あらすじ
めまぐるしいオフィス風景をユーモラスに描く「多忙な株式仲買人のロマンス」、若く貧しい芸術家たちの姿を描いた「最後の一葉」、表題作の「1ドルの価値」。O・ヘンリーはアメリカの原風景とも呼べるかつての南部から、開拓期の荒々しさが残る西部、大都会ニューヨークなど、さまざまに舞台を移しながら多彩な作品を生み出した。世界各国で読み継がれる代表作のほか、知られざる作品も新訳で登場。心に染み入る珠玉の23編。【光文社古典新訳文庫】
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Posted by ブクログ
世相へのシニカルな視点を保ちつつ、温かみを決して失わない語り口が絶妙。どの作品も面白く、オチの付け方が天才的だった。
南部に生まれ、中米での逃亡生活やニューヨークでの都会暮らし等、様々な経験をして「人生の滋味」を会得した作者の作品は見事。アメリカ文学の新境地を切り開いたといっても過言ではない。
個人的には、「献立表の春」「甦った改心」「幻の混合酒」「靴」「警官と賛美歌」「賢者の贈り物」が好き。(「賢者の贈り物」がダントツだが、、)
以下、それぞれの作品に対するメモ書き。
・多忙な株式仲買人のロマンス
忙しすぎる金融街で働くサラリーマンを、コミカルに描く作品。ウルフ・オブ・ウォールストリートをめちゃくちゃ綺麗にした感じ。
・献立表の春
恋焦がれる女性に春が訪れる様子を、実際の季節の移り変わりと絡めて描く上品な作品。献立表の使い方が秀逸。ところどころ入る作者のメタ発言がよかった。
・犠牲打
どうしても自分の作品を世に出したい主人公のドタバタ劇。特に読みやすい作品で、作者のユーモアのセンスが遺憾なく発揮されている。守衛の「寝ぼけたことを抜かすな!」で笑った。
・赤い族長の身代金
悪党2人が身代金目的で誘拐した腕白坊主に振り回される愉快な作品。他の作品に比べると、内面描写が薄くて文学要素に欠ける印象。
・千ドル
飄々としていて自由気ままながら、失恋してしまうジリアン青年がなんとも愛らしい。最後の決算書を破り捨てるところなんか、主人公すぎる。
・伯爵と婚礼の客
「心のメモ帳」をはじめ、随所に天才的なワードセンスとユーモアが散りばめられてる。急にメタ発言が入ったり、恋愛を題材にしたりと、いかにもO・ヘンリーらしさが際立っている印象の作品。
・しみったれな恋人
本物の貴族とショップガールがすれ違ってしまうオチのラブコメ。貴族がチンピラに対して抱く嫌悪感の描写がとても秀逸。女性が働くことを、「乙女の誇り」と表現しているのも見事。
・1ドルの価値
検事が過去に裁いた凶悪犯と対決する物語。作者の得意とする市井の人々の人間模様とは打って変わって、西部劇のテイスト。「1ドルの価値」というタイトルがいい。
・臆病な幽霊
一家の男が臆病で奥手なのは、先祖代々から続いていたというオチ。母親思いの息子に感情移入することができず。もっと庶民的なテーマの方が、作者の才能が発揮されると思った。
・甦った改心
恋に落ちて金庫破りから足を洗った後にアーカンソーの田舎町にうまく溶け込み、家族思いなジミーがとにかくクールガイ。ラストの警官とのやりとりは、映画のラストシーンみたいでかなりかっこよかった。
・十月と六月
年の差婚を理由に断られた男が、なんとかして彼女と結婚したいと考える物語。見事なまでの叙述トリック。こんなに短くても、ここまで面白いのは天才としかいいようがない。
・幻の混合酒
酒が完成した後の顛末が、いかにもバカらしくて愛くるしい。あんなにウブな主人公を一瞬で豹変させる黄金の酒、自分も飲んでみたい。笑
・楽園の短期滞在者
都会の中のオアシスを、ひとつのホテルに再現させる表現力が見事。結局、滞在してる人達がよそよそしかったのも、身分を偽ってバカンス気分を味わってたのが理由で、知り合いに会いたくなかったからなのかな。
・サボテン
プロポーズに応えてもらえなかった男の後悔の念を、丁寧に描く作品。見栄っ張りはダメだということを思い知らされる。
・意中の人
これまた「十月と六月」同様の叙述トリック。プロポーズだと思ったら、お手伝いさんを探していたという話。これだけ美しく描写されるヴィヴィアンヌだけど、タウンゼントが言ってたとおり配管工なのかな。笑
・靴
軽い気持ちのイタズラから、靴の需要が全くない街に靴屋が開かれることとなるドタバタ劇。ラテンアメリカであろう地域の空気感や、領事官の人物像が丁寧に描かれていた。最後はまさかの方法で靴の需要を作り出すことに、、
・心と手
犯罪者が昔馴染みにの人の前で恥をかかないよう、保安官の粋な計らいが光る作品。静かながらも、こうして人の優しさを描く作品は好き。最後に落とす技術が素晴らしすぎる。
・水車のある教会
作者の特徴であるユーモアは控えめなものの、感動的な作品。ある田舎の避暑地を舞台に、生き別れた親子の再会が描かれる。登場人物がみんな善人に描かれていて、情景描写も美しかった。
・ミス・マーサのパン
マーサおばさんの優しさが、裏目に出てしまうお話。やっぱり、思いや感じていることは素直に伝えることが大事。こんなにいい人が、こんな結末を迎えるなんて悲しすぎる。
・二十年後
二十年ぶりに再会する親友同士の話。ひとりは荒くれ者、ひとりは警官となっていたというオチ。短い作品ながらも、伏線の張り方も見事で、著者のセンスが光りまくってる。
