きるための、生き易くするための方便です。(後略)」
「(前略)でも宗派も何もなくたって、信仰心と云うのはあるのじゃないかな。結局はそれが常に下地としてあると云うか――」

「畏れ、崇め、敬うべき対象だよ。この土地では山――なのかもしれない」

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2025年06月12日

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