あらすじ
臨床心理士になって四年の水沢藍を訪ねてきた聡美。 診察室に入った彼女は、何かに憑かれたように話し始める。同時期、藍はボランティアで英語を教えるため小学六年生の綾香を訪ねていた。 表情がないことに違和感を覚えたとき、手首に刻まれた何本もの傷跡に気づく。 綾香が発する‘サイン’とは――。両者の話を聴くうちに、 藍はある殺人事件の真相を知ることになる。 事件の背後で苦しむ人々の声を掬う、臨床心理士の物語。■著者からのコメント■すべてに白黒つける二項対立の世界で「生きづらい」と感じることが多くなりました。人が人として生きるために何が必要か。自分の中の汚いものを見つめながら、魂の底をえぐり出すようにして書きました。生きづらさを抱えるすべての人に捧げます。
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Posted by ブクログ
読み終わった後にこの作者の方の経歴を見て「なるほど…」と納得してしまうくらいに生々しい物語だった。
この方は現役で働いていた頃にもしかしたらこういう事件に関わったことがあるのか、関わっていなかったとしても考えさせられる日々の連続だったのか…
そう思わざるを得ないほど、子育てで悩み劣等感の塊の母親と父親の無関心さ、「普通」が何よりも大切なこの日本という国の生きづらさ、そこから犯罪が起き、そして世間の無責任な罵倒、この描き方がリアルだった。
被害者側、加害者側、どちらの立場になってもしんどい。
今回の事件は、母親の子供の頃からの劣等感や学生時代のカーストと父親の世間体などお互い共通する事柄が多くて、それがやっと終盤に少しだけ分かり合えたのだけれど、そのきっかけがこんな大変な事件を経てというのは本当に不幸だったとしか言えない。
事件を起こした張本人だけは何も変わることなく、いまだに自分を正当化し続けている所にはただただ憤りを感じるだけだったが、そこはリアルさも感じた。
私は子育て未経験なので、私も「わからない側」なのだけれど、この作品を読んでいたら結婚や出産、子育ては果たして女性にとって幸せなことなのか分からなくなった。
藍と潤の関係性が一番幸せなのでは…
人は“グレイ”な生き方の方が幸せなのだろうなと思わされた作品だった。
Posted by ブクログ
臨床心理士の藍の抱えている兄の死のトラウマとボランティアでかかわっている事で頼まれた小学生の引きこもり、に加えて偶然知りあった小学校の生徒7人殺人事件の犯人の母親。一人にこれだけ都合よく重なるかなど都合の良い登場人物は多いけれど、内容は真摯に考えさせられる。白黒ではなくグレーの価値、正義には正しさだけでなく優しさが必要など、心に響く。
同居する同僚の潤、人間として理想すぎる。