あらすじ
人の心は分かりませんが、 それは虫ですね――。
ときは江戸の中頃、薬種問屋の隠居の子として生まれた藤介は、父が建てた長屋を差配しながら茫洋と暮らしていた。八丁堀にほど近い長屋は治安も悪くなく、店子たちの身持ちも悪くない。ただ、店子の一人、久瀬棠庵は働くどころか家から出ない。年がら年中、夏でも冬でも、ずっと引き籠もっている。
「居るかい」
藤介がたびたび棠庵のもとを訪れるのは、生きてるかどうか確かめるため。そして、長屋のまわりで起こった奇怪な出来事について話すためだった。
祖父の死骸のそばで「私が殺した」と繰り返す孫娘(「馬癇」)、急に妻に近づかなくなり、日に日に衰えていく左官職人(「気癪」)、高級料亭で酒宴を催したあと死んだ四人の男(「脾臓虫」)、子を産めなくなる鍼を打たねば死ぬと言われた武家の娘(「鬼胎」)……
「虫のせいですね」
棠庵の「診断」で事態は動き出す。
「前巷説百物語」に登場する本草学者・久瀬棠庵の若き日を切り取る連作奇譚集。
感情タグBEST3
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面白かった!本から知識を得る人と、知識はないが世の中や人をよく知る人。この2人が合わさるとこうまでプラスに作用するのか。
京極夏彦さんは百鬼夜行シリーズしか読んだことがなかったが、こんなにライトですいすい読める本もあるのかと感動(百鬼夜行は読み応えがあってそれはそれでいい)。また本編の前巷説百物語も読んでみようかな。
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連作短編8編
「針聞書」なる珍しい書物から虫に絡めて長屋で起こる問題事件を解決していく.
隠居の子,長屋の差配をしている藤介と店子の棠庵の噛み合わないようで息のあったやり取りの面白さがとてもいい.
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西を向く=死ぬ
映像がありありと浮かんできてぶ厚いけどさくさく読める
久瀬棠庵かっちぇー!しびー!近所にいてほしー!
自分は病葉だっちゅー棠庵さんと、欠けてるところは違うけども自分も病葉だっちゅー藤介の関係めっちゃいいなー!
長屋住まい楽しそう!
脾臓虫かわいい
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虫。時代もの。虫も妖怪もその当時からしたら似たようなもの。病気も虫も同じ。終わってしまった巷説と同じ時代で嬉しい。藤助もとうあんもいいキャラ。
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実に楽しい小説だった。七つの短編集だが登場人物は何時も同じで時系列もあって良かった!江戸時代の貧乏長屋のお話しであり更に収載されている絵の出展訳ありだ。絵は九州国立博物館所蔵のものであり永禄11年に茨木ニ介の作画で体内に宿る虫に因んだ物語りには驚いた!
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また新しいキャラクターが登場です。というか、前巷説百物語に繋がりアリですが。
昔の人は、体調の悪さをあり得ない虫のせいにして記録していたんだなぁと。わからないなりに、物事を記録するのは大事だと改めて思った次第です。
語り部の差配さんが良い味だしてました。
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「前巷説百物語」につながる話、ということでやはり同じような重めの話かと思えば
はるかに明るくて軽い、宮部みゆきの時代ものの様な、江戸庶民が元気でわいわい騒がしい(楽しい)話だった。
シリーズ化されて、また百物語の面子と何処かですれ違ったりしたらシリーズ愛読者としては楽しいな。
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分厚いけど京極作品にしては読みやすい部類。
長屋に住む本草学者の棠庵と大家の息子藤助が不思議な事件を解き明かしていく。
棠庵の見た目想像図がだいたい南海先生。
虫のイラストがなんとも不気味かわいい。肺積ちゃんがお気に入り。
