あらすじ
「私はこの本一冊を創るためにのみ生まれた」――〈太宰治〉という作家の誕生を告げる小説集であると同時に,その最高傑作とも言われる『晩年』.まるで散文詩のような冒頭の「葉」,〈自意識過剰の饒舌体〉の嚆矢たる「道化の華」他,日本近代文学の一つの到達点を,丁寧な注と共に深く読み,味わう.(注・解説=安藤宏)
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Posted by ブクログ
魚服記、雀こ、道化の華、彼は昔の彼ならず、ロマネスクが好きだった。
魚服記は晩年の中で一番好きだった。考察の余地を与えてくれる文章でありながら無駄な部分が一切ない。日本神話のような幻想的で格調高い雰囲気は完成されきっており、色々な考察をしなくても作中の雰囲気を感じるだけで好ましく思える小説。父とスワの関係性やスワの行末などは本当に微かに匂わせるだけの表現になっていて、物語の幻想性を高めている。そこの塩梅がとても良かった。
道化の華の始まりは何ともない文章で普通に読んでいたのだが、途中で登場人物達が険悪な雰囲気になり、読むのに少し嫌気がさしてきた時に筆者の『僕』が出てきてつらつらと散々言い訳を並べてくる。これがめちゃくちゃ面白い。筆者が介入してくるタイミングも丁度良く、だれてきた瞬間に梃入れがなされるので手段は斬新なのに安定している。思い出、魚服記、猿ヶ島など道化の華までの短編はスタイリッシュで完成度が高かったのに、急に道化の華でグダグダしてくるのがとても面白い。
太宰治らしさを詰め込んだような作品集だと思った。