【感想・ネタバレ】原子力損害賠償制度の研究 東京電力福島原発事故からの考察のレビュー

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Posted by ブクログ

想定外の過酷事故で起きた損害に対しては、それまでの賠償制度の想定を超えていた。

フクシマに、半世紀前の法律「原子力損害の賠償に関する法律」をどう適用させたかを丁寧にたどった記録。
1)第3条但し書きの「異常に巨大な天災地変」に該当するから東電を免責する。あるいは、2)第3条本則による賠償責任を負わせ東電を破たんさせる。という方法が考えられたが、どちらの道もとらず、いわば第3の道、原子力損害賠償支援機構を設立し、あくまで東電を生かしつつ責任を取らせるという現実解を選択した。この経過が当事者の証言もあって、面白かった。

なお、証言がこの損害賠償スキームを構築した官僚に依っているので、彼らに対する賛辞が多少混じるのは致し方ないところか。

また、このスキーム構築には政治家の関りはほとんどなかったようだが、このあたりえだのんの見解も聞いてみたいところだ(確かにこの頃は超多忙だったとは思うが)。

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2021年05月04日

Posted by ブクログ

福島第一原発の損害賠償は、東京に住んでいれば、税金か電気料金かでいずれにしても負担させられるわけなので、非常に関心の高い問題である。この問題に対して、正面から丁寧に解説している著書である。ちなみに、日経新聞で、総合資源エネルギー調査会基本問題委員会委員であり橘川武郎氏が紹介していた。

「…財政支出である交付国債交付は、被害者救済に使途を限定した上で、事実上の”返済スキーム”を組み込んだ点にある。支援機構は原子力事業者の相互扶助組織であり、業務運営に必要な資金を積み立てるためにすべての原子力事業者は一般負担金の納付を義務付けられる。だが、原子力損害事故の原因者(東京電力)はさらに特別負担金を納付しなければならない。その納付義務は、総額が交付国債による特別資金援助額に達するまで続く。つまり、東京電力と他の原子力事業者は負担金によって特別資金援助額を”事実上返済している”のであり、したがって、国民負担は発生しない仕組みとなる。しかも、一般負担金については、電力料金への転嫁が認められるが、特別負担金については、非事業用資産の売却や人件費の削減といったリストラなど自己経営努力で捻出しなければならない、との義務を課した。付け加えれば、政府は、厳格なリストラに加えて、株主や金融機関を代表とする債権者に責任(損失)が生じないことに対する世論の反発にも配慮し、債権者を含む全ステークホルダーへの協力の要請を図るように指導してきた。こうしたスキーム設計は、金融システム危機において、長銀処理などに交付国債を使用し、約10兆円もの国民負担を発生させた経緯を教訓として踏まえ、預保機構スキームに修正を施したものにほかならない。
 …自民党政権下でおよそ10年に亘って対処されてきた金融システム危機の教訓が、制度設計と運用両面において、民主党政権下での原子力損害賠償制度の設計に引き継がれている現実は、日本における政策的蓄積は政治ではなく行政組織になされている証左であろう。」
行政がこのような敏感な問題に対し、世論を気にしているということは、個人が関心を持ち続けなくてはならないと思う一方で、これまで批判されることが多い行政組織を見直した良い機会となった。

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2021年08月08日

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