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義理と人情話。
とうあんと藤介が怪事件に投身していく。
一癖もある人達に囲まれがらも一本筋を通していく姿が印象的だった。
著者の割と新刊だったので楽しみにしていた。誰もがどこか病葉なんだと思いました。
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なんかこう、百物語のシリーズにちょっと似た。。。物事の不条理とかを「化け物」ではなく「虫」としてうまいことまとめるというか。それでいて京極作品にはめずらしくポップでなんかとぼけた味わいがある。登場人物の掛け合いが落語のようなおかしさが。
結構好きです。おもしろかったです。ボリュームのわりに読みやすく、小難しい感じが薄目でとても手に取りやすい一冊ではないでしょうか?シリーズ化とかするのかな?これは是非とも期待。
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掛け合いでサクサク進む短編集。
安楽椅子探偵ばりの推理力で事件の真相が明かされるので楽しめた。藤介が不憫だなぁと思いつつ最後一気に大活躍!人も死んだりしているけれどなんだかほのぼのした感じでした。
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最初は落語っぽいなと思ってちょっと読みにくかったです。
各話最初に書いてある虫が可愛いような可愛くないような。
病気の症状からこんな虫ではと想像した言うくだりがあってなるほど…想像力豊かなようで笑
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貧乏長屋の住人、久瀬棠庵が長屋の周囲で起こる事件を虫のせいにして解決する連作短編集。長屋の差配、藤介とその隠居親父がいい味を出している。京極本らしく分厚い本だが、巷説シリーズなどに比べるとライトな雰囲気なので読みやすかった。
なお、棠庵は「前巷説百物語」に登場しているそうだが、もうすっかり忘れているので読み返したい。
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貧乏長屋で起こる出来事の謎。困惑する差配の藤介を前に、
解き明かすのは、引きこもりの若き本草学者・久瀬棠庵。
「虫のせいですね」江戸の長屋を舞台にした連作奇譚ミステリー。
馬癇・・・祖父を殺したと孫娘は言った。
しかし棠庵は殺しではないと言う。
気積・・・長屋のおきんは己之助に虫が付いたと言った。
己之助は飯を食べられなくなって、塩を撒けと言う。
脾臓虫・・・同じ在所の娘が首を吊ったと幸助は言った。
彼女の勤める料亭で食事をした4人の死は虫?と伍平は言う。
蟯虫・・・金兵衛長屋での庚申講は虫のせいかと金兵衛は言った。
その講の人々の前で根岸は凶の対処法の咒を言う。
鬼胎・・・根岸との縁、棠庵が長屋に来た訳を藤左衛門は言った。
本当に鬼胎は鍼でしか治せないかと里江は言う。
脹満・・・店子仲間から勧められる縁談に困惑してると棠庵は言った。
「この人は飢えていますね」え、2倍も太ったのにと藤介は言う。
肺積・・・助けられた棠庵に会いたいとお登勢は言った。
すべては終わったのにお登勢はこの長屋に残ると棠庵は言う。
頓死肝虫・・・厄日か?殺しに誘拐等々、藤介は天手古舞に
振り回される。そんな彼に自分は病葉だと棠庵は言った。
藤介は奔走し知恵を絞って指図し、事件は解決へ。
あたしも病葉だよ。
あんたと欠けてる処が違うけどねと藤介は言う。
ある程度世間知はあるが、本気の度合いが緩い差配の藤介。
本草学者で知識はあるが、人の心が分からない久瀬棠庵。
そんな二人に、クセツヨな貧乏長屋の面々や、
藤介の父で隠居家業?が長い藤左衛門も交えての、
お江戸長屋が舞台の連作奇譚ミステリー。
花を添えるのは、石黒亜矢子の素っ頓狂な挿画。
「虫の所為ですね」「虫とは関係ありません」
長屋という狭い世間に関わる、人死、自殺、乗っ取りの謀、
誘拐等々が発生し、世間は広がります。
各話導入の会話は長くて、ちょっと煩わしいけれど、
落語の長屋噺での八っつぁん、熊さんの会話を念頭に置いて
読めば、なかなか面白く味わえました。
藤介と棠庵、なんか病葉バディ爆誕?
