あらすじ
政争と陰謀の渦中から、栄華をきわめた平家一門。東国に興った平氏打倒の嵐に翻弄され、安徳天皇とともに西海の藻屑と消え去るまで、その足跡を頭領の妻・時子を軸に綴る。数々の史料をもとに公家・乳母制度の側面から平家の時代を捉え直す、傑作歴史長篇小説。巻末に関連資料を新規収録。〈解説〉永井 紗耶子
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Posted by ブクログ
歴史小説の名手である女流作家による平清盛の妻時子(二位尼)を描いた長編。
これまで触れてきた「平家物語」とは全く異なる、女性の視点から捉え直された物語の新鮮さに深く引き込まれました。
特に印象的だったのは、清盛という人物の描かれ方です。権力を盾にする独裁者というイメージが強い清盛ですが、本作では、池禅尼を「池のおばば」と呼び、頼朝の助命についても「困ったな」と漏らしながら妻の時子に親しげに相談する。そんな一人の夫としての、人間味あふれるチャーミングな造形が非常に魅力的で、平家一門の日常を覗き見ているような面白さがありました。また、一般的には失敗とされる「福原遷都」を、時子の目線から積極的・好意的に描いている点も、彼女たちの新しい都への期待感が伝わり、新鮮な驚きがありました。
物語が進むにつれ、戦場から遠く離れた女性たちが抱く「具体的に何が起きているか見えない」孤独感や焦燥感の描写が際立ちます。刻一刻と状況が悪化する中での彼女たちの心理は、当時の女性の立場を想起させ、非常にリアルな緊迫感がありました。
そして、最も心に残ったのはラストの描き方です。あえて海に身を投じる具体的な瞬間を綴らないことで、平家の栄華も悲劇も、すべてが儚く海の藻屑となったという静かな余韻が生まれています。もしここが、遺体が浮かぶようなグロテスクな描写であったなら、読後の印象は大きく異なっていたでしょう。
読み終えてから『波のかたみ』というタイトルを振り返ると、二位尼が「波の下の都」へ「かたみ」として持っていったものは一体何だったのか……。その答えを、静かな感動とともに考えさせられる一冊でした。