あらすじ
戦後日本の「反戦主義」はなぜ有名無実化したのか? その理由の一つに、戦争体験や生活感情に基づいた市民感覚の喪失が挙げられる。日本人の平和思想の変遷を、歴史・政治・メディアの観点から論じ、戦争への想像力を補う手がかりも示す。
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Posted by ブクログ
平和主義の変質を議論する著作だが、あとがきで次のような要約がある.「戦争のない状態」としての「平和」に関する認識としては、九条の理想を掲げる戦後的な反戦・平和主義があるが、これは年長世代を中心に残存しているものの、その弱体化は疑えない.弱体化や影響力の低下をながらく指摘されながらも、確かに残っているという事実を軽視すべきではないけれども、それが弱体化することで、日本社会のより根底部にある生活保守主義に基づいたしたたかとも呼べる平和主義が目立ち始めた.230頁の内容をこのようにまとめる力に驚嘆した.その直後の解説に「したたか」が出てくるが、その通りだと思う.第二、三、四章で語られる歴史的事項はほとんどが記憶にあるもので、ベルリンの壁が崩壊した1989年からのスタートが最適だと感じた.民主主義を「生のあらゆる次元のコミュニケーションの場において作用する偏った権力関係に、批判的に介入する力を重視する思想」と位置づけているのも良い.宮﨑駿のアニメを絡めた解説も楽しめた.
Posted by ブクログ
1989年~2023年までの日本社会における「戦争と平和」論を追跡する。情報は手際よく整理されていて、いろいろなことを教えてくれるが、どうにも記述に深みがない(4000字ぐらいで一つのトピックが片付けられ、すぐに次に進んでしまう)。印象が残らない。たぶん、ここで展開されている議論に文化的・思想的な深みが感じられないからだろう。宮崎駿の諸作品や岡崎京子『リバース・エッジ』、岡田利規『三月の5日間』などのフィクションも取り上げられているが、基本的には従前の議論の紹介と再解釈にとどまる。よく言えばジャーナリズム的な、皮肉に言えば気の利いた学生のレポート、というところか。