【感想・ネタバレ】書くことの不純のレビュー

あらすじ

こうして私はワイヤーにぶらさがって村にたどり着くことができ、結果、生きのこったわけだが、ここで問題になるのは、私がワイヤーをわたりきり、いわば死の瀬戸際から脱出したときに何を思ったのかだ。
私はこんなことを考えた。
もしワイヤーではなく、川を泳いで生きのこったら、そっちのほうが話は面白くなったんじゃないか?
そしてこんなことを考えている自分にゾッとした。(本文より)

生死の瀬戸際で、もう一人の自分が囁く「もっと面白くしよう」という誘い。書くことは不純だと言いながら、それでも書き続ける冒険家・角幡唯介がたどり着いた、行為する表現者の真髄とは。

【目次】
序 論 探検って社会の役に立ちますか?

第一部 行為と表現
第一章 書くことの不純
第二章 羽生の純粋と栗城の不純
第三章 冒険芸術論

第二部 三島由紀夫の行為論
第四章 届かないものについて
第五章 世界を変えるのは認識か行為か
第六章 実在の精髄
第七章 年齢と永遠の美

あとがき あらためて書くことについて

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Posted by ブクログ

冒険家×ノンフィクション作家が書くこと、生きることの意味を問うこと。
私は山が好きだが登山ではなく歩山で、主に平地では見られない山の花々を見るのに歩いてきた。今は平地を徘徊するようになってしまったが。
最近渓谷探検を見てこれが冒険家なのかと実感した、驚異的なテレビ番組だった。
角幡さんは素晴らしい書き手だと感銘を受けた。知らなかったが登山家でもあり山から下りれば作家になってノンフィクション賞を数々受けている人だった。

少し前になるが、映画の「エヴェレスト」を見た、これは組織的に役割分担をしたチーム登山が描かれていて今はこんな形なのかと驚いた、全員が下山できなかった実話をもとにしていたそうで、山は美しくて恐ろしい、冒険家は何を考えているのか、そんな疑問を持っていた。

そんな時、不意に現れたようなこの書籍「書くことの不純」を読んだ。
書く事の「不純」という部分を読みたいと思っていたら幸運にもこの本が見つかった、こんなことが不思議に多い。
よい本は無数にあるその一つだった。

若い女性記者からインタビューを受けた話から始まる。
「探検って社会の役に立ちますか?」質問の前で絶句した。
これが序論で、考えた後見つけた答えは、探検は外圧から自己を守る方法の一つであるということ。
私なりにざっくりはっきり言えば、外野から表面的にとやかく言われることではない、ということかも。
外の論理と自己の生き方はズレるのが当然。社会の役に立っているという外圧の論理にひとこと。

「外圧」に対して「内在」という考察も面白い。「内在」する部分も外部の変化につれて変容していく。思えばそこにあった昭和が懐かしの昭和になり時と共に変容したように。

行為は、本来は<内在>から発動するものだ。経験によっておのずと生じる。これをやりたいという思いにしたがっておこなわれれば、その行為は生きることと一致し、おのれの生の瞬間にふれることができる。だから<内在>にしたがって生きることが<よりよく生きる>ための唯一の途だ。よりよく生きるとは、社会道徳や公益性からみた<よりよく>ではなく、信念をもって自分固有の生を生きるという意味での<よりよく>である

自分の<内在>に照らして読む。世界は随分違うけれど共感する部分が多かった。冒険家と主婦の世界はどこに接点があるのかと可笑しくなるが、やはり一人の人生の歩む道は方向が違っても決断を迫られることもあれば、計画して実行する、見通しを立てることもいる。それが冒険することであっても、夕食の献立を考えることであっても。いや私の世界は狭いけれど。

こう書いてある。冒険(探検)の旅が終わると次の旅を思いつく、やらなかった人生には悔いが残る、やらなかった人生があるなら悔いる、生きた軌跡は実行したこと、決断したこと<内在>する力で生きること。と、大自然の未知に分け入る大きな目標を実行した人が書いているが、例えば家庭料理を作ることもなにかを育ててみるということも生きた証というものかもしれない。山は頂に立つことで一つの目標をほとんど完結させることができるようなものだが、人の内在するものを極めることは多様な<内在>を一つずつ明らかにして極める生き方もおもしろい。こうした本に出合える読書好きも生きることのほんの少しのショートカット法かもしれないと手前味噌だが。

長く書いたがこれはホンの序章で本題に入っていく。
読書家の角幡さんが影響を受けたという夢枕獏さんの「神々の山嶺」からの発想も印象的。
エヴェレスト山頂を前に姿を消した羽生という登山家の話だが、同じように「デス・ゾーン」では世界の名だたる山をいくつも制覇し、エヴェレストの難しい壁にとりついて滑落死した栗津史多さんのこと。劇場型と言ってもやはり人生の重たさと命がけの冒険に命を賭けた哀しみが残る。

