あらすじ
独立戦争中のアメリカ。投獄された英国兵エドワードは、何故植民地開拓者と先住民族のミックスの青年アシュリーを殺害したのか?
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Posted by ブクログ
エド、またやったのか…というところからの反転に驚いた。手記の矛盾を紐解いていくのがいい。
怪我人を看たり、死因が気になったりと、エドもクラレンスもダニエル先生の弟子なんだな、と感じるシーンが多かった。時おり解剖ソングが出てきて空気が和らぐのが嬉しくもあり、ロンドンで全員が揃っていたあの頃との距離も感じて切なくもあった。
エドがモーリスの前で仮面を脱ぎ、ナイジェルへの思いを自ら語るシーンが心に残っている。エドは三部作の主人公であり、わたしたちは彼が全てを背負ってしまう人物だと知っているけれど、彼が自ら吐露するシーンはそれほど多くなかった気がする。「愛という言葉には当てはまらないのに、愛と呼ぶほかはない。loveの前にcrazyとつけなくては正確ではない」(p.400)
法について語るシーンも、第1作からの重みがある。
アシュリーの策略により、エドは無事に逃げおおせてクラレンスとも再会できてよかったし、最後の方は柔らかくほほ笑むようになっていたので安住の地にたどり着いたのかな…と思っていたところから、最後の展開に言葉を失った。クラレンスはアルに「書けない」と書いているが、本当に書けない。一緒にロンドンに帰ろう、とクラレンスは言っていたが、それはついぞ叶わなかった。
〈美しい湖〉と共にいたエドは最後に何を思ったのだろう。自ら悪であることを選び、殺人に手を染め、愛する者を失い、埋まることのない喪失を抱えて新大陸へと向かったエド。エドは死刑にならないために志願兵となったが、同時に死に場所を探しているような危うさもあった。エドワード・ターナーの人生とは、何だったのだろう。三部作を読み終え、祈りにも似た感情が渦巻いている。
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1775年、英兵として新大陸に渡ったエドとクラレンス。独立戦争のさなか、モホークとの交流や、戦地で起こった事件を巧みな叙述トリックで展開していく。
視点はモホーク族とコロニスト大地主のハーフとして生まれた庶子アシュリーと、我らがクラレンス。
アシュリーの視点では、支配される側と支配する側両方の血を持つがゆえの葛藤と成長、モホーク族との心温まる交流が描かれる。
クラレンスの視点では、モホークと徐々に打ち解け、理解し合い、互いを尊重し合う様子や、エドに対する思い、懐かしいアルやベン、ダニエル先生への追憶。このパートは、前作から読んでいて思い入れのあるわたしには、胸が苦しくなる。
最後は涙で文字が読めない。
結局、インディアンの居留地を容認すると宣言したイギリス側が敗退し、かねてからインディアンの土地を奪って利用することを宣言していたアメリカの勝利によって、ジョージワシントン勅命の下、インディアン殲滅を目的とした虐殺が始まる。
歴史でわかっていても、物語に入り込んでこれを体験すると…..。
エドを思うと、胸が潰れそうになる。
エド、わたしたちは今も何も変わっていない。
強い国が弱いもの(他民族)から搾取する。自然を奪う。
戦争犯罪は罰せられるなんて、偽善者を安心させるための嘘で、法はなんの役にも立たない。
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「開かせていただき光栄です」から始まるエドを主人公としたシリーズの三作目。これで完結と銘打たれている。
今作は安楽椅子探偵ならぬ獄中探偵となったエドの語りと回想シーンがそれぞれ交互に展開され、しっかりと追いかけないと話に着いていくのも難しい。けれどその構成がまた上手く、内容に惹き込まれる。
本編も大変面白かったのだがネタバレを避けると物語るのが難しい。ただ、巻末の解説が非常に良かった。解説の中で話の内容に触れるものは少ない印象だが、一般的な読者では気付くことが難しいところに専門家の観点から解説が加えられていて、またその内容が非常に興味深く、この三部作への畏敬の念を強くした。(「思えばこの三部作は、初めから小説の小説であった。」から始まる箇所)
生涯自分の記憶に残るシリーズになるだろう。
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皆川博子『インタヴュー・ウィズ・ザ・プリズナー』(ハヤカワ文庫2023年11月印刷)を読んで――雑文。
