あらすじ
「クチキゴキブリのメスとオスは、互いの翅を食い合うらしい」
類を見ない不思議な現象に惹かれた著者が、採集・飼育・繁殖方法など、わからないことだらけのこの生物に秘められた謎を体当たりで追いかける。
沖縄・やんばるでの採集、トライ&エラーの飼育、予算がない中でのDIYな実験、そして翅の食い合いの意義とは――行動生態学の基本と最前線をわかりやすく解説します。
また、そもそも研究とは何のために行うのか、学会を活用するには? 論文はどうやって書かれているのか、といった一般読者は知らないけれど興味深い研究の現場、研究世界の歩き方についても語ります。
本文に収録した超細密で美しいイラストは、著者による作画。研究対象である生き物と、それに生涯をささげる研究者、研究という営みの魅力が詰まった一冊です。
■内容
第1章/やんばるの地に降り立つ
第2章/謎の行動、翅の食い合い
第3章/三度の飯より研究
第4章/クチキゴキブリ採集記
第5章/実験セットを構築せよ!
第6章/戦場でありフェス、それが学会
第7章/翅は本当に食われているのか?
第8章/論文、それは我らの生きた証
第9章/ゴキブリの不可思議
第10章/研究者という生き物
■著者について
大崎 遥花(おおさき・はるか)
1994年生まれ。日本に現存する唯一のクチキゴキブリ研究者。
九州大学大学院生態科学研究室博士課程を修了後、京都大学を経て、2023年よりノースカロライナ州立大学で研究を行う。日本学術振興会特別研究員。
狭い場所が好きなのにアメリカの家は広く、最近落ち着かないらしい(研究者と研究対象は似るという)。
面白いといえばゴキブリ、でもカッコいいといえばカミキリ。ゴキブリ採集の副産物の土壌動物も好物。
ペンで生物画を描くのが趣味。クチキゴキブリ研究に生涯を捧げることになるのだろうなあと腹をくくっている。
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Posted by ブクログ
クチキゴキブリの後尾相手の翅を食い合うという習性を研究している研究者の本。
大学の博士課程を卒業し現在はポスドクとしてアメリカで研究をしている。
大学での研究過程や博士課程の誤解について説明したり、学会や研究者同士のつながり、教員とのやりとりが丁寧に記されている本でした。同じ理系学生としてとても面白かった。
自分の専攻は数学だが、確かに数学の研究も似たようなものなのだろうなーと同時に数学にはないフィールドワークとか、他の研究室の見学だとかはとても羨ましくなった。
修士課程、博士過程に進まなかったことをほんの少し後悔している自分的にはその後悔が掘り起こされ、とても羨ましくなった本でもありました。面白かった。
Posted by ブクログ
クチキゴキブリ研究という天職ともいえる対象にめぐりあった若き研究者が、その対象への愛と、研究生活の日々をつづったお気楽なエッセイ。
オス・メスが互いに相手の翅を食べ合い、子育てを共に行い、一生添い遂げる。その行動の謎を追った研究成果ではあるが、第10章に「研究者という生き物」と題されているように、全般に、研究者というものが、どのように研究対象と出会い、研究を進め、関連学会で知己を得、論文を発表し、己の研究がいかに学術的価値があるかを世に認めてもらうために、日々、足掻き続ける様を、面白おかしく綴っている。
「ティンバーゲンの4つのなぜ」「べイトマン勾配」「性的対立」 etc. etc., 研究を進めていく上で、いくばくかの専門用語、学術的解説もあるが、それらは、ちょっとした薬味程度の刺激。本書は、だいたいが以下のようなトーンで綴られる。
「クチキゴキブリは、朽木というセルロースだらけの非常に消化の悪いお菓子の家に棲んでいる。さらに、このお菓子の家は非常にじめじめしていて、放っておけばカビがルンルンしてしまう。」
著者自身が楽しんでいるような文章は、基本、笑えないのだが、まぁ、その緩さも許容範囲。もう少し洗練されても良いとは思うが。
これから、研究者の道を歩もうとする学生などは、本書を読んで、その生態の理解が進むことだろう。愛すべき対象に出会えたら、研究職も意外と楽しそうだ。
著者が属する生態学会では、「アウトドアブランドのモンベル(mont-bell)製品を着た、これから登山ですか?という服装の人で溢れかえっている」らしい。
“「生態学会はモンベルが正装」とまことしやかに言われているくらいだ。”
そうだ。
モンベルさんも、そんな購買層があることは知らなかっのではなかろうか? 新たな商品開発をフィールドワーカーと進めるべきだろう。
でないと、けっして裕福ではない若き研究者たち、ワークマンに流れてきかねない。 余計な心配もした。