あらすじ
「構造主義」は終わらない。「構造」が秘めた本当の「力」を解き明かし、その潜勢力を新展開させる決定版!
仏教と構造主義そして真のマルクス主義に通底する「二元論の超克」は、革命的な人文「科学」を生み出す思考となりうるはずだ。新しい「構造主義」の可能性を著者は丁寧に取り出す。
もう一つの人類学の可能性は、夭折した弟子のリュシアン・セバーグの中にもあった。師レヴィ=ストロースと若き研究者は、南米インディオの神話の構造分析に取り組んだ。マルクス主義をベースにした「構造主義」が創始された時に起こった師弟関係の美しくも悲しい物語。記号学的な枠組みを超えて、人間科学の「プロレタリア」としての人類学の使命を読み解いていく。
さて、「構造」をレヴィ=ストロースはこのように認識している。
「双分制の明白な諸形態を、その真の本性は、別のはるかに複雑な構造が表面的にゆがんであらわれたものとして扱ったほうがよいのではないかということであった」
人類の思考は実は複雑なものなのだ。二元論と三元論が、動的に組み合わされて、さまざまな神話や事象が生み出される過程を解読することで見えてくる人類学とは、いかなるものなのか?
「構造」の「奥(heart)」へと至る道を示す「人類学」の道標である。
【目次】
プロローグ 革命的科学
第一章 構造主義の仏教的起源
レヴィ=ストロースと仏教/仏教の中の構造主義/構造主義の中の仏教
第二章 リュシアン・セバーク小伝
高等研究院での出会い/新しい神話研究/変換の論理/神話の公式/『神話論理』の朝/プエブロ神話学へ/アチェ族の夢分析/『マルクス主義と構造主義』/悲劇的な死
第三章 構造の奥
双分制/レヴィ=ストロースの弁証法/互酬性の謎/重力論と贈与論/フランス啓蒙主義/人間科学のアインシュタイン/対称性のほうへ
第四章 仮面の道の彼方へ
1
地震多発地帯/ブリティッシュ・コロンビアのレヴィ=ストロース/カミナリ鳥・クジ・ナマズラ/スワイフエ仮面/ゾノクワ鬼女
2
剣とナマズ/ゾノクワと山姥/山の神の影/ポトラッチと市/仮面の道は続く
エピローグ
注および引用・参考文献
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
久しぶりに中沢新一さんの本を読んでみた。
中沢さんは、ポスト構造主義〜宗教的神秘主義のイメージが強い一方、科学主義と批判されることも多いレヴィ=ストロースについてはストレートに肯定的でもあって、ここがどう繋がっているんだろうと不思議だった。
というわけで、レヴィ=ストロースを直接的に論じた本のようなので読んでみた次第。
エピローグに記載されているところでは、中沢さんは、レヴィ=ストロースの構造主義的人類学については、世間で理解されているもの、つまり、言語論的な構造主義の人類学への応用というものとは違う感じを持っていたということ。
というわけで、いわゆる「構造主義」の奥にあるものというタイトルになって、レヴィ=ストロースの主題に基づく4つの変奏として4つの試論が入っている。
ある文化に属するその人々には分かってない深層に「構造」があるというだけで、科学主義的な本質主義と批判されるところだが、さらにその奥に何かがあるという話しになると、さてどうなるのか?
第1章は、レヴィ=ストロースの構造主義には仏教がある、というかなり大胆な議論で、やや我田引水感はあるものの、そういうところもあるかもしれないと思う。少なくとも、中沢さんの中で、レヴィ=ストロースと神秘主義がどう繋がっているかはよくわかる。
第2章は、レヴィ=ストロースの弟子のリュシアン・セバークを紹介しつつ、マルクス主義との関係、経済という下部構造と文化という上部構造との関係という観点で、構造主義の可能性を論じている。
第3章は、文化人類学でよく議論される双分制に対するレヴィ=ストロースの懐疑的な論考をベースに、やや強引に物理学の比喩を使いながら対称性という自身の考えにつなげていく。
第4章では、ブリティッシュ・コロンビアの神話と日本の神話との類似性を構造分析しつつ、地震多発地帯としての環太平洋文化圏という視点を提案する。
この本はいわゆる「選書」で、学術的な研究書ではないので、議論がやや大雑把な感じはするが(中沢さんの本は大体そうですが)、提起している問題は重要なところだと思う。
要するに、ポスト構造主義的な観点から乗り越えられたとされるレヴィ=ストロースの今日的な意味を再発見しようという試み。言語学的な人文科学としての構造主義を経済、社会、宗教、自然とリンクした革命的な思想として読み直すことへの誘いということですね。