【感想・ネタバレ】鳥瞰するキリスト教の歴史のレビュー

あらすじ

キリスト教徒は世界の人口の3割以上を占めますが、古代より世界の歴史に大きな影響を与えてきました。現代でも様々な宗派が存在し、政治経済や社会の趨勢に大きな影響を及ぼしています。したがって、現在起こっている様々な出来事をきちんと理解するには、キリスト教の知識は必須と言えるでしょう。本書では、キリスト教の歴史の全体像を、教義や宗派の違いを押さえながら解説していきます。キリスト教はどのようにして生まれ、広まり、そして分裂したのか。どんな宗派・教派があり、教義の違いは何か。宗教裁判や戦争など、どのような争いごとがあったのかについて、世界の歴史に位置づけながら明らかにしていきます。カトリックとプロテスタントの違いや、ロシア正教、現代のキリスト教原理主義まで、キリスト教の全体図がつかめる入門書です。

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Posted by ブクログ

キリスト教の誕生からローマ帝国からの迫害と国教化、ローマ帝国分裂後のフランク王国・神聖ローマ帝国・ビザンツ帝国、イスラムの勃興、十字軍、宗教改革、イギリス国教会、新大陸の発見、世界大戦から現代(ウクライナ戦争、ガザ侵攻、トランプ大統領)まで、キリスト教と世界との関わりを描いた一冊。キリスト教という側面から歴史や現在を深掘りした内容を楽しく読むことができた。著者自身がキリスト者であるが、「むしろ、負の遺産に焦点を当て、そこから「キリスト教とは何であるべきか」を探る方が正鵠を得ることができるのではないかと考えます。」と宣言し、歴史上のキリスト教のネガティブな面も含め務めて公平な立場で言及されている。イギリス国教会について少し詳細すぎるのでは?という感想を持ったが、著者も気になったらしく、「おわりに」で陳謝しているのは微笑ましい。


・古くからロシア政権の影響下にあったロシア正教とは違い、ウクライナにはローマ・カトリック教会が多く、これはウクライナ人の民族意識に影響し、ロシアのウクライナ侵攻にもつながっている。

・トランプ大統領の支持母体であるアメリカの福音派の聖書の読み方は「聖書の言葉はすべて聖霊の導きによって記されたもので、一言一句誤りがない」というものであり、ファンダメンタルとされる人々の特徴を、①聖書の無謬性を熱心に主張する、②近代神学ならびに近代聖書批評学の方法と成果とその意義に対して強烈な反感を持つ、③自分たちの宗教的見解に同調しない人は真のキリスト者ではないという確信を持っている。また、艱難期の最後にハルマゲドンの戦いが起こり、そのときキリストは、サタンと地獄へ行くべき人間を滅ぼし、地上に神が直接統治する王国を建国し、千年が終わった後に新しい天と地(天国)が始まり、その時は自分たちの集団のみが救われると考えている。トランプ大統領はこの様な集団に気を使って政策を決定しているかと思うと恐怖しか感じない。

・「黒人奴隷制度を正当化するために、黒人を徹底的に差別する理論が作り出されました。黒人は人間ではなく、野蛮な生き物で、白人に仕えるために神によって造られたという類の言説です。こうした差別理論を造り上げる上で、旧約聖書の記述が都合の良いように利用されました。」歴史を勉強するとキリスト教の糞ムーブを沢山見るが、その典型例。

・1967年には「他者のための教会」という共同研究が発表され、その中で「神の宣教」という新しい宣教論に基礎づけられた宣教論が発展させられます。それは「神は第一義的に世界に関与され、教会はその働きに参与する」という視点に他なりません。これまでは、教会は神の代理人であって、教会を建て、成長させることが宣教の内容でしたが、「神の宣教」論においては、第一に救いを必要としている人々に神の声が届けられることが重要になります。素晴らしい見解とは思うが、ここまで来るのに2000年もかかったというのが驚き。

・著者はイスラエルのガザ侵攻について、「原理主義的聖書理解の問題点は、聖書の文言の一言一句が聖霊に導かれて記され、過ちのないものであるとする理解だけでなく、聖書の文言の中から自分たちに都合の良い言説だけを切り取って利用するという便宜主義的な聖書利用法にもある」という背景も含めて批判している。「このような人種差別、民族差別は世界の歴史の中で幾度となく繰り返されています。ヒトラーのナチスはいわゆるアーリア人と非アーリア人、特にユダヤ人とを区別し、後者を徹底的に排除します。いわゆる民族浄化です。南アフリカのアパルトヘイト体制の中でも、アメリカ南部の人種差別においても、愛する家族が人種の違いによって引き裂かれるという悲しい事件が頻発しています。これに対して、キリスト教は果たしてその責任を免れることができるでしょうか。」と自ら信じるキリスト教についても批判的である。

・神は常に私たちとともにおり、生かし、力づけ、その苦しみを共有する方です。そういう意味では「万能の神」という表現は適切ではありません。イエス・キリストが罪人たちとともに十字架につけられたという「事実」はそのことを表しています。ドイツの神学者ユルゲン・モルトマンは著書『十字架につけられた神』の中で、苦しむことのできない神は不完全な神である。神は苦難を経験することを意志した、と説いています。

・現代の異端(カルト)の特徴①聖書以外の経典を教義の基礎に用いる②神以外に教祖をいただいている③三一神の教義および歴史的なキリスト論を否定していること④献金や奉仕、命さえも強制的に教団(教祖)に捧げさせること

・「様々な社会的争点(LGBTQ問題や家族制度、他宗教との対話、人種差別など)に対するリベラルな主張を退け、保守的な主張を場合によっては銃をとってでも貫こうとするアメリカ合衆国のキリスト教右派やトランプ元大統領支持グループ(MAGA)の実践は、正当なキリスト教から大きく逸脱した危険な動きであると言わざるを得ません。彼らはまた不法なパレスチナ侵略と入植活動(土地収奪)を続ける現代イスラエルのシオニストたちの軍事支配を熱烈に支持しています。」

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2025年08月16日

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