【感想・ネタバレ】気候変動と社会 基礎から学ぶ地球温暖化問題のレビュー

あらすじ

深刻化する地球温暖化問題の解決に向けて、私たちは何ができるだろうか? 気候変動の原理から温暖化対策、持続可能な開発まで、平易かつ体系的に解説した本書により、私たちを取り巻く地球環境とそこで暮らす私たち人間社会の現在と未来を俯瞰的に学ぶことができる。


【本書「はじめに──「気候変動と社会」を学ぶ意義と本書の意図」より】
公正な社会の構築、健全な環境の保全、そして健やかな経済の発展は持続可能な開発の3側面であるが、気候変動対策と持続可能な開発との間には相乗効果もあればトレードオフもある。そうした地球環境と人間社会の相互連関の理解には、理学、工学、農学、医学などを含む自然科学や理系のいわゆる実学から、法学、経済学、哲学などを含む人文社会科学にいたる、広範な学術分野に関する知見が必要である。
――(中略)――
本書は基礎的な内容を体系的かつ平易に解説する大学初学者向けの教科書として企画された。気候変動対策や生物多様性の保全と持続可能な開発との一体性に鑑み、健康維持や食料・エネルギー・水の安定供給、生態系など地球環境保全や持続可能な開発についても体系的に学べるようにし、最新の情報を盛り込むと同時に、要素間の結びつきや考え方の解説にも重点を置いた。


【主要目次】
1 気候変動と社会
1.1 そもそもなぜ気候変動か
1.2 世界と日本の気候変動に関わる社会経済指標の推移
1.3 気候変動をめぐる世界の状況の変化
1.4 気候変動問題の推移
1.5 気候はどう変わってきたのか

2 気候、生態、社会というシステム
2.1 気候システム
2.2 生態システム
2.3 人間システム

3 気候と社会の将来シナリオ
3.1 気候の変化を「予測」するとは?
3.2 社会変化のシナリオと気候変化をもたらす「強制力」
3.3 地球温暖化の理論とシミュレーション
3.4 工業化以降現在までの気候変化
3.5 21世紀末またそれ以降の将来の気候変化
3.6 カーボンバジェット

4 気候変動の人間社会と生態系への影響と適応策
4.1 影響と適応の考え方
4.2 各セクターでの影響評価・適応策

5 気候変動の緩和策
5.1 GHGの排出構成(世界と日本の比較)
5.2 エネルギーシステム
5.3 各部門で有効な緩和オプション
5.4 CO2以外のGHG対策
5.5 CO2除去
5.6 緩和策の総合評価

6 気候変動緩和政策と持続可能な開発
6.1 なぜ政策が必要か
6.2 国内政策
6.3 国際枠組み
6.4 気候変動と持続可能な開発

7 わたしたちに何ができるか?
7.1 個人の変化とシステムの変化
7.2 では、わたしたちにできることは何か?

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Posted by ブクログ

研究者を目指す学生向けという名目なので、答えが書いているわけではないが、それでも役に立つ記述が多い。辞書的にも使える。

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2024年10月14日

Posted by ブクログ

気候変動について入門したいと思って読んでみた。環境のためには牛肉を食べない方が良いなど、どこかで見たような話が体系的に展開されており、とりあえず読んでおいて損はない内容だが、やはり本の性質上浅く広くとなっている。参考文献リストが非常に充実しているので、この点はありがたかった。

木野佳音氏のコラム1.5で「人新世」という用語が、「2024年3月,第四紀層序学小委員会が人新世作業部会の提案書を否決し,人新世が正式な地球科学の擁護となることは立ち消えた.」(39頁より引用)という状態になっていたことを本書で初めて知った。

個人的に本書で一番印象に残ったのは、第6章第1節の成田大樹氏による、気候や大気には所有権を設定するのが困難であるため、市場を通じて解決することができない(186-187、188頁)という主張だった。

“ まず議論の出発点として,社会に存在する多くの財やサービスについては,市場メカニズムの働きにより,とくに政策介入なしに適切な資源配分が実現されていることを思い起してみたい.たとえば,生鮮食料品(トマトなど)のような通常の商品については,生産者と消費者の間で自由に価格決定がなされることで,生産者による供給と消費者の需要が調整され,双方にとっての利益の最大化をもたらす状況が自発的に創り出される.しかしながら,このような人々の間の市場取引を通じて気候変動問題が自発的に解決されるということはない.気候変動が社会問題となってしまう理由の最も根底にあるのは,温室効果ガス(GHG: Greenhouse Gas)の排出主体と被害者の間で「好ましい気候」を直接売買することができないという,「市場の不在」の問題があるからということができる.これは言い換えると,気候や大気中のGHGについて,所有権の設定が困難であるということである.
 では,なぜ「気候」や「大気中のGHG」について所有権を設定することが困難なのだろうか.その主要な要因としては,気候変動問題が持つ「外部性」という特質と,気候システムが「公共財」であるという性格が挙げられる.
「外部性(技術的外部性)」とは,ある個人や企業の生産や消費が市場を介さずに他者の利益や費用に影響を与えることを言う.気候変動問題においては,GHGの排出主体が引き起こす気候変動に関して,その被害者に直接対価を支払う仕組みが存在しないので,負の外部性(外部不経済)があると考えることができる.なお,外部性を有する環境問題の解決には公共政策が常に必要になるのかというそういうわけではない.たとえば公害調停のように,地域の特定の環境問題について規制当局の関与なしに当事者間の交渉によって問題を解決する方法は存在する.しかしながら気候変動に関しては,現在および将来に地球上に存在するあらゆる人々が当事者となる問題であり,司法的手段を用いて当事者間での直接交渉や取引を実現することは不可能である。”
(成田大樹「6.1 なぜ政策が必要か」東京大学 気候と社会連携研究機構〔編〕『気候変動と社会――基礎から学ぶ地球温暖化問題』東京大学出版会、東京、2024年7月26日初版、186-187頁より引用)

成田氏は不可能であるというが、これは、裏を返せば大気に所有権を設定することができれば、市場を通じて解決することも可能だということである。大気に所有権を設定することが果たして可能なのか、あるいは望ましいことなのか、他に国家の政策以外での解決策があるのかについては何とも言えないが、21世紀半ばのアナーキストやリバタリアンにとっての最大の課題の一つとなるのはここだと感じる。

他に、運動論ないし戦術論になるが、企業の株式を買って株主総会に参加するという形での気候変動との関わり方が挙げられている。

“ また,個人として預金の預け先を選んだり(気候変動対策が不十分な銀行に対して批判の意味で預金を引き揚げれば「ダイベストメント」になる),株式を購入する手もある.実際に,2020年に気候変動問題に関心を持つ大学生がある銀行の株式を購入して,株主総会で気候変動対策について質問したことがある.このように,株主や顧客として企業に関与して質問したり意見を言う「エンゲージメント」は個人でもその気になればできる.”
(江守正多「7 わたしたちに何ができるか?」東京大学 気候と社会連携研究機構〔編〕『気候変動と社会――基礎から学ぶ地球温暖化問題』東京大学出版会、東京、2024年7月26日初版、230頁より引用)


日本の総会屋は21世紀初頭に消滅した。それは総会屋と今でいう反社会的勢力との繋がりを思うにそうなるべくしてそうなったのであろうが、「株主総会に参加して会社の所有者として経営陣に物申す」という行動様式自体には、多くの問題があった総会屋から批判的に学ぶべきものがあったのだと感じた。

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2025年10月28日

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