あらすじ
神紅大学ミステリ愛好会会長・明智恭介。小説に登場する探偵に憧れ、事件を求めて名刺を配り歩く彼は、はたしてミステリ小説のような謎に出合えるのか――大学のサークル棟で起きた不可解な盗難騒ぎ、商店街で噂される日常の謎、夏休み直前に起きた試験問題漏洩事件など、書き下ろしを含む全五編を収録。『屍人荘の殺人』以前、助手であり唯一の会員・葉村譲とともに挑んだ知られざる事件を描く、待望の〈明智恭介〉シリーズ第一短編集!/【目次】最初でも最後でもない事件/とある日常の謎について/泥酔肌着引き裂き事件/宗教学試験問題漏洩事件/手紙ばら撒きハイツ事件
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Posted by ブクログ
「屍人荘の殺人」の登場人物、明智恭介と葉村譲コンビの日常ミステリー短編集。
シリーズ番外作と言えばそうなのだが、この本だけでも全然楽しめる。それでも、上に書いた本編(第1作だけでもいいので)を先に読んで欲しいと思う。
どこにでもありそうな、大学生2人の日常を描いているんだけど、本編独特のあの感じは全く片りんすら窺わせず、「そうか、この頃はまだ日常ミステリーなんだなぁ」と、感慨深く思えるのは、本編を読んでこそである。
Posted by ブクログ
明智恭介が動いているだけでうれしいです。
「とある日常の謎について」が好き(50円玉20枚の謎に新たな説を出してくれるところも含めて)
Posted by ブクログ
日常の謎系かと思いきや結構本格的なミステリーの作品もあって面白かった。
特に後半の2編は解決か・・・?と思われた後にさらに展開があってミステリーの醍醐味を感じた。
オーディブルで聴いたが、ナレーターの人の声量の大小が結構激しく、ちょっと聞くのがしんどかったのと同時に、他のナレーターの人は声量ではなく表現力でその辺りをカバーしているのだなと実感した。
Posted by ブクログ
事の顛末を知っているだけに、明智恭介という人物の解像度が上がるにつれ、やるせなさと無念さが募る。
「とある日常の謎について」が秀逸で、日常ミステリが入れ子細工状の上、50円玉20枚の謎へのオマージュも仕込まれ、にやりとした心の浮遊感増し増し。
探偵明智恭介の幕はすでに閉じられてしまったが、過去を遡った活躍劇を渇望する。
Posted by ブクログ
2018年本屋大賞の続編、スピンオフ作品
『屍人荘の殺人』で強烈な印象を残しながら、物語の途中であっさりと退場してしまった明智恭介。
「あのキャラクターを、あそこで終わらせるのはもったいない」と感じた読者は多かったはずだ。本書『明智恭介の奔走』は、そんな思いに応えるかのように、彼が生きていた“過去”の事件を描いた短編集である。
舞台は神紅大学とその周辺。殺人事件は一切起こらず、扱われるのは盗難騒ぎ、日常の違和感、試験問題の消失、奇妙な悪戯など、ごく身近で小さな謎ばかりだ。いわゆる「日常の謎」ミステリであり、米澤穂信の古典部シリーズが好きな人には特に相性がいい。個人的にも、死人が出ないミステリはやはり読み心地がよく、本作はその点だけでも好感が持てた。
全五編の中核をなすのは、明智恭介と助手・葉村譲のコンビだ。明智は名探偵に強い憧れを抱き、事件を求めて名刺を配り歩く一方で、どこか抜けていて、調子に乗ると必ず痛い目を見る。そのアンバランスさが非常に魅力的で、葉村の冷静なツッコミが入ることで、二人のやり取りは軽快なテンポを生んでいる。
序盤の「コスプレ部盗難事件」では、学内サークルで起きた盗難騒ぎをきっかけに、人間関係の歪みと悪意が浮かび上がる。犯人は内気な医学部生に罪をなすりつけようとしたコスプレ部副部長であり、しかも濡れ衣を着せられた学生はすでに事故死しているという後味の悪さが残る。日常の謎でありながら、人の弱さや残酷さがしっかり描かれている点が印象的だった。
「とある日常の謎について」は、寂れた商店街の古びたビルが二千万円で売却された理由と、「五十円玉二十枚」の謎が語られる人情話だ。謎解きとしてはやや唐突な部分もあるが、亡き妻との思い出という真相には温かみがあり、読後感は悪くない。論理よりも情緒に重きを置いた一編と言える。
中でも最も印象に残ったのは「泥酔肌着引き裂き事件」だろう。明智が泥酔した結果、密室状態の自室でパンツだけが引き裂かれて玄関に置かれていたという、どう考えても馬鹿馬鹿しい(最大級の褒め言葉)謎を、真剣に解き明かそうとする二人の姿が最高に楽しい。トリック自体はやや甘いが、明智と葉村の掛け合いの魅力が最も発揮された一編で、本書の中では一番好きだった。
「宗教学試験問題漏洩事件」は、『屍人荘の殺人』冒頭で言及されていたエピソードの詳細編。真相は教授による自作自演で、部屋を丸ごと入れ替えるというトリックだが、伏線や発想は比較的分かりやすく、やや強引に感じる部分もあった。それでも、“ミステリとしての仕掛け”を真正面から楽しめる一編ではある。
最後の「手紙ばら撒きハイツ事件」は、明智が大学一回生の頃の話で、葉村が登場しない点が特徴的だ。叙述トリックも用意されているが、やや分かりにくく、爽快感には欠ける印象だった。もしシリーズ化するなら、やはり葉村とのコンビがあってこそ明智の魅力が最大限に活きるのだと感じさせられる。
総じて本書は、『屍人荘の殺人』シリーズに見られたオカルト的要素を排し、純粋なミステリとして明智恭介というキャラクターを掘り下げた一冊だ。謎解きの完成度には首をかしげる部分もあるが、明智という人物の魅力だけで、十分に読ませる力がある。
すでに“死んでいる”キャラクターである以上、彼を主人公に物語を続けるのは難しいかもしれない。それでも、こうして一冊を通して彼の奔走を描いたことには大きな意味がある。
『屍人荘の殺人』で明智恭介を好きになった人はもちろん、未読の人にとっても、本書は彼の魅力を知るための良い入口になるだろう。