あらすじ
東日本大震災で被災した三陸沖の島に現れた復興支援のプロ・遠田政吉。行政の支援も届かない地獄で救助、遺体捜索などに奔走し、救世主として信望を得るが、のちに復興支援金の横領疑惑が発覚する。島出身の新聞記者、菊地一朗が疑惑の解明のため遠田の過去を探り始めると、そこにはおぞましい闇が――。けんご氏の激推しと映画化決定で再注目の『正体』、『悪い夏』で大ブレイク中の著者が放つ骨太の社会派ミステリー!
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Posted by ブクログ
自己肯定感の低さを人助けによって補おうとするメサイアコンプレックス。支援者側が救世主的・英雄的にふるまうことで、被支援者側は相対的に立ち位置が下がり支援側に盲信的にすがってしまうことを言うらしい。この連鎖で絶対的な立場の差が出来上がり、ついには支配するもの・されるものの関係に陥ってしまう。遠田と天ノ島の島民との関係はまさにこれに当てはまるだろう。遠田の横領は、島民から向けられる信頼と期待に虚栄心・承認欲求・ヒロイズム志向が満たされた結果、これだけ島民のために尽力しているんだから少しぐらいいい目を味わってもばちは当たらない、ぐらいの気持ちからエスカレートしていったものではないだろうか。
また、東京では何者でもない、ただの学生であった姫乃も、天ノ島では一転、「地獄に舞い降りた天使」と称えられ、遠田からは復興に必要不可欠な存在、と重用される。島民たちに心から寄り添いつつも、うすうす気が付いていてなお遠田の横領に加担し続けた根底には、自分の存在価値を認めてくれる、評価してくれる人を悪人と認めることは、自分の価値も同時に曖昧なものになってしまう、という気持ちがあった。
そして、アレキシサイミアの江村。感情はあるが、その感情に自分で気づくことが難しく、感情をうまく言語化できない、というその特性ゆえに孤独で、どんな形であれ求められることでしか居場所を見出すことができない彼が、生きていくために遠田の言うままに行動するほかなかったのは明らか。
天ノ島の復興支援金横領事件を引き起こしたのは、そんな、三者三様に震災復興に携わることで自己実現を遂げる、まさに共依存的関係。もちろんこの意識は、誰の心にも大なり小なりあるものであり、そういう動機でボランティア活動や援助に携わることも特に悪いことではないように思う。ただ、常にその意識を自覚しておかなければ、歯止めは利かなくなり、やがて、このような大きな悪事を生み出すことにもなるのだろう。
Posted by ブクログ
時間や視点がコロコロ変わるので読みにくそう…って思っていたら、綺麗に伏線回収されて一気に読み終わった。
面白いと言うには生々しい素材だけど、最後はスッとした。とはいえ震災を食い物にするクズは物語でも現実でも腹が立つなぁ。
Posted by ブクログ
おもしろいし続きが気になるのでサクサク読めるが、読後感としては微妙な違和感が残った。
当時被災地の復興はテレビ越しで見ていて、復興支援金の不正利用事件についても知らなかったので、実話を元にしているという点では勉強になった。実際に無駄に使われてしまった復興支援金は多いんだろうなと思う。
震災の当日に生まれ、その日に両親を失った遺児に、明るい未来が訪れるようにとつけられた来未という名前が素敵。
遠田に悪役の要素を詰め込みすぎだと思った。特に、小児性愛者という要素が必要だったのかは疑問。島民が英雄と崇めるぐらいなので、一定程度復興に貢献していたはずだが、それが全部帳消しになるぐらいあまりに嫌われる要素を盛り込んだキャラクターだなと思った。口が達者なだけで頭が良くないので、悪役としての魅力もない。
最後の船上のシーンは、遠田と姫乃と生死がわからない状態で読みたかった。