通常は作品の感想を書きますが、今回は、ミステリのシリーズ三作目である事もあり、前作をも含めてネタ割りをせずに感想を書くのも辛いので、取り留めのない雑文になります。まあ、ふだんから取り留めのない感想を書いて居りますが。
もう言うてもよかろうが『インタヴュー・ウィズ・ザ・プリズナー』は文庫版が出るまで待って読みました。前二作はハードカヴァーで買い、文庫版に付録が付いたので文庫版も買うたのですが、ハードカヴァーの方は已む無く手放したので、文庫版で揃えたいと思うたからです。今度も文庫版にはおまけが付くかという期待もあったのですが、それがなかった事は残念です。バートンズの短篇があった筈、どこかで纏めていただきたく存じます(できれば文庫サイズで、新装版等でも嬉しい)。文庫版といえば解説が付きものですけれども、杉江松恋氏の解説は読み応え有り、作品世界と距離を置き日常に帰ってくる道標として調度よく、まことに助かりました。
さて、皆川作品に於ける続編は、読むのに覚悟がいるというか、私が続編という物に求めがちな内容から少少外れる事が多い。まさかこんな事とは…!という展開が多い気がします。シリーズ一作目『開かせていただき光栄です──DILATED TO MEET YOU』は、比較的読み易いので皆川作品未読の人にも推奨できるという声もありますが、それはその通り。シリーズ未読の方はやはり一作目から読むのがよいでしょう。
ところで、私の大好きな皆川氏の近作『風配図 WIND ROSE』の続編(?)の話も聞こえて参りますが、紹介を読むだけで不穏で不穏で。楽しみです。
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・シリーズ3作目。
・「クロコダイル路地」で、バートンズの面々のその後がちょろっと描かれていたが、本作はそこでは描かれていなかったエドとクラレンスの、新大陸アメリカでの話。
・アメリカ独立戦争の直前。上に新大陸とつい書いてしまったが、それは英国側の論理。先住民族を搾取する植民の物語でもある。
・が、そこは皆川博子、アシュリーという中間者を設定し、異文化の衝突と交流を鮮やかに描く。
・しかもアシュリーを、読者にとって共感しやすい本好きとした。解説に杉江松恋が言うように、書くことや語ることを前面に押し出し、どころかそれすら謎に取り込んで、小説の小説に仕立てる。これぞ小説の女王。「書いたものが届く」ことの奇蹟。
・個人的には、中年になってウィリアム・フォークナーにようやく接近しているのだが、その前史をまさか皆川博子の筆で開陳されるとは。僥倖とはこのこと。
・Podcast「コテンラジオ」のアメリカ開拓史パートも参考になった。
・それにしてもこれで終わりか……と遠い眼をしていたら、なんと早川書房「ミステリマガジン」にスピンオフ短編がいくつか掲載されているらしい。
こりゃバートンズ短篇集、あるぞ! と哀しさ半分嬉しさ半分で、明日からもまた生きていけるのであった。
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エドワード・ターナー三部作、最終章。
アメリカ大陸に渡ったエドが囚人として地下牢に収容されているところから始まる。
アメリカがまだイギリスの植民地だった頃の話。独立を望むアメリカ、先住民インディアンを迫害するアメリカ、イギリスの振る舞いなどがリアリティを持って描かれている。
今回はミステリーというより歴史小説の側面が強かった。
第一作目の『開かせていただき光栄です』が完璧なミステリーだったので、それを望む人は少し肩透かしかな?
とはいえ、エドがどうなってしまうんだという一心で読み進めたので物語としては楽しめた。
以外ネタバレ
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エドには幸せになってほしいと願っていたけど、結局悲しい最後だったね…
エドはナイジェルが死んだ時からずっと、死に場所を探していたんだろう。切ない。
このシリーズは、イギリスに生まれたエドワード・ターナーという美しく聡明な人間の決して楽では無い人生譚だった。
私は一作目が衝撃的に面白くて好きだけど、このシリーズを読むことができて良かったな。エドには生きて欲しかったけど(泣
にしても、95歳でなお毎年多数の作品を世に生み出す皆川博子のバイタリティに感服。そのエネルギーをいただきたいよ、、、、