あらすじ
貧しいながらも心優しい人々のお互いを信じ合う姿が深い感動をよぶ表題作「雨あがる」、その続編「雪の上の霜」、侍という生き方よりも人間らしい生き方を選ぶ主人公を描き、著者の曲軒ぶりがいかんなく発揮されている「よじょう」など、武家ものを中心とした名作全五篇を収載。生きにくい時代だからこそ浮かび上がってくる、“人間の人間らしさ”を描き続けた昭和の文豪・山本周五郎の魅力が光る、オリジナル名作短篇集。(編/解説・竹添敦子)
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Posted by ブクログ
驚いた。
おそろしく面白い。
「時代劇」という形から、若干敬遠していた所があるのだけれど、
読み進めてみると先が気になり気になりどんどんと読んでしまう。
時代劇ではあるけれど、そこに描かれているのはいつの世も変わらぬ「人間」だった。
人が貫く「意志」だった。
こういう人になりたい、そう思える人間たちが多数登場し、基本的に善意が報われる世界観なのがまた染みる。
『雨あがる』『雪の上の霜』は同じ主人公が登場する。
伊兵衛という最強の侍、しかし恐ろしく人に優しくて損ばかりしている男がそれだ。
優しさゆえにトラブルに巻き込まれ、それをどうにか乗り越えていく清々しい物語。
伊兵衛さんの行動は、それ絶対後で問題になるやつ!
という感がハンパない。もう、物語の型として水戸黄門くらい確立された感のある、
旅→仕事獲得→トラブル→旅
というプロットが美しい。
もっと色々、伊兵衛さんの活躍を見てみたい気持ちになる。
暖かい、人間の物語。
その一言に尽きる。
ハマっちゃうかもしれない、山本周五郎。
【ネタバレあらすじメモ】
『深川安楽亭』
抜け荷を請け負うあぶれものの集まる安楽亭。
いつからか常連になった飲んだくれの客。
売られた想い人を追って借金を貯めた男。
拾った小雀。
安楽亭に集まる、どこにも行けない人たちが織りなす、人生の機微。
『よじょう』
料理係の武士である父が、滞在中の宮本武蔵の腕試しをしようと不意討ちをして斬られた。
息子はやぶれかぶれで乞食になったが、
それを世間は「仇討ちのため」と勘違いし、贈り物を沢山よこし…。
宮本武蔵という剣豪を裏側から覗いた一作。
『義理なさけ』
縁談が決まった侍・甲子雄の部屋に、女中が一通の文を届ける。
父がそれを見つけ読み上げると、甲子雄に手を出され子供が出来たという。
父はたちまち縁談を破断にし、息子に訳を問うが、甲子雄にはまったく身に覚えのない話だった。
甲子雄は自分で真実を探りにかかるが女中は失踪。
それからしばらくの後、噂に、嫁に貰うはずだった娘の不義が明らかになったと聞こえてきて…。
『雨あがる』
めっぽう強いが良い人すぎて士官先が決まらない浪人・三沢伊兵衛とその妻おたよの旅物語。
泊まった貧乏宿の人々を喜ばせるために伊兵衛は賭け試合をし、その金で人々に贅沢をさせる。
その後士官先が決まりかけるも、賭け試合が明らかになりまた流浪の身へ…。
夫婦の人柄の良さが清々しい。
『雪の上の霜』
伊兵衛とおたよの後日談。
病気になったおたよのために、道で荷物持ちの仕事をする伊兵衛。
街道の馬子たちとのトラブル、馬子たちに絡む武士とのトラブル、道場での働き口の獲得に、思わぬ展開。
そしてまた流浪の旅に出る夫婦。
相変わらず清々しい物語!