あらすじ
エジプトと互角に戦った古代帝国ヒッタイトの実像に迫る! 人類の歴史を変えた鉄器を最初につくったと言われるヒッタイトだが、20世紀初頭の再発見までは長く謎の民族だった。しかし近年、粘土板の解析や遺跡の発掘も進み、その正体が徐々にわかってきた。本書では、ヒッタイト建国から帝国の滅亡、彼らの文化や暮らしぶりまでを紹介。最新の発掘調査の成果を踏まえつつ、謎の古代帝国の全貌に迫る意欲作。 ●ヒッタイト人はどこからやってきたのか? ●王位をめぐる混乱とミタンニ国 ●ヒッタイトからみたカデシュの戦い ●敵国の神も取り込んだ「千の神々」の世界 ●発見されていないヒッタイトの王墓 ●ヒッタイトは製鉄技術を秘匿していなかった ●動物はウシを重視、パンへの愛も ●聖書の中で記憶されたヒッタイト ●ヒッタイト帝国で製鉄は始まったのか? ●カデシュの戦い後、70年余りでなぜ滅んでしまったのか?
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Posted by ブクログ
歴史に詳しい人でも「鉄器を用い、ラムセス2世と戦った。海の民に滅ぼされた」程度の知識しか持っていないであろうヒッタイト帝国についての一般向け解説書。入門書と言っても良いだろう。
ヒッタイトについて語られることの少ない理由、鉄器を初めて用いたと言うのは本当か。海の民に滅ぼされたという真相はどのような物なのか?など発想すらしてこなかった疑問を投げかけ、答えてくれる本だった。
Posted by ブクログ
高校の世界史で少し触れた古代オリエント世界、楔形文字を操るシュメール人や、強大なミタンニ帝国、バビロニア王国、アッシリア帝国からのササン朝ペルシアに至るまで、横と縦の関係性が全く掴めずに苦労した記憶はないだろうか。その中で鉄の王国として印象的なのがヒッタイト帝国で、それ以降深く学ぶ機会などなく、あくまで科目としての暗記事項にとどまってしまっていたことはとても寂しい。改めてヒッタイトの歴史入門書を読んでみて、歴史、考古学というのは、断片的に得られる情報、資料の中で、当時の社会体制を構造的に描き出していく、とてもロマンに溢れる営みであると思った。数千年も前の人々の考え方、社会体制、神学、戦争、インフラ工事など、想像するだけでワクワクするような世界だ。当時の屈強なハティ人も、戦争の脅威に怯え、神の御心を探りながら、釜でパンを焼きながら、愛する家族と身を寄せ合いながら、同じ青い空を見上げていたのだろうか。
Posted by ブクログ
20世紀初頭まで謎だった民族、ヒッタイト人。
彼らは何処からきて都市を形成し、王国・帝国へと発展、
そして、どうして滅亡してしまったのか。
最新の調査・研究や楔形文字粘土板文書の解読から、
その国家、外交、生活などを詳細に解き明かし、解説する。
・はじめに ・主要参考文献
第一章 ヒッタイト人の登場
第二章 ヒッタイト帝国の建国:古ヒッタイト時代
第三章 ヒッタイト帝国の混乱:中期ヒッタイト時代
第四章 帝国化するヒッタイト:ヒッタイト帝国期
第五章 絶頂からの転落?:ヒッタイト帝国の滅亡
第六章 ヒッタイトのその後:後期ヒッタイト時代
第七章 ヒッタイトの国家と社会
第八章 ヒッタイトの宗教と神々
第九章 ヒッタイトは「鉄の王国」だったのか?
