あらすじ
家族も友達もこの国も、みんな演技だろ――元「天才」子役と「炎上系」俳優。高1男子ふたりが、文化祭で演じた本気の舞台は、戦争の惨劇。芥川賞作家による圧巻の最高到達点。
かれはこの場のぜんぶを呪っている。
それを才能といってもいい。
そして演じるちからに変えている。
「最高に読み応えがあり、かつ唯一無二の印象がある。時代のフロンティアに刺さっている。」――古川日出男(朝日新聞文芸時評)
「間違いなく、作家・町屋良平のキーとなる作品」―山﨑修平(週刊読書人文芸時評)
本心を隠した元「天才」子役・生崎(きざき)と、空気の読めない「炎上系」俳優・笹岡(ささおか)。性格は真逆だが、同じように親を憎み、家族を呪い、そして「家族を大事に」というこの国が許せない。互いの本音を演じあうふたりはどこへ向かうのか――?
「今この国の空気」を生きるすべての人へ問う衝撃作!
「デビューから7年のすべてを投じました」――町屋良平
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Posted by ブクログ
最近の芥川賞の中で、読みやすさの正反対にある町屋さんの渾身の長編。読みごたえがあった。読みにくいとの評判が多々あるが、癖があるだけで、非凡かつ特徴的な文章で興味深いし、何より物語の推進力やリーダビリティがあって、個人的に好きな部類。いわゆる戦犯裁判の東京立川憲兵隊事件、住民による捕虜殴打事案の文化祭での芝居化を進めつつ、俳優の卵の高校生2人が育った劣悪な環境下での高校生活が描かれる。灰色のような生活感のなかで、ある行為がクライマックスにおいて突如はじけ飛び散る効果は凄かった。純文好きにはとてもおすすめ。
Posted by ブクログ
シニカルに空気を読み合う高校生たちの物語と思っていたら(それだけでも十分読みごたえはあった)、映画やテレビ番組の出演経験のある2人の高校生が互いの役割=意識を交換させた経験をきっかけに、後半、立川と砂川の戦争記憶にかかる演劇の準備が始まるところから急にドライブがかかりはじめる。
墜落したB29の搭乗員と市民が集団リンチの末に殺害したという事件をモチーフに作られた演劇が、高校生たちに達成感と一体感、バラバラになった家族を再び結びつける機会になった、という展開ならよくできた(しかしありきたりの)メロドラマになるが、「演じること」の内と外との境界を問い続けた不穏さは、この演劇が、仕掛け人であり座長格でもあった高校生の自己破壊願望、攻撃性を発揮させる舞台に他ならなかったことを露わにしていく。かれは演技/演劇というフィルターを通さなければ、自己自身の欲望をつかまえることさえできなかったわけだ。
語りだけでは登場人物のジェンダーがすぐには読み取れない(むしろ性的な多型性の方が前景化させられている)語りにしても、この演劇がある意味で歴史修正主義的な内容になっていることにとまどう教員の登場にしても、ひじょうによく考えられた上で書き込まれた小説であることは間違いない。