あらすじ
2011年から内戦が続くシリア。政府と反政府勢力の対立を軸に、宗教や大国干渉といった問題も孕みながら内戦は泥沼化。国民の貧困化とともに670万人以上とも言われる難民を流出させたアサド大統領による独裁国家は、今世紀最大の人道危機を招いたとして世界中から問題視されている。
著者は、混迷を極めるこのシリアの現状を自分の目で見るために、一介の観光客として入国。わずか10日間の、しかもルート限定の観光旅行だったが、自ら果敢に戦下の町を歩き、地元の人々と言葉を交わしていく。国によって仕組まれた、作られた旅行ではあるが、わずかながらも垣間見えたシリアの今の姿を著者は見事に描写。なかでも悪名高きサイドナヤ刑務所で過酷な拷問を受けながらも生き延びたシリア人の話は圧倒的だ。
異色の旅行記であるとともに、多くの人に読んで欲しい問題提起の書でもある。
第3回わたしの旅ブックス新人賞受賞作。
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Posted by ブクログ
2022年初夏のシリア旅行記。シリア旅行は現在、ガイドがつきっきりで、事前に選んだ場所にしか行けないようになっている。
2011年から内戦が続くシリアでは、アサド政権と反体制派の対立に、イスラム過激派やロシア、イラン、レバノンのヒズボラなどが介入し、混乱が続いている。
以下、印象に残った点をいくつか。
写真を見るかぎりでは、都市部ではある程度普通の日常を送れている。
現地の人が外国のスパイと疑われるような面倒をかけないため、自分から現地の人に話しかけないように著者は心がけていて、政治や戦争の話は基本的にガイドとしかしていない。ガイドによると、シリアが混乱を続けているのは、政府にとっては反体制派のせい (一部は過激派に合流した)、シリアにとっては外国のせいだということになるらしい。(アラブ人はなんでも他人のせいにしがちな側面があると著者は書いている。)
いろいろなところにロシア兵がうろついていて、ロシア語の看板なども見かける。
都市部のすぐ近郊には廃墟が広がっている。(まだそこで暮らしている人もいる)
旅行の直前まで戦時下のウクライナにいたためか、著者は秘密警察を過剰に警戒しているように思える。(自由行動中に何度か現地人とやりとりをしているが、彼らはみな屈託のない様子だ)
しかし最終章では、刑務所に収容されたことのあるシリア難民が周囲を気にしながら話している様子が描かれていて、取り締まりの厳しさ、拷問の過酷さがうかがえる。(彼は反体制的な活動をしていた) 写真では普通の日常のように見えても、ほかの独裁的な国と同じく「政治の話を口にしなければ」という条件つきなのだろう。