第十章 ヒッタイトの戦争と外交
第十一章 ヒッタイトの都市とインフラ
第十二章 ヒッタイトの人々の暮らし
第十三章 ヒッタイトの再発見
最新の調査・研究や楔形文字粘土板文書の解読を元に、
浮き彫りになってきた、ヒッタイト帝国の姿。
アナトリアを中心に、アッシリア商人との貿易から
発展した都市国家群が王国や帝国の基盤に。
古代ヒッタイト時代のハットゥシリ一世による国土拡大。
中期ヒッタイト時代の中興の祖・トゥトハリヤ一世は
勢力をエーゲ海にまで広げた。
周辺からの攻撃で一時は衰退したが、ヒッタイト帝国期、
シュッピルリウマ一世がアナトリアの覇権を奪還する。
その後の帝国は疫病蔓延の中でも外交と軍事で成果を挙げ、
エジプトとのカディシュの戦いで絶頂へ。
しかし内戦や属領の自立、大旱魃、アッシリアや西方諸国の
動きに他民族の攻撃が重なり、滅亡してしまう。
全ての時代での後継者問題や王位簒奪、王族殺しもあった。
発掘史料から見えるのは国の変遷の他にも。
神々の代理人としての王の責務。
千の神々の多様性な宗教。祭礼と神殿建築の様式。
エキスパートな書記と多言語。王政と行政システム。
ヒッタイト法典。戦争と外交。牛やパン、ワイン等の食文化。
「鉄の王国」ではなかったこと。そして都市とインフラ。
大規模な地下穀物貯蔵倉、ダム、貯水池、地下に巡らされた
上水道は、古代にこんな技術があったのかと驚かされる。
最後のヒッタイトの再発見が興味深かったです。
歴史からは消えたが、旧約聖書にヒッタイト?な記述。
19世紀頃からの探検家や研究者の未知の遺跡の発見、
粘土板文書の解読により、ヒッタイト再発見に繋がる。
それは紆余曲折の道のりであり、考古学や文字解読の進歩の
道のりでもあります。その行程にわくわくしてしまいました。
今後の調査・研究の進展が楽しみです。
Posted by ブクログ
ヒッタイトについて漠然としたイメージ、つまり鉄器で古代エジプトを圧倒したとかいうような情報しか持たない者にとって、今まで積み上げられた発掘された遺物による考古学の成果をベースに、何が判明していて何が不明かをはっきりとさせている詳細な解説がありがたい。現トルコ各地の遺跡の情報や、特に日本で根強い「鉄の王国」のイメージができた理由などとても興味深かった。
Posted by ブクログ
想像の何倍も丁寧で詳しい内容だった。大満足。
古代エジプト考古学者になりたかった時期もあったからか本屋で見つけて即断即決即買。
碑文や書簡の日本語訳と引用されてたりして本当楽しめた。
鉄の国っていうイメージしか持ってなかった自分としては大変勉強になった気がしてる
Posted by ブクログ
友人にヒッタイト好きな人がいる。加えて、テレビで古代文明についての番組が組まれたこともあり、手にした本。テレビでの説明が簡単で分かりやすかったが、さすがに詳細が書かれていた。鉄の帝国、ヒッタイト。謎の海の民に滅亡させられた、との認識でいたがそうではなかったようだ。鉄も持っていたが、それはヒッタイトだけではなく、しかも隕鉄という隕石からできたもので、鉄の精製をしていたわけではなさそうだと知り、驚く。ヒッタイトではとにかく王が殺し殺されていて、文化の違いを感じる。そこは闘いに強いヒッタイト、のイメージから大きく覆らなかった。知ってるつもりになっていたヒッタイト帝国について、知識を修正できた。
Posted by ブクログ
鉄の軍事国家というイメージを払拭してくれた内容でした。
都市のインフラや人々の食など、想像以上に発展している印象です。
多神教で征服した地域にも寛容だった点は古代ローマに通じており、現代より古代の方がグローバルな視点があると思いました。
Posted by ブクログ
ヒッタイト帝国のイメージは、本書でも書かれる通り「鉄器を早くから使用して、古代オリエント世界でエジプトに並ぶ勢力を築いた」「バビロンを攻撃して滅ぼした」それと、「鉄の戦車(チャリオット)」。鉄の帝国で戦車まで作った文明なので、さぞかしと期待をもってこのチャリオットの絵を見ると、なんか‟人が引っ張る第八車“みたい。さすがに馬が引っ張ってはいるが、その荷台で人が弓を放つだけのシロモノでガッカリした記憶がある(それでも凄い発明ではあるのだが)。
本書はそんなヒッタイトの表層的なイメージをやや専門的な領域まで入り込んで学んでいくという本。例えば、本当に「海の民」に滅ぼされたのか、など。
― ヒッタイト帝国の滅亡に「海の民」が直接関わったということはほぼ考えられない。しかし、「海の民」による動乱が引き金となって、それまでヒッタイト帝国を支えていた様々な制度(システム)が機能不全を起こし、新たな不和(国民の分断、属国の自立)や争い(内戦)へと連鎖し、帝国が崩壊するに至ったと考えることができる
また、ヒッタイト帝国の重要資料としてのヒッタイト法典について。200条からなり、最初は古ヒッタイト時代のテリピヌ王の頃までに制定され、その後トウトハリヤ4世以降、何度かの改訂を経て、その度に刑罰が軽くされ、現物補償から金銭補償へ移行していく。裁判官がいて、一法に基づいて紛争を解決していたのだという。
そうした法治制がある中での王の位置づけも興味深い。ヒッタイト帝国では王自身は神ではなく、神々の代理人のような立場であるが、王が死去した場合は神になると考えられていたようである。
また冒頭すこし揶揄してしまった「チャリオット」だが、これは日本でいう流鏑馬のように移動しながら狙撃する新たな戦術でもあった。速度と狙撃を組み合わせた複雑なオペレーションで、のちの騎兵戦術の萌芽にも見える。また、チャリオットは「王権の象徴」という側面もあり、王は儀礼や祭祀でチャリオットに乗って登場することもあったという。
よく知る事(知ろうとする事)と与えられたイメージだけを持つことは違う。印象やイメージだけを眺めているから、人間は間違うのかもしれない。こうした認知ミスやバグの積み重ねによる制度的疲労、外的圧力により、やがて社会は制御不能になっていく。ヒッタイトの実像に迫る一冊。