あらすじ
「絶対に無理はしないでください」豪雨に見舞われた地区にボランティアとして赴いた〈私〉は、畑に流れこんだ泥を取り除く作業につく。その向こうでは、日よけ帽子をかぶった女性が花の世話をしていた。そこはまるで緑の小島のようで――。被災地支援で目にした光景を描いた表題作のほか、広島カープを題材にした3作など14編を収録。欧米各国で翻訳され、世界が注目する作家の最新作品集!(解説・藤野可織)
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Posted by ブクログ
2021年4月単行本。
2023年11月文庫化。
「広島カープ三部作」というプチ特集あり。
以下駄文つらつら。
十代の頃、大西巨人のようなロジカルな男性と較べると、女性作家って感性でしか書いていないから読むのが辛い、と思っていたし、標榜していた。
三十前後で文芸誌を漁っていたころは、女性作家ってこんなに妊娠出産生理を題材にすることが多いんだなやっぱり感性的なんだな脳じゃなく身体の一部が優位なんだなと思い、むしろ女性作家ならではの着眼点だよねーとか、わかったつもりになっていた。
四十を越えた今、己の不明を恥じる、とか、その考えを反省している、とか、過去の自分を蔑めるようになった、とか、切り離したいわけではない。
単に頭が悪く差別的だったと相対化できるようになった上で、でも基本はあの形のままのおじさんに成り果ててしまっていると思う。
が、当時読んだ女性作家が、今読んでいる女性作家が、いや大昔から女性作家たちが仕掛けてきた、遅効性の爆弾の、爆炎や爆風を浴び続けている現状は、わかるようになった。
たとえば本書でも男性社員に囲まれた飲み会で居心地悪い場面があるが(「けば」)、男性陣の企まざる品性の低さをハッキリ描写するその視線に、筆致に、「ライブ・ア・ライブ」でいえば「あの世で俺にわび続けろオルステッドーッ!!」に匹敵するレベルの、怒りが込められている。
十年前の自分だったら、おお剣呑剣呑、とか冷やかして白を切ったかもしれないが、今は小説爆弾を、読んで喰らってぐったりして、スッキリできない。
それは一般的なフェミニズムという概念をお勉強でわかったということではなく、小山田浩子という作家が書いた小説の強烈な味だからこそ、だし、小山田浩子の感じる生きづらさが、たとえば女性として扱われることという一例であって、本書で描かれた居心地の悪さは、男性読者にも別の形で覚えがあるものなので、男女という線引きではなく人間一般とか日本人とかに訴求するものだということ。
本書は全体的にホラーだとも言えるが、非業の死の怨念とか、目の前にいる殺人鬼の暴力性とかではなく、人が共同体(家族でも職場でも何でも)に投げ込まれて、もみくちゃにされた挙句壁にこびりついた肉片が怨念化して、読み手になすりつけられている……みたいな。
「園の花」の余韻に身震い。
また多少後味よさげな三部作の中の、たとえば「異郷」で、語り手が気づいていない広島の風土に面白みを最初は感じるが、でもやっぱり人が集団になって発する不気味さがじわっと滲んできて、やっぱり不快。
完全に連想しただけだが、人間ってこんな生きものでもあるのだなとハッとさせられた古井由吉「先導獣の話」や、吉田知子「お供え」やに連ねたい短編集。