【感想・ネタバレ】略奪される企業価値―「株主価値最大化」がイノベーションを衰退させるのレビュー

あらすじ

真犯人は「自社株買い」。
「企業が資金を調達する場所」ではなく、「企業から資金を吸い上げる場所」と化した株式市場。
持続不可能な「略奪的価値抽出」の仕組みが企業を滅ぼす。
シュンペーター賞・マッキンゼー賞を受賞した企業組織論の権威による明快かつ緻密な分析。

本書は、30年もの経済停滞に苦しむ日本の経済政策担当者たちや経営者たちにとっては、計り知れない重要性を持っている。なぜならば、彼らがずっと追い求め、そして得られなかった「革新的企業」の理論がここにあるからだ。特に、近年は、企業の株価は過去最高値を更新して上昇し、企業の利益も好調と言われているにもかかわらず、実質賃金は下落を続け、消費も低迷するという現象が起きている。なぜ、そのような現象が起きているのか。その答えを、本書の「革新的企業の理論」が明らかにしているのである。――中野剛志「日本語版解説」より

1980年代以降、「株主価値最大化」イデオロギーが企業や経営者の行動原理を支配するようになった。そのため、「価値抽出」の制度である株式市場を介して、「価値創造」制度である企業から「価値」を「略奪的に抽出」することが常態化した。この「略奪的価値抽出」の最たる例が「自社株買い」である。
このことが、企業のイノベーションを妨げ、雇用を不安定化させるなど、経済、政治、社会に様々な弊害をもたらしていると指摘。そのうえで、社会の持続的な繁栄を取り戻すべく、「株主価値最大化」イデオロギーに冒されたコーポレート・ガバナンスを全面的に改めるべきである、と論じる。
一般的に、株式市場は、企業が生産能力への投資を行うための資金を供給し、価値を創造する制度だと考えられている。これに対し本書では、株式市場は企業から価値を抽出する制度に成り果てている、と断言する。
本書のような指摘は、これまでもあったが、「革新的企業の理論」や、「内部留保と再投資」対「削減と分配」といったラゾニック独自の視点から明快かつ緻密な分析を加えているところが、本書の愛大の特徴であり、説得力を与えている。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

内部留保と再投資、から、削減と分配、へ変化したことがイノベーションが起きないことの原因である。
完全競争状態の矛盾=どうやって独占が出現するのかを説明していない。企業の生産性の違いを考慮していない。

シュンペーターは、完全競争は劣った者であり、理想的な効率性のモデルではない=イノベーションの道筋がない。
イノベーションは不確実、集団的、累積的、なもの。

特許は幼稚産業保護論の関税と同じ。イノベーションの理論を前提にしている。
過去には、そのように保護して生まれた巨大産業がたくさんあった。パシフィック鉄道、AT&T、航空路線、高速道路、インターネット、など。インフラ投資として、大学(1862年のモリルランドグラント法により、土地が隔週に付与された)。農業試験場、衛生研究所、など。

もともと株式市場の役割は、投機資金の調達ではなく、オーナー企業の出資者への投資回収手段だった。今は、所有と経営の分離によって、資金調達の場となっている。
そのため、企業の目的が価値創造ではなく、価値抽出変化した。M&Aのための通貨としての株式。
ストックオプションの普及。ストックオプションを貰うことで、株価の上昇と経営陣の利害が一致した。
株主価値の最大化=株主は唯一の残余請求権者。

株式市場を動かす要因がイノベーションではなく、投機や株価操作になった。
自社株買いをすることで、株価が上がる=ストックオプションを行使するチャンスになる。

企業は確定拠出年金にして、キャッシュアウトを容易にした。
公的年金は確定給付型なので、積立不足の可能性がある。そのため株主行動として市場から高い利回りを要求する。機関投資家は、価値創造と価値抽出の違いがわからない。価値抽出しても株価が上がれば利害は一致する。
株主価値最大化というスローガンは価値創造と価値抽出を区別できない。
巨大インデックスファンドは議決権行使助言会社のいいなりになる。その結果、価値抽出に拍車がかかる。
ヘッジファンドのアクティビストはさらにそれに加担する。
一般株主は、常に市場から逃げられるので、リスクを負っていない。エージェント理論のリスク負担者は、一般株主だが実は、そうなっていない。

提案事項
自社株買いの禁止、経営者報酬の再設計、株式型報酬の禁止。
ビジネススクールで、エージェント理論ではなくイノベーション理論の教育をする。
株主民主主義が破綻している。法人税制の改革。

ストックオプションと自社株買いの組合せが、イノベーションへの傷害になっている。価値を奪い取る組織。
日本も,失われた30年の間に、それを追従した。
1997年ストックオプションの導入、自社株買いが取締役会で決定できる、労働者派遣法、確定拠出年金、NISAの導入、など。
ガバナンスコードでROE経営を重視すると、株主還元で分母の自己資本を毀損する方が、ROEが高くなる。

金融機関との関係が深い旧来型の企業と、外国人株主の影響が強い企業では、賃金のレベルが違う。
配当金は6.2倍に増えたが給与は0.96、設備投資も同じくらい減った。

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2024年12月24日

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