【感想・ネタバレ】ムーンシャインのレビュー

あらすじ

曾祖父の遺したノートに記された八つの■をめぐる物語「パリンプセストあるいは重ね書きされた八つの物語」、〈ムーンシャイン予想〉を下敷きに繰り広げられる軽快な算術SF「ムーンシャイン」、生まれ変わりを教義の中心におく〈エルゴード教団〉の奇怪な歴史を描く「遍歴(エルゴディック)」など全四篇。SFと純文学の世界で大きな注目を集める著者の短篇集。/【目次】パリンプセストあるいは重ね書きされた八つの物語/ムーンシャイン/遍歴/ローラのオリジナル/あとがき

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Posted by ブクログ

デビュー前の新人賞応募作から最新作まで、4篇を収録した短篇集。


『コード・ブッダ』を読んで「円城さんもずいぶんとわかるように書いてくれるようになったんだなぁ」としみじみしていたら、本書は初っ端「パリンプセスト」からいかにも初期円城節で、これこれ!と懐かしくなってしまった(笑)。以下、各感想。

◆「パリンプセストあるいは重ね書きされた八つの物語」
新人賞応募作と知って驚いたけど、確かにここまで明確にボルヘスのオマージュやってるのは意外だったので、若書きなのは納得。涙の話が円城フィルターを通してみる現代社会って感じで面白かった。

◆「ムーンシャイン」
もう全然わかんね(笑)。初めて『Boy's Surface』を読んだときを思いだした。「墓標天球」とか「エデン逆行」とか、あの辺の雰囲気。

◆「遍歴」
ネオリベを宗教として捉えた話?と思っていたが、輪廻の話から独自の方向へ進んでいく。宗教をシステムとして解体していく手つきは完全に『コード・ブッダ』のプロトタイプと言ってよく、それでもまだ一応主人公(?)に人間を据えている辺りに葛藤が窺える。宗派チェックシートの設定は、選挙のときの候補者マッチングサイトにみたいだなぁと思った。あれって2017年にもうあったっけ。

◆「ローラのオリジナル」
これは完全に今の話すぎてSFじゃないけど、画像生成AIをめぐる昨今の問題自体がSFすぎるのでやっぱりSFなのかもしれない、という何とも言えない読み口。『コード・ブッダ』でゴリゴリに時事問題を取り扱っているのを新鮮に感じたのだが、円城さんの専門と現実の社会問題がついに重なり合い始めてしまったからこその不可避な変化なのかもしれない。AI利用の倫理観を問われて自己正当化を繰り返す人の心理をなぞりながら、文体はいつもの円城さんなので頭がぐらぐらする。テッド・チャンの「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」や飛浩隆の『グラン・ヴァカンス』の世界はすぐそこに迫っているのだなぁ。

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2025年08月21日

Posted by ブクログ

円城先生の作品は読みやすいけど、さっぱり分からない。
特に初期作品はそうだ。この短編集には、2008年から2023年までに発表された4作品が収録されている。初期の作品はさっぱりだ、けど2023年の「ローラのオリジナル」はお気に入り(分かりやすかった)。画像生成AIと違法投稿サイトをめぐる物語は、なかなかに刺激的だ。AIが学習に用いたデータのフェアユースは担保されているのか? それが不明のままAIが作り出した画像に権利は与えられるのかなどなど、思うところが多く楽しめる作品だ。

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2025年08月08日

Posted by ブクログ

著者のかなり広い年代での作品を集めた一冊。機械やフィクションにおける人物の権利に着目している気がした。著者の長編のアイデアのもとになるような片鱗も感じられる。

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2025年06月28日

Posted by ブクログ

もしかしたら円城塔の単行本を読むのは意外にも初めてかもしれない。いろいろなアンソロジーに寄稿しているのを読んでいるものの、これだけ集中して円城塔を読んだのは初めて。ハヤカワJAとか出ているけど敢えて避けてきた。だって小難しいんだもん。本書の4編くらいの長さならなんとか行けるけど、長編はなあ。おっと、次は「コード・ブッダ」が控えている。円城塔をスラスラ読める人が羨ましい。更に的確な解説・コメントができる人はもう尊敬しちゃいます。私だって読めますよ、でも読むだけ。読み終わっても、読んだという満足感は得られるが、頭の中には何も残っていない。

これまで短編集の感想文を書く際には、とにかく一冊読み終わってから感想文の作成に移るのだが、短編の数が多いと最初の頃の話を一部忘れてしまっていることが多い。特に、印象の薄い作品、あまり感動しなかった作品、興味のない作品、つまらない作品は完璧に忘れている。そういう時には一冊纏めての感想、大雑把なコメントで逃げる、全然関係のない話をこじつけるのが常套手段。そこで、思いついたのが、一つの短編を読み終わるや否や感想文を書く癖をつけること。まあ、これでもつまらなかったら、つまらないと書きます。
ということで、各作品について直ぐに書きます、次回から。だって今回から始めたら、円城塔の作品がつまらないと言っているようなもの。本書はサイン本だし、舐める様に読みますよ、それでは。

