【感想・ネタバレ】―昭和史発掘―開戦通告はなぜ遅れたかのレビュー

あらすじ

「卑怯な騙し討ち」、米国では未だにこう呼ばれる真珠湾攻撃。開戦通告文を米国に提出するのが、攻撃開始から五十五分遅れたためである。これまで遅延の原因は、野村吉三郎大使をはじめ駐米日本大使館の怠慢とされてきた。しかし野村大使らの行動には多くの謎が残されていた。実は、日米開戦がなされたまさにその時、野村大使らはある陸軍大佐の葬儀場にいたのだ。――新庄健吉、謎を解く鍵は全てこの男の死にあった。

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Posted by ブクログ

太平洋戦争開戦時の日米の国力差は、GNP(国民総生産)でアメリカは日本の12倍であった。重工業力、化学力、石油や電気などエネルギー、戦争遂行に必要な能力に於いては、日本側アメリカに勝るものなど何一つなく、何故それでも「勝てるはずのない相手」にケンカを売ったのかは謎が多い。様々な意見を集約すれば、表向きはアジアン解放を謳いながら、植民地を欲した日本が大陸に資源を求めて進出し、脅威に感じたアメリカが石油の輸出を停止した結果、カラカラに干される前にやむ無く開戦した、と言った感じだろうか。それにしても、あまりの国力の開きにとても勝つ見込みなどは見出せないだろうし、事実それに気づいた(勝てないなどとは口に出せないかもしれないが)知米派が海軍にも政財界にも居たことはよく知られている。
戦前、日本もアメリカに対して優秀な人材を派遣して、国力などを詳細に調べさせている。本書がフォーカスを当てるのはその1人である、陸軍主計大佐の新庄健吉である。陸軍主計学校を卒業し、昇進を繰り返しながら晩年はアメリカに数字のスパイとして送り込まれた人物である。晩年といってもまだ40代であった人物だが、開戦直前に亡くなっている。その死因については病死とされているものの、本書を読むと陰謀により殺害された可能性があるのではとも思える。何故彼が取り上げられたかは、本書タイトル「開戦通告はなぜ遅れたか」に理由がある。
日本は戦史上はハワイの真珠湾に対して戦線布告前の奇襲作戦を仕掛けたことで知られる。実際のところアメリカはすでにその情報を得ていたとか、様々な説があるが、開戦やむなしの状態にあった事は間違いない。その戦線布告手続きの遅れは、通説としては外務省の不手際とされる。米国との交渉に当たっていた野村吉三郎や来栖三郎等による通告が遅れた原因は前述の新庄健吉の葬儀に参列していたことも一つの要因となる。
本書はこの日本の開戦通告の遅れを題材に、その中心にいる新庄健吉という人物像に迫る内容となっている。同氏は開戦前の緊迫した状況にあるアメリカ社会に180日以上滞在し、自分の目で触れたアメリカの実情を経理将校らしく数値化して分析した人物である。両国の差は誰の目からも明らかであったが、新庄の分析結果は戦後にアメリカによって賞賛されるなど、かなり精緻なものであったようだ。その情報を得て、なお、それでも開戦に踏み切った日本。同士が「数字は嘘をつかない、嘘が数字を作る」と発言をした様に、石油を止められ追い込まれた日本が楽観的観測を超える、超希望的観測に傾き、やむなしという空気感から誰1人抜け出せなかった。当時の状況を冷静に数字から見つめ、最後自ら結果(開戦という事実)を知らずにこの世を去った新庄。
新庄健吉の人生を辿りながら、結果を知る我々には様々な疑問を投げかけてくる一冊である。

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2026年05月08日

Posted by ブクログ

 書名は『開戦通告はなぜ遅れたか』だが、これに対する答えはあくまで憶測だ。

 簡単に要約すると、野村大使が開戦通告を届けるのが遅れた原因は、ある日本人の葬儀に出席していたため、その参列の席から外れることができずに結果として遅れてしまった、というもの。
 そんなアホな理由があるかいな、とツッコミたくもなるが、日本側にも米国側にも、開戦通告を遅らせたい思惑があったというのが著者の主張。


 つまり遅れたのではなく、わざと遅らせたというのだ。


 開戦時の首相、東條は戦争の常道は「夜討ち朝駆け」という考えを持っていて、真珠湾も不意打ちを当初から意図していた。宣戦布告などは奇襲が成功した後にすれば良く、先にしたら奇襲そのものが失敗に終わると思っていた。


 開戦前の御前会議では、開戦通告なき奇襲で一度は意見がまとまったらしいが、陛下から「ちゃんとした手続きをとるように」といった内容で、異例のお言葉があり、事前通告をしなくてはならないことになってしまった。


 しかし、東條は当初の夜討朝駆けの考えを変えることはせずに、なおかつ陛下の言葉を考慮したという形をとることにした。つまり、開戦通告を出そうとしたが、開戦に間に合わなかった、という言い訳を考え、それを実行した。


 戦後、マッカーサーと対面した陛下の口から「東条のトリックにひっかかってしまった」という発言があったらしい。(そういう発言録が残っているようなので、実際にあった発言なんだろうけれど、それが開戦通告の遅れを言っているのかどうかは著者の推測)


 米国側にも通告を開戦前に受け取りたくない理由があった。
 良く知られている話だから説明はいらないかもしれないが、それは真珠湾を奇襲させて、戦争に反対だった世論を一気に参戦へと導くためだった。そして事実”リメンバー・パールハーバー”を合言葉として見事に世論を誘導した。


 このあたりの事情は、真相がどうだったのか詮索しても決定的な証拠は出てこないので、うっちゃるしかない。


 この本はブクレポタイトルにもした新庄健吉という人物が、どういう人物だったのかという”伝記”と思った方がいい。これが結構おもしろい。この人は陸軍大佐ながら開戦前から「日米が戦わば、必ず日本は負ける」と発言し、米国で収集したデータを用いてその裏付けとした。スパイ活動で極秘情報を集めたのかと思いきや、公然と売られている新聞や雑誌、政府発表の統計資料などの情報から計算をして弾き出しただけなのだ。しかし、それがあまりに正確だったため、戦後GHQがそのデータを見て驚き、舌を巻いたらしい。


 彼は「米国と日本の国力の差は20対1、米国の損害を100%とした場合、日本の損害は常に5%以内に抑えなければ勝てない」ということを報告書にまとめ上層部に提出したが、それを軍首脳は認めなかった。(まあ、当然と言えば当然)


 彼の仕事はけっして報われない性格のものだった。彼の提出した報告書も無駄になった。
 戦争という大波の前で、成す術の無い人間の無力さを感じた。 

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2017年08月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

歴史研究家よりもノンフィクション小説作家になった方が良いように思う。史料の発掘や資料の援用はうまいのだが事実とする裏付けが決定的でないため仮説の域を脱しきれていない。前作のような資料の読み込み不足は無いように思えるが、それが頭の片隅にあるせいか・・・。

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2014年11月19日

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