また『耳嚢』の作者が登場したり、著名人の名前が出てきたりで
棠庵自身の謎が深まったし、お登勢の今後を考えると、
続編が書かれる予感がします。いえ、書いて欲しいなぁ。
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江戸時代で、貧乏長屋の面々と差配さんとの掛け合いとくれば、落語ですね。京極作品らしい蘊蓄もでてきますが、妖怪ではなく虫ですから、いつもよりいろんなことがシンプルです。起きている出来事も剣呑ではありますが、人の浅はかさ特に欲がらみとなると、落語の定番ともいえましょう。
落語だと物知りはご隠居などのご老人が多いですが、本作では久瀬棠庵なる二十歳そこそこの長屋の住人です。博識ながら棠庵は人の気持ちが分からない、自分の心は欠けているといいます。しかし、藤介が指摘したように、余りにもいろいろ見通せるために一つ所に感情を寄せられないように思います。そもそも心なんて得体のしれない物です。自分の感情だってコントロールできない。そんなあやふやなものを頼りにするのは、判断基準としてはおっかないことかもしれません。とはいえ、法や理だけを基準にしたのでは、やはり割り切れないものも零れるものもあるのでしょう。まさに、智に働けば角が立つ情に棹させば流される。人の世は住みにくいですねえ。
しかも藤介が言うように、欠け方が違うだけでそれぞれみんな心の裡は歪なんだと思います。君も病葉、われも病葉。真理なんてものがお分かりの方はそれで宜しいが、そうでなければ欠けていることを自覚したうえで、道義的に譲れないことを基準にして、何とかやっていくしかないのかもなとか思いを巡らせました。
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見た目厚いのでちょっとビビりましたが、読んでみたら短編で、しかも読みやすかったです。ご安心を。もっと読みたいからシリーズになってくれればいいのに。
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登場人物に個性があって面白い。
さらに会話のやり取りが物語に拍車をかける。
まるで落語を聞いているようなテンポの良い会話が最高でした。
読み応えがあるページ数も感じさせない読み易さでした。
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藤介と棠庵の掛け合いがワンパターンのようで、少しずつ変化していく様子が面白い。
そして、毎回登場する虫たち。
本当に信じられていた虫が絵として記録されている様が興味深い。そして、それをミステリーにしてしまう時代物。
長屋の面々も個性豊か。あまり本をテレビ化して欲しくない派であるが、これはなんだか実現してほしい気もする。(ちゃんとした時代考証入れた上でなら)
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『巷説百物語』シリーズが完結した直後、京極夏彦さんの新刊が並んだ。帯には、『前巷説百物語』にも連なる謎解き奇譚、とある。
八丁堀近くに貧乏長屋があった。大家の息子である藤介は、店子を見回るのが日課。店子の中に、久瀬棠庵という風変わりな本草学者がいた。この長屋で、なぜか怪事件が続発し、その度に藤介は棠庵に頼ることになるのだが…。
読み進めると、『巷説百物語』シリーズとフォーマットが似ていないこともない。妖怪のせいにして丸く収める『巷説百物語』シリーズ。棠庵はどうするのかというと、虫のせいにしてしまう。もちろん、こんな虫は存在せず、むしろ妖怪に近い。
棠庵というキャラクターは、又市一派や中禅寺秋彦と比較すれば、人当たりは良いが、押しが弱い感がある。派手な演出もない。ところが、事件の構図が見えるとテキパキと人を動かし、ロジカルに謎を解き明かすのが意外といえば意外か。
時代設定等を除けば、いずれの事件もオーソドックスなミステリーの構図であり、棠庵の役割もオーソドックスな探偵役と言える。その点が京極夏彦作品としては異色ではないか。当然面白いのだが、戸惑いもあるようなないような…。
語り部の藤介は、『巷説百物語』シリーズの百介の役割に当たるが、百介ほど積極的に謎に首を突っ込むわけではない。しかし、野次馬根性がまったくないわけではなく、結局は顛末が気になって棠庵を訪ねる。読者代表的な語り部か。
そっち方面にまったく無頓着そうな棠庵だが、収入源といい人脈といい、謎が多い人物には違いない。いつまでこの長屋に留まるのか。本草学者は仮の姿なのか。一方の藤介は、いずれは隠居親父の跡を継ぐのか、いつまで棠庵に頼るのか。
聞き覚えのある人物は登場したものの、『前巷説百物語』にどう連なるのかはわからなかった。文藝春秋がシリーズ完結に便乗したのか? さて続編はあるか。
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長屋を差配しながら暮らしている、
