あらすじ
フリーライターとして暮らす小野寺衛は、宮城県松島から上京後、一度も帰省をしていない。知的障害のある兄をまもってほしいと両親から衛と名付けられたが、東日本大震災を機に故郷を、家族を、兄を捨てたのだ。だが、その兄が急死したという知らせを受け、衛は7年ぶりに故郷に帰ることを決意する。子どもの頃一緒に遊んだ海岸で兄は自死したらしいが、家族や友人の話を聞いた衛はそれを信じることができない。兄の死の謎を追う衛が知る、慟哭の真実とは? 障害者への差別意識や、貧しさへの“怒り”に満ちた筆致で贈る、ミステリデビュー作。
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Posted by ブクログ
故人を取り巻く人々はそのひとりひとりが故人を思い、案じ、何が故人にとって幸せなのかを自分なりに考えていた。
その思いだけに着目すれば、それは愛情と表現して差し支えないものだと思う。
ただ、自覚の有無にかかわらず彼らの取った行動はそれぞれに利己的に歪んでいて、それらの歪みの積み重ねが故人を傷つけ、苦しめた。
一切利己的でない人間なんてこの社会では生きられないから、彼らのあり方は自分と地続きだ。
愛情のつもりで、手助けのつもりで、選択肢を奪う。
障害福祉に関わっていたって(勿論全く無縁でも)、この落とし穴は常に薄皮一枚隔ててすぐ隣に存在している。
選択肢を奪われ傷ついている人に提示された自分の意思で選べる(と言えるのか微妙だが…)選択肢があんな機会だったことがただただしんどい。
本当につらいお話だった。けれど読んで良かった。
Posted by ブクログ
知的障害者の聡ときょうだい児の衛。上京して7年ぶりの家族からの連絡は兄の訃報…
登場人物みなエゴや欲ばかりの人でした。罪は大小あれど組み合わさってはいけない歯車が噛み合ってしまった。兄は妙子は描かないが皐月は描いていた。でも皐月は家族をくれる人であって女性として愛していたわけではなさそう…この結末だとそれが救いなのだけど
周りに疎まれた聡は無償の愛を注げる対象が欲しかったのだろうか…
そして衛は兄と仲良しだったのに、兄の精神年齢を超えてしまい、周りに同調しなければ自分を守れなくなり、そして上京して自由になれたときの解放感。兄を後ろめたく思いながら生きるよりも、きっとよかった。でもお兄ちゃんに報われて欲しかった…これはいち読者のエゴです