【感想・ネタバレ】無意味なものと不気味なもののレビュー

あらすじ

「あれはいったい何だったのだろう――?」

過去の人生において遭遇した、明確な恐怖とは言いがたい、けれど忘れることのできない記憶や小説。
大ヒット作『恐怖の正体』(中公新書)で話題を呼んだ作家・精神科医である著者が、精神の根源に触れるそうした〈恐怖寸前〉の〈無意味で不気味なものたち〉に惹かれて渉猟した、異色の文学エッセイにして読書案内。

刊行以来、ホラーや幻想文学の実作者を中心に、多くの読者から絶賛を得てきた名著に、書き下ろしの新章を増補した新版。
誰もが体験しながら、ふだんの日常においては意識の底に沈められがちな〈あれ〉を求めて……読めばきっと、あなたも語りたくなる。

推薦・澤村伊智
解説・朝宮運河

【目次】
文庫版のためのまえがき
まえがき

1 隠蔽された顔――N・ホーソーン『牧師の黒のベール』
2 本物そっくり――河野多惠子『半所有者』
3 糞と翼――パトリック・マグラア『長靴の物語』
4 姿勢と連想――古井由吉『仁摩』
5 受話器を握る怪物――H・P・ラヴクラフト『ランドルフ・カーターの陳述』
6 孤独な日々――日影丈吉『旅は道づれ』
7 南洋の郵便配達夫――J・M・スコット『人魚とビスケット』
8 描きかけの風景画――藤枝静男『風景小説』
9 墜落する人――レイ・ブラッドベリ『目かくし運転』
10 救われたい気持ち――高井有一『夜の音』
11 果てしない日々――クレイ・レイノルズ『消えた娘』
12 世界の構造――富岡多惠子『遠い空』
13 グロテスク考――カースン・マッカラーズ『黄金の眼に映るもの』
14 うふふ。――車谷長吉『忌中』
16 昆虫的――内田百閒『殺生』+ブルーノ・シュルツ『父の最後の逃亡』
16 入り込んでくる人――庄野潤三『黒い牧師』

あとがき

解説 朝宮運河

〈本書は、無意味なものと不気味なものにまつわる探求報告であり、「あれはいったい何だったのだろう」という呟きの執拗な反復である。もし読者諸氏にも「あれはいったい何だったのだろう」との文言が病原菌のように感染すれば、著者としては嬉しい。寂しさがまぎれ、この世界に生を営んでいくことの不安を、幾分なりとも忘れさせてくれそうだからである。……〉(「まえがき」より)

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Posted by ブクログ

ネタバレ

精神科医の著者が読み、明確な“恐怖”以前の不穏さや不気味さ、不安、グロテスクさを覚えた各種文学作品17編を題材に、自身の体験と随想を加えつつ人間精神の不可解さと闇を覗き込む異貌の“恐怖”文学論。

全部で17編の小説が採り上げられ(文庫版で1編が新録)ているが、怪奇幻想色が濃厚なのはホーソーン、パトリック・.マグラア、HPLそれにブルーノ・シュルツの作品くらいで、後は純文学系の作品が占める(ブラッドベリ「目かくし運転」も彼の他作品に比べると幻想味は薄い)。が、どの作品も(紹介される内容だけでも)何かしら不穏さや不安、不気味さを覚えるもので、時に人間とはかくも醜悪なまでにグロテスクな存在ないしそのような側面を持つものなのか―と気が滅入ってくるものすらある。その辺りは恐怖という食材を“エンターテイメント”という一品料理に仕上げず、生の素材のまま―譬えるならば生魚の腹を割いただけで内蔵を取り除かずに皿に盛る如く―“人間の様々な側面、内面”を表現、提示しようとする純文学だから、とも言えるのか(純文学ってそういうものか?)。

どの作品も概要は勿論、あらすじから結末までが書かれているのでブックガイドとしては些か不向きだし(そんな意図でそもそも書いていないだろうが)、ネタバレを避けたい向きは目次で事前にチェックが必須かと。ちなみに自分はホーソーン「牧師の黒いベール」とラヴクラフト「ランドルフ・カーターの陳述」しか既読がなかったが、その他の作品にしても本書の記述だけでお腹いっぱい気味で、個々の作品を新たに読んでみたいという気には……なれず。

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2024年06月12日

Posted by ブクログ

ネタバレ

たまたま手に取り斜め読み。
さまざまな知識満載、表現力の妙味、
例えば、富岡多恵子の遠い空を、
田舎を舞台にした気味の悪い小説である
肥溜めに石を放り込んでみるような怖さと好奇心とに満たされている
という感想。遠い空の紹介の前には、アメリカ西部劇やドラマに出てくる底なし沼のことが書かれており、とにかく引き出しが広く多く想定外の発想と結びつきの考察。面白いし、紹介されている本の内容も詳しいのでブックガイドとしても役立つ。

遠い空の章がやはりなかなかよい。億劫であること面倒くさいという心性がもつ支配力、人を麻痺させる力。
いい人は不精者。

最初はおもろないと思ったが細かい考察表現法人間てしょうもないでもしようもないとこがよいところ大事なところということが底深く思い知らされる。

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2024年08月08日

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