【感想・ネタバレ】狼の牙を折れ 史上最大の爆破テロに挑んだ警視庁公安部のレビュー

あらすじ

公安捜査官「実名」ノンフィクション。

50年にわたって逃亡を続けた桐島聡が死の間際に名乗り出たことで改めて注目されることになった「東アジア反日武装戦線」。

1974年、東京・丸の内、三菱重工ビル。昼休みを終えようとするオフィス街に轟音と爆風が駆け抜けた。瞬く間に立ち込めた白煙、正視に耐えない遺体、身動きできない重傷者の上に容赦なく砕けたガラスの破片が降り注いだ。

現場に駆けつけた捜査官は、爆発の衝撃でコンクリートに生じたすり鉢状の孔に向かって心の中で語りかけた。

おまえら、やるのかよ。こんなことやっても世の中はなんにも変わりゃしないんだよ。なんでこんな罪もない人たちを殺すんだ。俺たちが「受けて立たなきゃいけない」じゃないか――。

犯行声明を出したのは「東アジア反日武装戦線“狼”」。11件に及ぶ連続企業爆破事件の嚆矢だった。

史上最大のテロ「三菱重工業爆破事件」を引き起こした謎の犯人グループは、天皇暗殺まで企てていた。「狂気の犯罪」に警視庁公安部はどう立ち向かったのか。

捜査の指揮を執った土田國保警視総監の日記を初公開。日本で初めての公安捜査官「実名」ノンフィクション。

解説:佐々木類

※この作品は過去に単行本として配信されていた『狼の牙を折れ~史上最大の爆破テロに挑んだ警視庁公安部~』 の文庫版となります。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

このページにはネタバレを含むレビューが表示されています

Posted by ブクログ

ネタバレ


事件のおよそ五ヶ月前に公安の手に渡り、差し押さえ令状の出た「こと細かに爆弾の材料、作り方や、注意事項、そしてどのように大衆の中に溶け込んで爆弾闘争を展開するか、その方法論や心構えまで、詳細に書かれていた、、、闘争用の爆弾教本」である『服服時計』

犯人像に迫るために集められた頭脳集団は「『服服時計』の裏に潜むものを炙り出せ。文章から、文脈から、抱いている思想を読み解いて、誰がこれを書いたのか、影響を受けたのはどんな思想なのか、どういう人間の影響を受けたのか、それを徹底して分析せよ。誰が書いたのかがわからなくても、どういう思想のやつが書いたのか、そこに辿りつけ。左翼の論文の葉脈から、あらゆるものを割り出していけ」「いいか、読書百遍だぞ。何度でも読み直せ。百遍でも二百遍でも、文章を諳んじるぐらいまで読み込め」と指示される。そして読み込み読み込み、執念で「窮民革命論」がその底に流れている思想であり、「欠落」しているものは組織であり、「アナキスト」というどこのセクトにも属さない無政府主義者達の存在を浮かび上がらせていく。

「日本共産党臨時中央指導部が武装闘争を展開していた頃に、時限爆弾や火炎瓶などの製造法を記した『栄養分析表』という爆弾教本を出したことがあり、、、犯人グループは、明らかにこれを参考にしていました。また彼らは、塩素酸カリウムとワセリンとパラフィン混合して〝セジット”と呼ばれる爆薬をつくり、それを白色火薬に混ぜていました。これは、事件の三年ほど前にオーム社というところから出版された『火薬と発破』という本を参考にしています。彼らが何を参考にし、何を利用したか、解析によって次々とわかってきました。」「犯人グループは、思想や理論だけではなく、その技術力も徹底して解析され、次第に丸裸になっていった」

そして、捜査官たちの血の滲むような苦労の末に証拠づけられていった書類が逮捕状として形となる。全部で七人分。捜索令状二十本。フィクションではない犯人と公安の息詰まる攻防戦が、読む者の心臓を高鳴らせる。

エピローグで、三菱重工爆破事件当時、中学三年生で父を失った息子さんの話が綴られる。
「この長い歳月、心の中に熾火が残った中で生きてきたような気がする。気持ちが昇華されることはなくて、いつまでも熾火のままなのである。」「あの事件で収監されている人間は、死刑が確定したまま執行されず(後に、一人が獄中にて病死)、また、一方、国外逃亡中(超法規的措置にて釈放)の人間は、いまなお、逮捕されていない。」「そうだ、まだ捕まってないんだ。まだ、死刑になってないんだ」
遺族の無念を思い、涙が流れる。

私が生まれた年あたりから安保闘争が始まり、一連の爆破事件やあさま山荘事件は、子供時代に何もわからぬままニュースで見た記憶がある。
その後、大学生になってからノンフィクション物として赤軍派の事件やキューバ革命等の本を読み漁り、今に至っても、オバマやクリントンの思想に多大な影響を与えたとされるアリンスキーの革命論を読んでみる。

あとがきで門田隆将氏が「なぜ母国が崩壊することを望むのか。私にはどうしても理解できないのである。」と記しているように、私自身もそれを知りたいからだ。

成功することのない暴力革命から文化革命へと舵を切った活動の本質。知らぬ間に洗脳されて、活動に巻き込まれていることさえ気づかずにいる、幸せを求める純粋な一般市民。私は騙されたくないから知りたいのだ。

0
2024年08月20日

「ノンフィクション」ランキング