・最後の一葉
肺炎と戦う絵描き達の話。階下に住むベアマンさんの優しさ(最後に残した傑作)が胸を打つ。市井の人々の非喜劇を描いてきた作者の、集大成的な作品。文句なしの傑作。
・警官と賛美歌
逮捕されたくても逮捕されない浮浪者が、真人間になることを決意した瞬間に逮捕されるという皮肉たっぷりの話。ユーモアのセンスが光りすぎており、「最後の一葉」とはまた違った形で集大成的な作品と言える。
・賢者の贈り物
何度でも読み返したい人間讃歌。ある夫婦のクリスマスプレゼントのエピソードから、人間を思いやる心の大切さを訴える心に響く作品。この短編集の最後を飾るに相応しい作品。
Posted by ブクログ
「賢者の贈り物」 2016/2/16
日々の暮らしにも事欠くほどの貧しい家庭の夫婦が、お互いにクリスマスプレゼントをするために自分の一番大事で高価な代物を犠牲に、愛するパートナーへの贈り物を買った。その贈り物はお互いの犠牲によって何の意味も価値もないものになってしまったが、本当にそうなのだろうか。その価値のない贈り物をし合った二人を筆者は、聖書に出てくる3人の東方の賢者に例えるほど、彼らを「賢者」であると言っている。彼は何故彼らを「賢者」であるといったのか。「賢者」とはいったい何なのだろうか。
物語中に「年100万ドルの収入のものと週20ドルの収入の違いとは何であろうか」という問題提起がある。収入や生活環境でいえば、明らかに前者のほうが豊かな生活であることは誰にでもわかる。しかし、主人公夫婦が貧乏だからといって不幸であるようには思えない。つまり、収入の差による物の豊かさや出来ることの多さは幸不幸にはそれほど影響を及ぼさないということである。
では、この物語がお互い価値がなくなることなく贈り物をすることができたら、彼らは「賢者」ではないのだろうか。この賢者であると言わしめた要素はおそらく相手を想う「愛」ゆえに自分の大切なものを犠牲にしたことである。そのため、贈り物の価値がなくなってしまったこと自体にはそれほど大きな意味はないのかもしれない。
二人はお互いのプレゼントがお互いの犠牲によって価値をなくしてしまったがために、お互いの本当にプレゼントしたかったもの、「愛」を与え合うことができたのではないだろうか。それは筆者が聖書に出てくる賢者を引用してきたことと非常に合う。豊かな生活を送る者も愛なくして贈り物はできない。いや、クリスマスだから何かものをあげないといけないという義務感から物を与えられても、「愛」があるとは言いづらいし、感じにくい。心も満たされない。そのようなことを儀礼的にい合う仲の二人だったら、筆者は「賢者」とは決して表現しなかっただろう。筆者が一番言いたかったことは、贈り物の本質は「愛」であり、「愛」があれば、例えその贈り物の価値が無くなってしまっていても、心は十分すぎるほど満ちることができるということかもしれない。彼らは贈り物自体には大きな意味はなく、「愛」を贈ることに成功しているから賢者なのだろう。たとえ収入が少なく、高価な贈り物ができなくても大した問題ではなく、「愛」を贈ることこそ大事だということだろう。
Posted by ブクログ
なんと言うかラストがすごく光っています。
もっと早くに出会えていたらな、と思いました。
表題作の2つはどちらもお勧めです。
特に後者は確かに結末こそ
アレなものとなっていますが
その奥底には考えさせられるものがあります。
著者は浪費と過度の飲酒により命を
落とすこととなりました。
やはり冤罪となった災難が
そうなる要素を作ってしまったのでしょうか。
Posted by ブクログ
昔、青い鳥文庫バージョンが家にあってめっちゃ読んでたのだけれど、もう一度読みたいと思って挑戦。あとがきでは、筆者が逮捕されていたことが書かれていてびっくり。たくさん作品を残したみたいなので、他のも読みたい、、、、
Posted by ブクログ
短篇23編。O・ヘンリーはやっぱりいい。「最後の一葉」「賢者の贈り物」ばかりが有名だけど他の作品も知られてほしい。
「献立表の春」…可愛くて甘酸っぱいラブロマンス
。可愛いの一言に尽きる。いつ読んでもほんわかする。
「甦った改心」…個人的NO.1。金庫破りの恋。
「十月と六月」…印象的な文章が多かった。
「警官と賛美歌」…刑務所のほうがマシというのは今も昔もあまり変わらない。
「ミス・マーサのパン」…女性のささやかな思い込みがもたらす悲しい結末。タイトルとしては「魔女のパン」のほうが好き。
全タイトル
多忙な株式仲買人のロマンス
献立表の春
犠牲打
赤い族長(レッド・チーフ)の身代金
千ドル
伯爵と婚礼の客
しみったれな恋人
1ドルの価値
臆病な幽霊
甦った改心
十月と六月
幻の混合酒(ブレンド)
楽園の短期滞在客
サボテン
意中の人
靴
心と手
水車のある教会
ミス・マーサのパン
二十年後
最後の一葉
警官と賛美歌
賢者の贈り物
Posted by ブクログ
一つの話が短いのにどれも意外な結末が待っていて凄い。十月と六月、私も騙されたけど、これ男の方が年上っていう価値観、思い込みが無いと騙されないよなと。(勿論大尉という位もあるが)騙されるタイプの話、読者が持っている常識に左右されるなと思った。