あらすじ
恋人に別れを告げるために訪れた海辺の宿で起こった奇跡を描いた表題作「月下の恋人」。ぼろアパートの隣の部屋に住む、間抜けだけど生真面目でちょっと憎めない駄目ヤクザの物語「風蕭蕭」。夏休みに友人と入ったお化け屋敷のアルバイトで経験した怪奇譚「適当なアルバイト」……。“心の物語”の名手があなたに贈る味わいある作品集。珠玉の11篇を収録。
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Posted by ブクログ
「あなたは死ぬ時、“わすれないで”といいますか。“わすれて”といいますか。」と店頭のポップにあった言葉が目に入って購入。
短編集で、全編通して「別れ」がテーマになっているように感じた。
店頭のポップは「忘れじの宿」からとられたものであった。
病死した妻から「わすれて」と言われたものの、死後も忘れられずに13回忌を迎えた主人公。周囲からの薦めもあり、とある女性との交際を考えるようになるも、妻が忘れられずに一人旅に出る。そこで宿泊した「忘れじの宿」で苦悩の末、妻の言葉をたよりに記憶を消して、結果としていま近くにいる女性と交際へ向けて歩みだす。
果たして自分だったらどうするか、と夫と一緒に考えたりするいい機会になった。
表題作「月下の恋人」は愛し合っている今を永遠のとどめたいあまり心中を試みる若いカップルの話。若気の至りのような視点で描かれている部分も感じたが、最後の筆者の言葉?の歳をとってみるとそんな時代もよかったと思わなくもないよねみたいな部分が印象に残った。
その他、離婚してほとんど会っていない子供に後ろ髪を引かせないために悪役になって別れることを選んだ男や、離婚して会えなくなった父親の愛情をいつまでも感じられるよう実の父親に成り代わって何年も娘の口座にお小遣いを振り込み続けた継父なども印象に残った。
別れというのは、別れそのものだけでなく、別れたあとも含めて別れなんだなということ味わえる作品であった。