あらすじ
メイドは玉の輿に乗れるのか?
19世紀イギリスのミリオンセラー『ビートン夫人の家政書』によると、社交界では家庭の主婦が集まれば使用人の愚痴に夢中になったという。では、それはどんな愚痴だったのか?
本書では、伝統的な使用人がどのように文学作品に表われているかを考察しつつ、使用人についての記録やハンドブックなどを参照して、イギリス文化と文学における使用人のイメージとその実態(と、愚痴の生まれる社会的背景)を比較分析する。
下男の章で、ディケンズ『荒涼館』に登場する刑事が、屋敷の下男に対する聞き込みの際に、「下男にとって理想的な出世コース」をたどった父親の話をして親近感を抱かせる話が紹介されるが、Uブックス化にあたって新たに追加された「『使用人』ではない被雇用者たち」の章では、オースティン『自負と偏見』で、ウィカムがリジーに対して父親のまさに同じような話をして取り入るくだりが解説され、興味深い。
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Posted by ブクログ
もとは2011年刊、本書はその増補新書版。テーマは、イギリスの家事使用人(servants)――執事に始まって、ハウスキーパー、料理人、メイド、従僕と下男、乳母まで。増補版では、ランド・スチュワードやガヴァネスなど準使用人が加わっている。読み応えあり。トリビアもゴロゴロ。
類書に小林章夫『召使いたちの大英帝国』(洋泉社新書)があるが、好対照。書きぶりも材料もまるで違っている。あちらは、家事使用人の歴史とシステムと生態、いわば初級・中級編だった。
本書は上級編。文学作品に登場する使用人について解説している。登場する作品は多数。たとえば、執事の場合は、ウィルキー・コリンズ『月長石』やカズオ・イシグロ『日の名残り』など。増補分のガヴァネスの箇所では、シャーロッテ・ブロンテの『ジェイン・エア』と妹のアンの『アグネス・グレイ』を対比させて解説している。
表には出てこなくても、裏方として家事使用人がいることを想定すると、いろんな作品が読み解ける。私も「えーっ、そういうことだったの!」を連発したもん。
(p.s. 執事のトリビアをひとつ。butler(執事)の語源はフランス語のbouteiller(瓶をもつ者)。彼らの主たる役目は、まずは酒類の管理、そこに家事全般の統率が付け加わる。執事を引退した後は、居酒屋を経営することが多かったそうな。なるほど。)