あらすじ
十代のあなたに会いにいこう。
声を殺して泣いた日も、無理して笑ったあの日も。
ぐっと押し込めた心の痛みを、君嶋彼方は掬いとる
■収録作品
走れ茜色 「僕と同じ人を好きな君。だからこの嘘は、絶対に隠し通す」
樫と黄金桃 「中学時代の忘れたい過去。あの子だけがそれを知っている」
灰が灰に 「屋上で出会った不良。みんな怖がる君の本心を知ってみたい」
レッドシンドローム 「偶然見つけてしまった親友の裏アカ。一体どうしてこんなこと」
真白のまぼろし 「初めて漫画を描いていると話せた友達。一緒に描こうと決めたのに」
青とは限らない 「唯一心を許せる男友達。男女の友情って成立しないの?」
大人になれば忘れてしまう、全力でもがいたあの日のこと
『君の顔では泣けない』の著者最新作
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Posted by ブクログ
とある高校の、とある教室。冬木先生を担任にもつ生徒たちの、ままならない学校生活が連作短編になっている。
大人でも子どもでもない十代後半、みんないろいろあるよねーなんて半ば退屈しつつのんきに読み進めていたのだが、最終話を読んで驚愕することになった。
え、え、10年前にLINEを使ってたような高校生が、もう26歳になって学校の先生をしてるってこと!?
種明かしというか、その時の流れの速さにひっくりかえりそうになった。信じられなくて調べたら、LINEがサービス開始したのは13年前なんですって……。そうかぁ、そんなに昔かぁ。
時代が交錯するタイプの叙述トリックとして使われるほどの年月が経って、それにまんまとひっかかるなんて、年老いるってこういうことなのか……なんて、衝撃を受けてしまった。
そして、姫ちゃん先生と芥川先生だけじゃなく、他の短編にでてくる生徒も同じように10年前のクラスメイトで、一冊のなかで交互に時代が行き来していたなんて二度目三度目の驚きだった。
慌ててページを遡ってみると、伏線もちゃんと綺麗にちりばめられておりました。
たしかに少しひっかかる部分あったもんなーというのは負け惜しみか。まさか冬木先生が水先案内人とはね。
けれど、その事実を知るまえも知ったあとも、ストーリーに違和感はまったくない。
読みながら、ついつい自分が高校生だったころの姿もこのクラスの中に投影していて、あのころの感情や景色がよみがえってきた。
だから結局のところは、高校生っていつの時代も変わらないものなのかも。
時代を超えて、そこに集う者たち。どれだけの月日が経ったとしても、私たちはいつでもまた帰ってくることができる。タイトル『春のほとり』は、そういう普遍性を言い表しているように思えた。
「十代のあなたに会いにいこう。」は名キャッチコピーで、きっと現役の高校生が読んでも、大人が読んでも何かが響いてくるはず。司書として、図書室で薦めたくなるような一冊だった。
君嶋彼方という作家は、今の若手の中ではもっとも感性が鋭いというか、センサーやアンテナのようなものの精度が高いような気がする。
時代を反映させるのが巧いというか、こういった多様性とかジェンダーを題材にする作品において、完成度がいずれも頭ひとつ抜けてる印象。
恋愛、友情、家族、そういう既成の名前がついていない関係性を、こうやって小説という形にしてどんどん開拓していってほしい。これからも読みつづけます。