【感想・ネタバレ】エフィラは泳ぎ出せないのレビュー

あらすじ

フリーライターとして暮らす小野寺衛は、宮城県松島から上京後、一度も帰省をしていない。知的障害のある兄をまもってほしいと両親から衛と名付けられたが、東日本大震災を機に故郷を、家族を、兄を捨てたのだ。だが、その兄が急死したという知らせを受け、衛は7年ぶりに故郷に帰ることを決意する。子どもの頃一緒に遊んだ海岸で兄は自死したらしいが、家族や友人の話を聞いた衛はそれを信じることができない。兄の死の謎を追う衛が知る、慟哭の真実とは? 障害者への差別意識や、貧しさへの“怒り”に満ちた筆致で贈る、ミステリデビュー作。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

故人を取り巻く人々はそのひとりひとりが故人を思い、案じ、何が故人にとって幸せなのかを自分なりに考えていた。
その思いだけに着目すれば、それは愛情と表現して差し支えないものだと思う。
ただ、自覚の有無にかかわらず彼らの取った行動はそれぞれに利己的に歪んでいて、それらの歪みの積み重ねが故人を傷つけ、苦しめた。

一切利己的でない人間なんてこの社会では生きられないから、彼らのあり方は自分と地続きだ。
愛情のつもりで、手助けのつもりで、選択肢を奪う。
障害福祉に関わっていたって(勿論全く無縁でも)、この落とし穴は常に薄皮一枚隔ててすぐ隣に存在している。

選択肢を奪われ傷ついている人に提示された自分の意思で選べる(と言えるのか微妙だが…)選択肢があんな機会だったことがただただしんどい。

本当につらいお話だった。けれど読んで良かった。

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2025年05月05日

Posted by ブクログ

この小説はフィクションのはずなのに生々しい。
生きていくってひとつひとつをこなしていくというより、いろんな問題が解決しないまま連なっていく感じで、この小説に終わりがないという点もリアルを感じさせるひとつの要素なのかなと思う。何が正解かもわからないまま生活は続いていく。

この小説にはいわゆる「悪い人」は出てこない。
それぞれの少しづつの感覚の差異がひとつの事件に発展してしまうわけなんだけど、たぶんなにかが悪いとしたら「タイミング」なんだろうなって思う。そういう感じもまた実にリアルで。

また、子ども支援に携わる身としてもこの小説は「今」にマッチしていて秀逸と感じている。「子どもの最善の利益」に基づいた支援はもうひと昔前のやり方で、支援される本人の気持ちに寄り添う「意見表明支援」について考えるいい教材でもあると思う。
支援仲間たちにぜひ勧めてみようと思える本。

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2024年10月29日

Posted by ブクログ

読んでいて胸が苦しくなったり、考えさせられた。知的障害をもつ兄が自死したことからその背景を知ることになるが、読んでいて辛くなった。誰も悪気はないけど無意識に差別したり、偏見を持ったり。よかれと思っていても当事者を傷つけることもある。
あとがきにも「現実と地続きの物語だ」とありますが、考え続けないといけないテーマだな、と思いました。

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2024年10月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

知的障害者の聡ときょうだい児の衛。上京して7年ぶりの家族からの連絡は兄の訃報…

登場人物みなエゴや欲ばかりの人でした。罪は大小あれど組み合わさってはいけない歯車が噛み合ってしまった。兄は妙子は描かないが皐月は描いていた。でも皐月は家族をくれる人であって女性として愛していたわけではなさそう…この結末だとそれが救いなのだけど

周りに疎まれた聡は無償の愛を注げる対象が欲しかったのだろうか…
そして衛は兄と仲良しだったのに、兄の精神年齢を超えてしまい、周りに同調しなければ自分を守れなくなり、そして上京して自由になれたときの解放感。兄を後ろめたく思いながら生きるよりも、きっとよかった。でもお兄ちゃんに報われて欲しかった…これはいち読者のエゴです

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2025年07月18日

Posted by ブクログ

障害を持つ家族と共に生きるという事のリアリティを感じる一作でした。

東京でフリーライターをしている小野寺の元に
知的障害のある兄の自殺の知らせが届く。
故郷は震災を受けた松島。

第一章で、兄と故郷を追懐し
第二章で、父親の悔恨を
第3章で、早逝した母親に代わり世話をした叔母    の渇望を
第4章で、幼馴染みの母親の身勝手な欺騙を
第5章で、わからなかった兄の気持ちを知った弟の慟哭を
兄に関わった人達を訪ね、死の真実を捜す

本格的ミステリーではありません。
兄と生活を共にした人達の過去をたどる心理描写と暴かれる秘密がミステリアスです。
障害を持つ家族を描く、という難しいテーマとなりますが、この著者さんのご家族の紹介に
耳の聞こえないご両親の元で育った(祖父母の経歴もなかなか)とあります。
フィクションでありながら、リアリティを感じるのはその経験もあるのかもしれません。
これから誰も書けなかった社会派ミステリーを期待します。

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2025年05月10日

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