あらすじ
「私の生理ってきれいだったんだ」
『おばちゃんたちのいるところ』が世界中で大反響の松田青子が贈る、はりつめた毎日に魔法をかける最新短編集。
コロナ禍で子どもを連れて逃げた母親、つねに真っ赤なアイシャドウをつけて働く中年女性、いつまでも“身を固めない” 娘の隠れた才能……あなたを救う“非常口”はここ。
〈収録作〉
天使と電子
ゼリーのエース(feat.「細雪」&「台所太平記」)
クレペリン検査はクレペリン検査の夢を見る
桑原さんの赤色
この世で一番退屈な赤
許さない日
向かい合わせの二つの部屋
誰のものでもない帽子
「物語」
斧語り
男の子になりたかった女の子になりたかった女の子
〈解説〉小林エリカ
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
11編からなる短編集。
どれも人物や設定が異なり、バラエティに富んでいる。
割と現実世界に近いものもあれば、奇想の世界もある。
読んでいてつらい気持ちになるものもあれば、楽しかったり、力強さを感じたりするものもある。
奇想ということであれば、「ゼリーのエース」。
某食品メーカーが販売している家庭で作れるゼリーのミクスを思わせる。
美佐子と正吉夫婦は台所=実験室で、ゼリーを作るように粉末にお湯をかけ、冷蔵庫で冷やして「娘たち」を作り、あちこちの家庭に「納品」している。
「娘たち」は冷蔵庫の中で「身を固め」、おしゃべりをするようになる(!)。
その中で、いつまで経っても「身を固め」ない娘が現れてしまい、最初は夫妻を困惑させるのだが、やがて受け入れていく、というお話。
「身を固める」という今や死んだフレーズに感じる違和感が、こんな大らかな、チャーミングな話になるとは。
「物語」という短編は、人々を搦めとろうとする「物語」と、それを迷惑そうに退ける人々との攻防(?)が描かれたSF的な小説。
2人称小説という珍しい形態であるせいもあって、最初は違和感を覚える。
だが、「物語」が次々と繰り出してくる「女」「男」「子ども」「老人」…などのイメージがあまりにも一面的で笑えてくる。
カバーストーリーである、「男の子になりたかった女の子になりたかった女の子」。
メインの人物である彼女には名前が与えられず、この「男の子になりたかった女の子になりたかった女の子」が繰り返されることになる。
彼女もまた「物語」から強い意志を持って、あるいはよんどころなく逃れていく人。
自分が何を好むのか、何に価値を感じるのかをきちんと把握しようと闘っていて、かっこいい。
硬い文体が主題によくマッチしているとも感じる。
Posted by ブクログ
女性であることやそこに付随する苦しみについて語ろうとするとき、また他人の語りに耳を傾けるとき、なんとも言えない苦々しい気持ちになる。でもこの本はあんまり苦々しくなかった。この思いをこんな風に表現できるのかと思った。
勝手に筆者は若い方なんだろうと思っていたのだが、ブルマの件でおや?と思い調べたら全然歳上の方だった。なんだかそこでまたグッときてしまった。こうして直視し、表現し続けている女性がいることがうれしい。他の作品も読みたい。