あらすじ
いつまでも一緒にいると信じていた人のことを、過去形を使って語らなくてはならなくなるという悲しさは、大切な肉親や伴侶を失った誰しもが経験することなのだろう――半世紀を共にした夫人が、作家・辻邦生の暮らしぶり、愛した品々、日々の仕事についてを、愛惜をこめて綴る。
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Posted by ブクログ
作家・辻邦生の妻である著者が夫の死後にその思い出を語った回想や、遺稿集としてまとめられた本の「あとがき」として書かれた文章などが収録されています。
「ぼくの趣味は哲学だ」と語っていたという辻邦生の意外な日常のすがたが綴られる一方、観念的な思索や理論的な探求へと向かう夫とともに生活するなかで、影響を受けながらもそれとは異なるみずからの資質に目を向けていく著者自身の性格についての分析が語られています。
若いころには雑文を書くことに対する抵抗を語りながらも、そうした決意が揺らぎ出し、やがて「男が五十、六十で仕事をしなくてどうする!」と豪語するまでになった邦生のエピソードを紹介しながら、「その時々、出来ることをしておかなければ、二度と同じチャンスは巡って来ない」というその信念を理解するようになっていったと著者は語っていますが、ここには著者がまぎれもなく、生涯にわたり文学を生み出すことに務めた作家・辻邦生の一番の理解者であったことが示されているような気がしました。