あらすじ
【"この国のかたち"を鉄路で描いた者たちの、栄光と蹉跌の全史】
かつて日本には、国家の所有する鉄道があった。
その組織は平時においては陸軍をしのぐ規模を誇り、列島津々浦々の地域を結びつける路線を構想することは、社会のグランドデザインを描くことそのものであった。
歴代の国鉄トップは、政治家や官僚たちは、そして現場の人々は、この巨大交通システムに何を託し、いかに奮闘したのか。
近代化に邁進する明治政府が新橋・横浜間を開設してから昭和末期に日本国有鉄道が分割民営化されるまで、「鉄道と国家」の歴史を一望する壮大なパノラマ!
【本書より】
日本の鉄道の歴史は大きく四つの時代に分けることができます。まず、明治時代の私鉄が主役だった時代、次に、日露戦争後に多くの私鉄を買収した政府が直営した時代、さらに、第二次世界大戦後、国鉄が公社化されて日本国有鉄道となった時代、そして現在のJRの時代です。
(中略)
本書ではこれから、日本の鉄道の歴史を、鉄道がいかにあるべきかというグランドデザイン、その実現のための経営体制、そしてそれを動かしてきた人物ということに焦点を当てて描き出していきます。それにあたって、この四つの時代区分という捉え方は、たいへん見通しをよくしてくれるので、これに従って議論を進めていきたいと思います。
【本書の内容】
プロローグ 「鉄道一五〇年」と国鉄
[第一部 「国鉄」形成の道程]
第一章 私鉄の時代(一八七二─一九〇六)
1.官設鉄道の誕生
2.「鉄道の父」井上勝
3.鉄道敷設法と私鉄の繁栄
第二章 国家直営の時代(一九〇六─一九四九)
1.鉄道国有法の制定
2.「国鉄」の誕生
3.初代総裁後藤新平の組織作り
4.原敬と改正鉄道敷設法
5.国鉄ネットワークの充実
6.戦時下の苦闘とその遺産
[第二部 日本国有鉄道の興亡─公社の時代(一九四九─一九八七)]
第三章 「復興」の中で(─一九五五)
1.占領期の混沌
2.「公共企業体」の桎梏と総裁たち
3.組織と人々
第四章 「近代化」への邁進(―一九六五)
1.新しい時代の鉄道像
2.「改主建従」の夢
第五章 光と影の昭和四〇年代(─一九七五)
1.都市交通と国鉄の使命
2.効率化がもたらすもの
3.「政治主導」の時代
4.国会とストライキと債務と
第六章 再建の試みと崩壊(─一九八七)
1.「後のない計画」
2.分割民営化への道
エピローグ JR以後(一九八七─)
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
分かりやすくて読みやすい!"国鉄"中心に語られる日本の鉄道通史。シンカリオンで鉄道のみちに触れた者としては、ハヤトくんが言っていた鉄道知識や十河さん島さんの名前の元ネタ、都市と地方の格差の問題など、知りたかったことがたくさん載ってて嬉しかった。実際の現場のことも多く載っており、国鉄以後生まれには非常に具体的にイメージがわきやすかった。
Posted by ブクログ
元国鉄総裁の仁杉巌氏の鉄道40年周期説に則り、日本の鉄道史を40年単位で論じた一冊。
ポストコロナ時代を迎え、鉄道(JR)の新たな在り方が問われる現代だからこそ、日本鉄道史を学ぶ意義が出てきたと感じる。国鉄の民営化は成功物語として語られることが多いが、ローカル線の赤字、整備新幹線の建設、三島会社の経営問題が表面化し、JRはモデルチェンジを迫られている。しかし、こうした危機は、民営化当初から内包されており、たまたま現在問題化したに過ぎないのだと本書で理解出来た。
国鉄民営化から40年を迎えようとしている今、日本の鉄道の未来は岐路に立たされている。小手先その場しのぎの鉄道政策は将来への宿痾となり、交通ネットワークを危機に陥れかねない。長期的な見通しを持った鉄道政策の重要性を本書は教えてくれた。
余談だが、本書には井上勝、渋沢栄一、原敬、田中角栄、中曽根康弘などの歴史人物が数多く登場する。鉄道が政治の産物であり、切り離せない関係であることがよく理解出来た。戦後の国鉄が政治介入を受け運営に苦しんだことを考えると、結局は程々の距離感が大切という、ありきたりな結論となるのかもしれない。
Posted by ブクログ
読みやすく面白い。
第一部は国営か民営かを主軸に歴史を追う展開。
惜しむらくは地図をもう少し大きく充実してくれると現代との比較がしやすくなお良かった。知らないところも多く面白かった。
たとえば、8620/9600の開発は1906年の鉄道国有化で大量の私営鉄道を国有化した中で規格統一が急務だったことが背景にあるなんてのは驚きだった。今でいうM&AのPMI的なものだったのだ。だからこそ、あの辺りの時代からいかにも外国製という感じの機関車からなんとも日本的な蒸気機関車に変化するのだな、などとも思うなど。
戦後から国鉄民営化までを追う第二部は国鉄総裁を軸としながら様々なイベントをキーに流れを追う。
国鉄民営化までの流れは様々な書籍等が溢れてることもあるが、そこまで目新しいものは無かったかな、とも(つまらないわけではない)。様々な書籍にあたっているのは好印象。
全編通して所々で宮脇俊三の書籍の引用が入る。著者が好きなのもあるのだろうが、利用者の目線から70-80年代の国鉄の種々の路線を歴訪し瑞々しい筆致で描き出した宮脇の作品群は第一級の貴重な資料なのだと強く感じた。
Posted by ブクログ
内容は日本国有鉄道の歴史だけではない。
明治時代の官設官営鉄道や私鉄時代から説明し、いかにして全国ネットワークの統一的な巨大組織が生まれたのかということに前半部分を割いている。
組織が世の動きについていくこと、そして鉄道を通じて国土をどうするかを決めることの難しさが感じられた。
「あらゆる制度設計なんて三十年も持ちやしない」(252ページ)