【感想・ネタバレ】南アルプス山岳救助隊K-9 愛と名誉のためでなくのレビュー

あらすじ

八ヶ岳で山岳救助に従事する隊員・深町の友人が、登山界で権威ある賞を受賞した。彼の父親もまた登山家であり、息子に技術を惜しみなく伝えたからこその栄光だった。だが、ある日、その父親が姿を消した。周囲の人間は行方をなかなか掴めなかったが、深町だけがある確信を抱き、隊員達と北岳に向かう(表題作) 救助隊と3匹の救助犬たちの懸命な活躍を描く、バラエティに富んだ8つの連作短篇。

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Posted by ブクログ

樋口明雄『南アルプス山岳救助隊K-9 愛と名誉のためでなく』光文社文庫。

今度は光文社文庫から初のシリーズ刊行。2ヶ月連続刊行のシリーズ第14作。今回は短編8編収録。

いずれの短編も、山での様々な人びとの想いや人生、生命を削るような山岳救助の過酷さが迫力を持って描かれる。短編と言えど十二分に長編並みの読み応えがあるのだ。これは一重に樋口明雄の山への強い想いと筆力のなせる技であろう。相変わらず、素晴らしい作品だった。


『第一話 孤老の山』。老人が道迷いで崖から滑落した老人が山岳救助隊の星野夏美と山岳救助犬のメイによって無事救助されるシーンには思わず涙した。極めて単純なストーリーなのだが、何故か感動してしまうのだ。息子夫婦から邪魔者扱いされる83歳の和泉仙造は、たまたま耳にした嫁の冷たい言葉にいたたまれなくなり、死に場所を求めるかのように北岳を目指す。

『第二話 愛子とアイコ』。サスペンスフルな短編。愛犬と共に登山していた岡崎愛子からダックスフントのアイコが行方不明になったと連絡が入る。進藤諒大は新人救助犬のリキと共に捜索を行い、無事アイコの捕獲に成功する。しかし、アイコを探しに行ったのか今度は岡崎愛子の姿が見えなくなる。進藤はリキと共に岡崎愛子の行方を捜すが、思わぬ事態が待ち受ける。

『第三話 銀嶺の彼方に』。冬山登山となると生死に関わる危険が付き物であるが、残された家族の悲しみは幾ばくのものだろうか。神崎静奈の通う空手道場の最高師範である嘉門康志の妻の道代が八ヶ岳の阿弥陀岳で雪崩に巻き込まれる。遭難から既に3日が過ぎ、道代の生存が絶望視される中、神崎静奈は山岳救助犬のバロンと共に必死に捜索を行う。

『第四話 影なき男』。ミステリアスなサスペンス仕立ての短編であった。北岳で3人が同じ場所で滑落し、2人が死亡、1人だけが生き残る。この事故について調べるうちに第4の人物の存在が浮かび上がり、次第に過去に起きた山岳事故との関連が見えて来る。

『第五話 愛と名誉のためでなく』。表題作。山は人の心の内を全てを見透しているのかも知れない。息子の受賞に気遣う父親の気持ちは解らぬではないが。深町敬仁の友人で世界的な登山家の荻島裕悟が登山界の権威ある賞を受賞する。彼の父親の宗輔もまた登山家であったが、ある日、突然、姿を消してしまう。

『第六話 COLD WAR』。まさか山岳小説の中に国際問題を絡めて来るとは。確かに戦後80年となるのに米軍による横暴は目に余る。日本政府が下手に出るから彼奴等は付け上がるのだ。冬の北岳を掠めるように飛行する3機の米軍機。米軍機の爆音により誘発された雪崩がバックカントリースキーを楽しんでいた2人の若い男女に襲い掛かる。救助要請を受けた深町敬仁と星野夏美とメイが救助に向かうが、再び米軍機が近付く。

『第七話 南アルプスの山賊』。スリル溢れる、なかなか面白い短編だった。シルベスター・スタローンの映画『ランボー』、或いはディヴィッド・マレルの原作小説『一人だけの軍隊』を思い出した。南アルプスの避難小屋を根城にする山賊。登山客を次々脅し、金品や食糧を奪う男は元陸自のレンジャー部隊に所属していた。男を確保するため、星野夏美がメイと共に現地に向かう。夏美では元レンジャー部隊の男に立ち向かうのは難しいと神崎静奈が急行するが……

『第八話 両俣綺譚』。両俣小屋の管理人である加賀美淑子のモデルは、先に読んだ『41人の嵐 台風10号と両俣小屋全登山者生還の記録』の著者である桂木優こと星美智子であろう。ある日、両俣小屋の管理人である加賀美淑子は麓の店で買い物をした帰り道で、熱中症で倒れていた男を助け、両俣小屋へと向かう。その男は本間龍太郎と名乗るが、山小屋のアルバイトスタッフの金谷悦夫と何やら関係がありそうだった。

