あらすじ
「ユーカラを書き記すことは、私が生まれてきた使命なのだ」
絶滅の危機に瀕した口承文芸を詩情あふれる日本語に訳し、今も読み継がれる名著『アイヌ神謡集』。著者は19歳の女性だった。
民族の誇り。差別との戦い。ユーカラに賭ける情熱。短くも鮮烈な知里幸恵の生を描く、著者の新たな代表作!
「いつまでも寝込んでいるわけにもいきません。私には時間がないんです」
分厚く腫れた喉から流れ出した自分の言葉に、幸恵ははっとした。
私には時間がない。
そうなのか?
思わず胸に掌を当てた。満身創痍の身体の中心で、心臓は未来へ駆け出す足音のように勢いよくリズムを刻んでいた。
(本文より)
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この設定でほのぼのするはずないと予想していたが、
予想以上に重い話だった。
今から思えば、何でこうなった、何でこうしたと、
不思議に思い、怒りも覚えるが、
当時はそういう時代ではなかった。
時代とは、何と恐ろしいものだろう。
Posted by ブクログ
アイヌの口承叙事詩ユーカラの研究をする金田一の依頼を受け、使命感に燃えて北海道から上京する幸恵の物語
自分だからこそできること、すべきこと、したいこと
そしてできないこと
差別や抑圧に対する怒りと悲しみと諦めが滲む中、それでも使命を果たそうとする姿勢に胸を打たれた
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男たちの無邪気な情熱と善意に翻弄され傷つき続ける女達。その女達は反目し合いながらも支え合い繋がっていく。知里幸恵の評伝という形をとってはいるが、焦点はその一点に絞られている。読みごたえあり。
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アイヌの人達の過酷な生活の中にあって、明治政府の身勝手な進め方に憤りを感じます。
知里幸恵の強靱な姿勢には感服します。私利私欲もなく、命をかけ、使命感で動く姿には、心打たれます。
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知里幸恵は、言語学者・金田一京介の依頼により
ユーカラの筆録・翻訳の手伝いをするため東京へ来た。
北海道にいる時はアイヌということだけで差別を受ける。
P123
〈常に和人の下で、貧しく愚かに希望なく生き続けることを望まれているのだ〉
東京見物も出来ないほど忙しく本の翻訳をする日々。
体も弱く、無理をすると寝込んでしまう。
アイヌ民族のために捧げたい人生だったが
幸恵は19歳で命を落としてしまう。
あまりにも短い。
幸恵の目を通してその時代の女性たちの苦しみも伝わってくる。
(和人、アイヌ問わず)
アイヌの華やかな部分だけを目にしがちだが
『ユーカラおとめ』を読んだことで
知里幸恵さんのこと、アイヌの歴史を
もっと知りたいと思った。
巻末に書かれている参考文献を何冊か読むつもりだ。