【感想・ネタバレ】声と文字の人類学のレビュー

あらすじ

「文字イコール文明」というイメージを覆す

「文字による伝達が生まれると文明が生まれる」と見る人類史が見落としてきた事例は多い。本書は、古代ギリシャから中世英国、近代日本、現代バリまで、「声より先に文字がある」「文字記録が信頼されない」例を集め、字を書くことと「口伝え」との境界面を探ることを通じて文明の常識を問いなおす。

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Posted by ブクログ

「リテラシーとは何なのか?」という問題について興味を持ったものの、通り一遍の理解ではつまらんな、と思って本書へ。リテラシーとリテラシーがもたらす影響について、「識字化以前/以後」、「音声VS文字」といった二項対立を超えた理解の仕方についてたくさんのヒントを与えてくれる。というより、読むほどに問題が複雑だと実感し、ますますわからなくなってくる。SNS時代=「打ち言葉」の時代という視点から過去を見直すと、たしかに事は単純でないことを実感する。事例が大変豊富に引かれていて文献レビューとして今後も参照したい本。

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2025年10月05日

Posted by ブクログ

「最初に声の文化があって、その後文字の文化が生まれた」という文明観を再検討した本。

最初に取り上げられるのは、ジャック・グディ(初めて知った学者だ)、マクルーハン、オングのリテラシー研究。
文字が人間の認識様式を変容させ、西洋的科学を発展させ、視覚を特権化した、とまとめてある。
これに対して、筆者は歴史的な社会や、西洋文明に植民地化された社会を取り上げ、必ずしも口承から書承へ単純に移行したわけではないという例を対置する。

「書承」という言葉は、この本のキーワードの一つ。
そういう言葉があるんだ、と思ったら、筆者の導入する用語のようで、「リテラシー」とされている。
ただ、読み書き能力だけを指すのではなく、書いてコミュニケーションを取ろうとする意志や実践も含めてそう呼ぶとのことだった。

たしかに、挙がっている例は面白い。
権力が人々を管理するために、戸籍を作り、それまで人々が持っていた多様な名前や婚姻の在り方を書き留めて固定しようとする。
声の多様性は抑制され、文字は知見を固着し、論理や理性につながるものとして特別視される。
なるほど、これは権力のするわざである。
ところが、ニコ・ベズネエが報告した、ツバル共和国のヌクラエラエ環礁の事例は、宣教師が持ち込んだ文字言語が理性とされる観念を覆す。
これまで口頭のコミュニケーションではなされなかったような濃密な感情のコミュニケーションを文字によって行ったのだという。

文字を書く行為が呪術的な力を持つのではないかと期待したブラジル・ナンビワラ族の事例、十九世紀フランス・ピレネー地方に観察された、書物は「魔法の書」であり、「読書」により憑依されるという考え方があったことなども、とても面白い例だ。

口承文化を称揚する立場からは批判されがちな文字だが、文字(特に手書き文字)も聴覚、触覚などの感覚と関わるメディアであったことも、指摘されるとなるほど、と思う。
平家物語の研究を引きながら、物語がテキスト化され、それがさらに語られ…という文字と声の相互的な関係いついても言及されている。

本書の終盤は「打ち文字」の話が出てきた。
これも話し言葉を文字化したもので、声と文字の境界に起きている現象。
そこで読み書きすることは、ボルヘスの「砂の本」のようであるのか、それ以外のありかたなのか。
筆者の議論は手書きの方へ進んでいくようだったが、もう少し打ち文字の考察も読んでみたかった。

こうやって多様な例を通して読み進めてくると、たしかに、声の文化から文字の文化へ、という変化を考えるのは単純すぎることはよくわかった。
ではその先はどうなるのか。
どう研究は進んでいくのだろう?

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2024年11月17日

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