〇「パリンプ・・・・・(長い)」
プログラミン言語を引用して小説を書くのなら、私はPythonを使って、プログラム文章で水増しした小説、私が頻繁に使用しているSQL言語を大量に載せた小説を書いて良いですか?自分が好きな数字で埋め尽くした小説を書いて良いですか?漢和辞典から次々に見たこともない漢字を引用して小説を書いて良いですか?
〇「ムーンシャイン」
ちなみにムーンシャインは月光ではない、戯言ではない、数学の理論。一十百千万億兆京垓秭穣溝澗正載極恒河沙阿僧祇那由他不可思議無量大数億千万♪億千万♪の胸騒ぎ~~♪ジャパ~ン!数学の得意ジャンルで小説が書けるなら、私は解析関数(田村二郎著:数学選書3)で小説が書ける・・・訳が無い。
〇「遍歴」
この作品には感動した。円城塔の作品でこんなに感激したのは初めての事。いつもの読書速度とは思えないくらいスラスラ読めた。ついに円城塔に開眼したか?特に「ライセンス型信仰集団」、いいじゃない。全世界の宗教、これに替えない?世界平和到来・・・無理か。それと「他人の人生を繰り返し生きる人々」、これには全く同感。実は小学生の時に死んだらどうなるのだろうと真剣に考えたことがある。自分なりの結論としては、手塚治虫の様に他の生物になるのではなく、死んだら人間の意識だけが他の時代の異国の人間に移行して生まれ変わる、ただし前世の記憶は持ち込めないハンデ付きで。この繰り返し。だったら人間の意識は1つだけで事足りないか?だからこの作品に激しく共感している。2つもピッタリだと流石にこの作品との運命を感じる。
〇「ローラのオリジナル」
要は画像生成AIの話なんだけど、ここまで敢えて解り難く文章を作成する文章力に脱帽、というか理解することが大変だった。もう画像生成AI、画像生成AIのことなんだと何度も何度も辛抱強く頭に叩きつけて読んで、ようやく最後まで到達した。作品は30のパーツに細かく分かれ、画像生成AIについてそれぞれ別の切り口で文字を織り込んでいる。ディープラーニング、教師あり学習、GPU、ニューラルネットワーク、多層パーセプトロン、CNN、リポジトリの扱い、高次元ベクトル変換等々が文字によって外からなかなか見えないように包み込まれている。ただ、その中の幾つかは外から見れるものもあるので、それらの僅かなヒントを基に読み進めるしかない。かく言う私も全体の80%は理解不能であった。時々、筒井康隆のシリアス文体に近い表現も出てくるが、これらは完全に意味のない言葉だと思う。何回読み直しても、一体何言ってんだ?もしかして、絶対に理解できない文章を作成してくれと文章生成AIに頼み込んで作って貰ったのではないか。

さて、ようやく読み終えた訳ではあるが、理解力の歩留まりが極端に低い。ただ、解らない所を繰り返して読むと、時間をかけた分だけ理解力が深まっていくような気がする。繰り返し繰り返し徹底的に読めば良いのかもしれないが、私にはとてもそれだけの時間を用意することはできない。ある程度の妥協は必要なのかもしれない。私の目の前には「コード・ブッダ」が控えている。今回収載されている「遍歴」は「コード・ブッダ」の序章らしいので、近々再び円城塔を読める機会が訪れるかもしれない。なぜなら、今回の短編の中で一番「遍歴」が理解できて面白かったから。果たしてそれはいつ訪れるのだろうか。なんかワクワクして来た。

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2024年11月17日

Posted by ブクログ

読みやすいのに意味不明。というのが心地よくすらあるのが円城塔。一貫性はあり、なにか理屈が一本通っており、なにかをモチーフにしているだろうのはわかるが、説明されても全く追いつけない節がある。特に初期作。
でもそれでいい。自分の中でなんとなく理屈がわかった気になったり、調べてみてこういうことか?と考えるのもまた一興。
ムーンシャインは、円城塔のボーイズミーツガール……的なものとして、たいへん気に入っていて、久しぶりの再読でも楽しめた。作者のあとがき含めて、円城塔を俯瞰する良い作品。

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2024年10月12日

Posted by ブクログ

SFアンソロジー。初出2008年とかの短編もあったけれどそれを感じさせないのがすごい。お気に入りは、宗派と信仰を拡張させる内容に唸らせられた「遍歴(エルゴディック)」。プログラミングとか詳しかったらもっと面白かったのかも、惜しいことした。

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2025年05月08日

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