【感想・ネタバレ】アフガンの息子たちのレビュー

あらすじ

難民児童と施設職員の交流を描くYA小説。

スウェーデンの小さな町にある灰色の建物。高校を出たばかりの「わたし」は、保護者のいない難民児童が暮らす収容施設で働いている。職員は規則と指示に従うことを求められ、帰宅したら仕事のことは考えるなと言われるけれど、アフガニスタンから逃げてきた少年たちと日々接していると、それはとても難しい。「わたし」は、家族と離れ一人で逃げてきた14歳のザーヘルや17歳のアフメド、ハーミドという3人の少年たちと心を通わせるうちに、タリバンへの恐怖やトラウマに苦しむ彼ら、18歳になり施設を出なければならないことを恐れる彼らに寄り添おうとする。
静かな筆致で難民児童の現実と職員の葛藤を描いた、2021年北欧理事会文学賞(YA&児童部門)受賞作。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

スウェーデンにある難民児童入居施設で働くレベッカの視点で語られる、3人のアフガニスタンの少年の話。18歳になると成人扱いになり、審査の結果強制送還と決まったアフメドは最終的に自殺してしまう。その後施設の閉鎖が決まり、寡黙で信仰心の厚い少年だったハーミドはお祈りのための絨毯を残したままドイツを目指して逃げていき、14歳のザーヘルは里親が決まる。
アフメドは、信じていた神に裏切られたから新しい神が必要だと言って、キリスト教に改宗し、facebookのアイコンもキリストにしている。ハーミドは想いを寄せるレベッカを部屋に呼んで、お祈りの絨毯に立たせたりしているが、最後はその絨毯を置いて出ていってしまう。施設のゴミ箱には他にもいくつもの絨毯が捨ててあるシーンも印象的だった。過去に何があったのか、家族はどうしたのか、聞くことも語ることもできないが、ハーミドの体の傷跡や、アフメドがタリバンの幻覚に怯える描写から、家族と離れて少年一人で逃げてきた、その背景にある現実を想像させられる。神に縋らざるをえないが、救ってくれない神に絶望する現実。施設の職員たちも親身にはなるが何もできない無力感を抱いている。距離感を大事にしないと自分の身を守れない。
病院には家族しか入れない、というところでザーへルが言う、僕らには家族がいない、僕らはアフガニスタンの息子なんだという言葉も象徴的だった。恐ろしい思いをして逃げてきた場所、その出身のせいで他の人から蔑まれることもある場所ではあるけど、母のいた故郷でもある国。人間の帰属って何だろうとか、考えさせられた。

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2025年08月31日

Posted by ブクログ

ネタバレ

静かなで穏やかなトーンだけど、複雑な事情が絡む社会問題にモヤモヤが残る物語。

死を選んだアフメドは、母国に、人生に、どれほどの絶望を感じたのだろうか。

身近にいたら、長いものに巻かれるしかない状況に、歯痒い気持ちを抱くと思う。自分がなんとかしてあげられたら、救える言葉をかけてあげたらと。きっと無力感を抱くだろう。

当たり前だが、どの社会問題もミクロな視点で覗けば、そこには一人一人の人生がある。感情や想いや家族がある。ニュースのその先まで考えられる自分でありたい。

ザーヘルが最後に、目をつぶって「ドアをあけたら母さんに会えて、母さんが僕のほっぺたさわるんだ、こういうふうに」とわたしに教える場面。生まれる場所が違うだけで、人生はこんなにも変わるのかと、切ない気持ちになった。

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2024年05月08日

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