あらすじ
正彦さんが定年を迎え、さてこれからは、一緒に旅行を……と期待していた二人。しかし、折しも世の中はコロナで自粛中。そんな中で、新たなフェーズに入った二人の生活は? 俳句、骨董と、趣味の道をきわめる正彦さんと、二次元コードに苦しめられたり、日々のちょっとした生活の変化を楽しんだりする陽子さんの日常を綴る、シリーズ最新作。
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Posted by ブクログ
新井素子が高校生でデビューしたとき私は中学生で、それからずっと追いかけてきた。
もちろん同じ距離感というわけにはいかないけれど。
彼女が結婚式を挙げるまでのあれこれを『結婚物語』で書いたとき、つまり結婚してそれなりに落ち着いてから書き、出版されて私の手元に届くまでのタイムラグが、ちょうど私の結婚のリアルタイムに寄ってきた。
「これ、私のために書かれた本?」ってな大いなる勘違いにより、このシリーズは私にとって特別なものになって現在に至る。
本当は退職した直後に読めばよかったのかもしれないけれど、買ってから結構積んでしまった。
満を持して読み始めたら、「やっぱこれ、私のための本だった~!」
定年を迎えたのはもちろん正彦さん。
「明日、国民健康保険の手続き取るよ」といった翌朝、正彦さんは猛烈な頭痛と吐き気に襲われるのだ。
以前もこんな症状があったな。それは「良性発作性頭位眩暈症」。
これ、私も時々なる。こんなに症状が激しくはないけど。でもシンパシー。
ところが今回の症状の原因は…「老化」。これ衝撃。
そして当然無保険証状態だったので、全額自腹で立て替える羽目に。
ちょうど国民健康保険証を手にした直後にこの本を読んだこと、もはや運命といっても過言ではない。
ちょうどコロナ期の退職。
退職後に正彦さんがドはまりした俳句。
という背景がありながら、家事の分担について、老化による体力の衰え、一日三度の食事について、老いた両親(妻の認知症を隠す父!)について、スマホの機能の進化についていけない、キャッシュレスに対応できない等々、今まさに我が家の問題が列挙されているではないですか。
もう、一章一章ごとに「うんうん、わかる」とか、「いや違うの、これってこういうことなのよ」など素ちゃん…じゃないや、陽子さんに語りたいことがあふれ出て、まともに感想書いたら単行本400ページくらいになってしまう。
だから正彦さんの俳句にかける情熱についてだけ書く。
まず、退職してから、テレビの『プレバト』を見始める。
俳句に興味を持つ。
実際に作って新聞や雑誌に投稿する。
俳句の会に参加して句会に出席する。
書道…は挫折したけど、毎日ペン習字を10分学習する。
日々の散歩で出会う植物、鳥の名前をアプリで確認する。
文語の文法や語彙に慣れるため、万葉集などを学習参考書で勉強する。
美術展に通う。
つくり初めの句は季語が3つも入ったもので、俳句というより標語。
3年後は、作家である奥さんすら知らなかった言葉を季語として、達筆で詩情あふれる句を発表するまでになる。
60歳を過ぎてから、こんなに何かにのめりこんで、しかもモノにするなんて。
できない言い訳なんていくらでもあるけれど、「できない」んじゃないんだな。
「できない」は「やらない」だけなんだ、と反省。