薬種問屋の隠居の子、藤介。
長屋で起こる問題を店子の久瀬棠庵に持ちかけると、久瀬棠庵は「虫のせいですね」と、
全て虫のせいにして、いつの間にか全てを
解決していく。
落語のようにテンポよく話がすすんで面白い。
京極さんの話にしては、明るい話で読みやすく、
この話はシリーズ化するのだろうか。
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これは時間かかったなあ。まずタイトル読めないよね。棠庵の、生真面目だけど、どこか飄々としたキャラはいい感じ。藤介とのバディ感がいい感じ。『前巷説~』とのつながりはよく分からなかった。
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文章が洗練されてるので読みにくさは全くない。
ただ内容は特質すべきものではない。
少し間延びすると言うか、ちょっと読んでて飽きてくる。
淡々と読み終えた感じ。
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長屋やその周囲で起こる事件を虫のせいにして解決していく連作短編集。
物理的には重かったけど、話の内容的にはサラッと読めて爽やかな読後感でよかった。
久瀬棠庵は前巷説百物語に出てきてたらしいけど記憶が……読み返そうかな。
棠庵と藤介のバディも良い感じだったし、シリーズものになったらいいなぁ。
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京極夏彦作品で初めて読んだこちら
立場があやふやな長屋の大家さんもどきと、主に病など色々なことに詳しいけど職業も素性もよく分からない店子さんがメインの登場人物
途中噛み合わない会話にクドいよ!と思いつつも、1話完結の短編集でサクッと読みやすかった
最後は大家さんがビシッと決めて話が綺麗にまとまったとこも良かったですね
大きな山場や感動はなかったけど、おあとがよろしいようでといった爽快な締め方が良かったです
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SL 2024.10.8-202410.11
本草学者、久瀬棠庵が解く事件を、長屋の大家の息子、藤介が語り手になって描いていく連作短篇集。
事件を「虫」に落として解決していく。
これまでの作品に比べると軽くて明るい。こういうのもいいね。
久瀬棠庵、前巷説百物語に登場していたらしいけど、さっぱり覚えてないなー
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ここのところ、“どうしました?”という勢いの刊行ラッシュだった京極センセ。
(多分、デビュー30周年がらみということなのでしょうけどね・・)
本書は江戸の長屋を舞台にした謎解き奇譚、連作八話が収録されております。
慣れているとはいえ、やはりこの分厚さに“重っ(物理)”とはなりますが、内容的には連作短編ということもあってか、サラサラ進む読みやすさでございました。
〈藤左衛門長屋〉の家主(藤左衛門)の息子で、差配の藤介が語り手となって、長屋で起こった謎や事件を、店子でもある本草学者・久瀬棠庵が真相解明していく展開でございます。
で、棠庵が探偵、藤介がワトソンという役割なのですが(京極堂シリーズでいうところの中禪寺と関口、巷説シリーズでの又市と百介ってところですかね~)まぁ棠庵は日がな一日部屋に引きこもっているので“安楽椅子探偵”という感じですね。
因みに、このクセツヨ本草学者・棠庵は『巷説百物語』のエピソード・ゼロといえる『前巷説百物語』にも登場していて、本書は彼の若き日の姿が描かれているということになります。
「京極堂」や「巷説」では事件の解決において元凶や因を“妖怪”のせいにして丸く収めていくパターンでしたが、こちらの棠庵は「虫」(昆虫みたいなリアルな虫ではなく“塞ぎの虫”とか“疳の虫”の「虫」です)のせいすることによって、事件が収まるところに収まっていくというところがポイント。
真相は突き止めるけど、敢えて煙に巻くのはお馴染みの“京極スタイル”ってところですな。
基本棠庵が謎解きをするのですが、八話「頓死肝虫」では藤介が奮起して事件解決するという話で、“藤介、やるな!”と彼の活躍に嬉しくなりました。
ところで、こちらは体としては“謎解き譚”なのですが、京極さんが本書についてのインタビューで「ミステリというより落語」みたいな事を仰っていたように、キャラたちの“テンポ良くかみ合わない”掛け合いが落語っぽいかも・・と思いました。
(あ、まわりくどいのはお約束です~笑)
ということで、結構ライトに読めちゃう“謎解きモノ”で楽しませて頂きました。
まだフィーチャーされていない店子もいるようですし、棠庵と根岸奉行との関係も気になるので、是非続編も出して頂きたい・・何ならシリーズ化しても良いかも、と思った次第です~。