アーティストや探検家は行動を起こすことで人々の社会通念を揺さぶる。
第三章の「冒険家芸術論」もある。
(音楽・文学・絵画等本筋的芸術分野と残らない行為である冒険や登山についての考察)

角幡さんは43歳で能力の下り坂(衰えかも)を自覚する。これらの章は特に身に染みた。
これから先のまだある空白の時間をどう埋めるか。三島由紀夫論はなるほど、彼は空白を一気に埋めた生き方をしたのか。開高健はベトナム以後の空白を釣りで埋めた。
「金閣寺」の登場人物に反映する三島由紀夫の思索の足跡も興味深く得心する。
「死の余白」という言葉をしみじみと考えた。

余白が残りわずかになった時、大脳にとりついた菌やほこりはどのくらい積もっているか、その頃どんな姿で生きているか、消滅する前が大いに気になってくる。

「はみだし理論」も興味深い<純粋さは無意味である>と。
この章もいい。私は一途さは他にとっては無意味ではないだろうかと思っているが、それこそ狭い考えかも知れず、無意味だと見る側こそ多少の盲目性に捕らわれているのではないなど斜めに考えるときもある。

あまり面白かったので長くなった、また余白途中で読み返すのも楽しみになる。

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2026年02月04日

Posted by ブクログ

こんなに明瞭に語って大丈夫だろか?と思ったら、後書きで、「こんな本を書いてしまったら、読者は、この人はもう書くことをやめるのだろうか、と受け止めるかもしれない。」と。まんまとそう思ってしまった。
しかもそれがめちゃくちゃわかりやすい。こんな私でも結論へと至る道筋で迷子にならなかった。
自身の冒険と、読書の経験とを混ぜながら、ある種の書評のような部分もあり。
三島由紀夫論は本当に素晴らしかった。めちゃくちゃ腑に落ちた。
内在と関係の話は、先日読んだ最首悟のなぜ障がいのある娘を愛するのか、という話とリンクしており、その解答を披露してくれたかのようで、めちゃくちゃスッキリしたし興奮した。
自と他の境界への深い話もあり、死を憧憬しながら、めちゃくちゃ生きることを肯定していて、その言葉が経験から語られてるから強いのよ。
これだけ語って最後は子どもの写真の年賀状から、表現するとは何かという本質をついてて、なんというか、この人すごいな、と思った。

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2025年06月22日

Posted by ブクログ

加藤典洋、沢木耕太郎、栗城史多、クルティカ、開口健、三島由紀夫らの作品や生き様を引用しつつ、自己の内面と外界との関わりを改めて問い直す。
栗城だけ反面教師になっているがw
冒険や探検に向かう自己の内面から湧き上がる衝動や行動と、それを表現し文章化して他者の反応や収入を得ること。
誰もが発信者なり得るSNS全盛の今、誰もが考える必要のあるテーマだと思う。

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2025年01月30日

Posted by ブクログ

内在と関係を冒険の行為と表現にあてはめ、芸術性の議論につなげたり、三島の生き方との相似性を考えたりと、思索を広げてくれる良い読書だった

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2025年01月01日

Posted by ブクログ

「独りよがりで不気味で得体がしれないからこそ、そこまでやるのか…と人の心胆を寒からしめる力をもつのである。逆にいえば、そもそもそこまで行かないと書く意味がない…。(本文より引用)」自分の行為に社会的な意味を持たせないといけないのか、自分の内なる衝動に身を任せてはいけないのか。そんな問いに答えた著書だったと感じました。

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2025年06月27日

Posted by ブクログ

冒険家角幡による評論
第二部の三島論がなかなか面白い
生の余白について考察

そう言えば金閣寺、読んだ事あったかなぁ?
いずれにしても三島由紀夫は殆ど読んでいないので今度読んでみよう

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2025年04月09日

Posted by ブクログ

彼の脱システム論は凡庸で退屈だったが今回の本は良い。栗城の部分も良いし三島の部分も良い。脱システム論は言い訳じみていて嘘くさいところも嫌いだったのだと今回のあとがきを読んで得心した。これからはエッセイも面白くなりそうで嬉しい

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2024年09月14日

Posted by ブクログ

表現は行為に対して不純ってのはなるほどなるほどで、これまで読んでいた冒険記についてちょっと感じてきたことが、その作者によって書かれてるってところが面白い。
中盤以降はほぼほぼ三島由紀夫評で、彼に全く触れたことのない自分にはちょっと分かりづらくもあったけど、金閣寺を読んでみようというきっかけにはなったかもしれない。

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2024年03月10日

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