あらすじ
2019年12月、アフガニスタンで起きた人道NGO「ペシャワール会」の中村哲医師の殺害事件。朝日新聞記者や現地助手は、その実行犯を特定。犯行グループの素性や人脈を徹底的に調べ上げ浮かび上がった背後には、国際テロ組織や諜報機関の存在があった。3年半にわたる追跡取材の記録。
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Posted by ブクログ
中村哲さんのことは2001年に知り、以後このようなたたずまいの人が同じ世界に存在しているという事実が自分の心の支えでもあり続けた。
第一報が入った時のことは覚えている。最初は負傷したが命に別状はないという報道だったが、それでも心穏やかではいられず無事を祈っていたら数時間後に死去の報道がされた。
著作もそれなりに読んでいたのでなにが起きてもおかしくない土地という認識はあったが、それでもなぜ、という思いは拭えなかった。ひょっとしたら犯人は中村さんがどんな人か知らなかったのでは…単に目立っている外国人、といった程度の認識で実行に及び、実際中村さんがアフガニスタンにどんなことをしてきたことを知ったら、犯人は罪悪感にさいなまれるのでは…そんな風にすら思っていた。
しかし本書が導き出した答えは、中村さんの命を狙ったのはアフガニスタンの人間ではない、というものだった。つまり中村さんが尽くしてきた心が報われなかったとか、そうしたセンチメンタルなアングルではない、川の水は誰のものであるかという、生存への危機感に根差した動機であると。それはある意味腑に落ちる動機であったと同時に、より悲劇的な構図でもあった。
PMS職員はもちろん、護衛をしていた警官にも、政府の人間にも、その後政権を取ったタリバンの高官にも、中村さんの心は確かに届いていた。しかしそれでも事件は起きてしまった。
いくばくかの謎は残した形にはなっているものの、政情不安定な土地で数年間にわたって粘り強く取材を続け、事件の解像度を高めてくれた著者に感謝したい。ジャーナリストとしての矜持を感じさせる一冊だった。