本体価格840円
★★★★★

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2024年09月03日

Posted by ブクログ

お久し振りに<南アルプス山岳救助隊K-9>シリーズ、12冊目。
今回は山岳救助隊と救助犬のレスキュー活動の日々を描く8つの短編集。

「孤老の山」「愛子とアイコ」「銀嶺の彼方に」
最初の3話は要救助者の捜索・救助の話が中心になり、怪我したり亡くなったりしている人も出てくるので、どれもよい話だが、いささかしんみりした話が続く。
ここまでは、まあ水準。

「影なき男」「愛と名誉のためでなく」
ここから、過去にも登場した山梨県警や南アルプス署の刑事たちが登場するミステリー仕立ての話が続く。
とりわけ、場面切換えがスピーディーで長編をギュッと凝縮したような展開の第4話が良かった。
いつもは見上げるだけのバットレスだが、第5話ではそこを登攀する場面が出てくるのが珍しく、その描写だけでホーッと息つく緊張感あり。

「COLD WAR」
雪崩に巻き込まれたカップルの救助に、間一髪で間に合うと分かっていてもハラハラ。戦闘機も恐れぬ〈はやて〉の操縦士の心意気に胸がすく。
救助劇とは別に、低空飛行する米軍機の姿には、かつての戦争や日米安保条約に頼るこの国の課題、今世界で起こっている紛争が思い起こされる。
敗戦から80年、いまだ戦後が続いており、また新たな“戦前”が訪れているかもしれないという作者の懸念や世界のどこにあっても戦争が起こってはならないという作者の思いが強く伝わってくる。

「南アルプスの山賊」
これは静奈との一騎打ちかと思えば肩透かし、さればメイが飛びかかるにはナタが怖いぞと思ったらそれもなく、活劇を期待したのであの結末にはやや脱力。

「両俣奇譚」
山岳救助隊が一瞬しか出てこない異色作。
追う者の執念と追われる者の諦観が織りなす奇妙な関係に山小屋を管理する女性と猫が絡んで味わい深い話になった。

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2025年04月04日

Posted by ブクログ

このシリーズの前の作品も読みたいけど、色んなところから出ててややこしい、、、
本屋さんに行った際はとりあえず見てみよ。
もうちょっと、イヌ出てきてほしい。

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2024年11月23日

Posted by ブクログ

様々な出版社から発売されているK-9シリーズが、初の光文社から。
短編から構成されていて、山岳救助隊の話もあるが、山で生計を立てる他の人たちの物語も描かれていて、今までシリーズとはまた違った楽しみも。
「レスキュードック・ストーリー」だったかな?
それに近い感じ。

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2024年11月14日

Posted by ブクログ

同月にK-9シリーズを2冊も読めるとは、ファン冥利に尽きる。
本書は8話からなる短編集。どの短編も読み終えるのが惜しいという気持ちが拭えない。
なかでも第6話『COLD WAR』は、スリルとサスペンスに満ち、印象深い。
冬山訓練とパトロールに当たっていた星野夏実と神崎静奈は、北岳バットレスの壁面ぎりぎりに飛ぶ米軍機に出会う。一度ならず二度目の低空飛行では雪崩を引き起こし、登山者が巻き込まれる。
夏実たちの必死な捜索で彼らを助け出すが、軍用機の低空飛行は以前から問題となっていたようだ。
深町隊員の「つまり・・・戦後80年となろうというのに、依然として、この国の空は米軍のものということなんだ」との言葉に、夏実たちとともに唖然とする。
江草隊長も、昭和31年の『経済白書』に”もはや戦後ではない”と書かれているがそんなことはない、今も戦後は続いているし、また新たな”戦前”が訪れているのかもしれない、と確信する。
「本当に終わったのだろうか、あの戦争は・・・」と、江草隊長がつぶやく言葉は、心に留めておかなければならないだろう。

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2024年09月09日

Posted by ブクログ

なるほど。著者のあとがきを読んで初めて合点がいった。
天空の犬K-9シリーズの新作は8篇からなる短編集。

一つ一つの作品が、短編ではなく長編として書かれても違和感がないほどに内容が濃い。
ページ数が膨らめば、シリーズとして何作品かにできるほどの面白さ。ひとつ一つの作品を堪能し、これなんで短編なんだろうと考えていたら、あとがきに小説誌に連載された作品を集めたものとあり、初めて合点がいったというわけ。

山岳小説とはいえ、警察小説でもあるという性格上、そこには犯罪があり、犯人が出てくる。
しかし、犯罪事件を解決してよかったねという話ではなく、物語の結末に優しさがあった。
八ヶ岳の自然がベースにあるからなのか?

長期シリーズになったことにより、登場人物は成長していく。ひとより早く老いてしまう犬たちも例外ではない。
そうか、そんなことも考えなければならないほど、長い付き合いになったなぁと改めて思った。

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2024年08月14日

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