【感想・ネタバレ】ヤマケイ文庫 十大事故から読み解く 山岳遭難の傷痕のレビュー

あらすじ

山岳遭難史に内包された「影」の部分に光を当てる。
木曽駒の学校集団登山や愛知大学山岳部の冬山合宿、西穂独標の高校生落雷事故、立山の中高年初心者事故、そしてトムラウシ山のツアー登山の遭難など、戦前から現代まで10件の重大事故を検証。
時代を反映した日本の山岳遭難事故を時系列で振り返る、貴重な記録の集大成。

近代登山の黎明期から、遭難事故は、登山が本来内包しているであろう危機管理の点からも、避けがたいものとして存在してきた。
なかでも多数の死者を出した大量遭難や、その時代背景を反映して話題となった歴史的な遭難事故も数多くある。
すでに遠い過去のものとなりつつある遭難事故もあるが、過去の事故を丹念に発掘し、再度、検証することも重要だろう。

本書は、そうした戦前から最近の事故までを概観した読みもので、次の10章で構成される。
1章1913年の「聖職の碑」木曽駒ヶ岳集団登山事故、2章1930年の東京帝大の剱沢小屋雪崩事故、3章1954年の富士山吉田大沢の大量雪崩事故、4章1955年のナイロンザイル切断事故、5章1960年の谷川岳一ノ倉沢宙吊り事故、6章1963年の薬師岳愛知大学大量遭難事故、7章1967年の西穂高岳落雷遭難事故、8章1989年の立山での中高年大量遭難事故、9章1994年の吾妻連峰スキー遭難事故、10章2009年のトムラウシ山ガイド登山遭難事故。
時系列で上の10件の遭難事故を振り返るが、学生の大量遭難や落雷事故、中高年初心者の事故やガイド登山の事故など、時代を反映したもを特に取り上げた。
日本の山岳遭難の歴史を振り返ったものとして貴重な記録である。


■内容
第1章 木曾駒ヶ岳の学校集団登山事故
第2章 剱澤小屋の雪崩事故
第3章 冬の富士山巨大雪崩事故
第4章 前穂東壁のナイロンザイル切断事故
第5章 谷川岳の宙吊り事故
第6章 愛知大学山岳部の大量遭難事故
第7章 西穂独標の学校登山落雷事故
第8章 立山の中高年初心者遭難事故
第9章 吾妻連峰のスキーツアー遭難事故
第10章 トムラウシ山のツアー登山遭難事故
文庫あとがき
解説 『山岳遭難の傷痕』からの連想(菊地俊朗)

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Posted by ブクログ

戦前、戦後などかなり昔の事例が載っているが、
GPS、気象情報が手に入る現代に置き換えて読むと
登山環境は飛躍的に良くなったと感じる一方で
どの時代も守るべき登山セオリーが見えてくる。

仲間と行く山は、単独行よりもわいわい言いながら楽しむ分、遭難の辛さは悲痛と思う。
特に西穂高の高校生の事例は、状況だけで生徒の、先生の辛さやるせなさが伝わってくる

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2024年06月27日

Posted by ブクログ

●小学校の集団登山を台風が襲う。あるはずの山小屋。跡形もなく崩れ落ちている●切れるはずのないナイロンザイルが何故切れたのか?決着がついたのは21年後●大学山岳部のパーティ皆が帰らぬ人に。乱雑に残された山小屋の跡。未だ果たせぬ部の復興。●高校行事の集団登山。ピンポイントのはずの落雷が多数の命を奪う。そのメカニズムとは?●危機意識の低さで多くの命を失った中高年パーティ。取材を断った生存者2名の思うところは?…恐ろしくも魅力溢れる山。大胆さがなければ挑めない。臆病さがなければ助からない。悲しい事例に多くを学ぶ。

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2023年11月05日

Posted by ブクログ

羽根田治『十大事故から読み解く 山岳遭難の傷痕』ヤマケイ文庫。

日本の山岳遭難史に於ける十大事故を時系列に検証しながら、今後の糧にしようとしたノンフィクション。

荒天や雪崩、落雷による遭難の原因の一つではあるが、撤退することの決断力が遭難事故を防いだものと思われる。


『第1章 木曾駒ヶ岳の学校集団登山事故』。新田次郎の記録文学小説『聖職の碑』で有名になった山岳遭難事故。1913年、長野県の伊那地方の中箕輪尋常高等小学校の高等科二年生の男子生徒25人と赤羽校長ら教諭3人、同窓会員の青年9人の総勢37人が学校集団登山で木曾駒ヶ岳に登る。しかし、予想外の台風による暴風雨で11人の死者を出した。『聖職の碑』は映画にもなった。

『第2章 剱澤小屋の雪崩事故』。1930年の東京帝大の剱沢小屋雪崩事故。東大OBを中心とした4人がガイド2人を伴い、厳冬期の劔岳登頂を狙いながら立山や劔岳の景観をカメラに収めようとする。弘法茶屋で4人が談笑していると、後に単独行で名を馳せる加藤文太郎がやって来る。その後、劔澤小屋で彼らに再開した加藤は彼らと行動を共にしたいと願うが、4人に追い返されてしまう。そこが運命の別れ道だったようだ。

『第3章 冬の富士山巨大雪崩事故』。1954年、日大、東大、慶大のパーティが冬季の富士山で訓練中に次々と雪崩に巻込まれた事件。

『第4章 前穂東壁のナイロンザイル切断事故』。1955年、社会人山岳会『岩稜会』が冬季の前穂高岳東壁をアタック中にナイロンザイルが切れるというアクシデントに見舞われる。未熟な技術が事故を招いたのか、ナイロンザイルに致命的な欠陥があったのか。井上靖の小説『氷壁』はこの事件を題材にしている。

『第5章 谷川岳の宙吊り事故』。これは非常に有名な事故。1960年、谷川岳の衝立岩で岩壁登攀中にザイルで宙釣りになった2遺体。遺体を回収するために自衛隊が出動し、ザイルをライフル銃などで切断するという前代未聞の作戦が決行される。

『第6章 愛知大学山岳部の大量遭難事故』。1963年、冬期の薬師岳で愛知大学山岳部の13人全員が消息を断つ。空と地上からの大規模な捜索を行うが、全員の死亡が確認される。愛知大学とほぼ同時に薬師岳に挑んだ日本歯科大学のパーティは悪天候の中、登頂を果たし、無事下山する。2つのパーティの明暗を別けたものは……

『第7章 西穂独標の学校登山落雷事故』。1967年、松本深志高校の生徒たちが学校登山で西穂高岳の独標付近を行軍中に突然の落雷により11人が亡くなった悲惨な事故。不運としか言いようのない事故。自然の力はどう作用するか解らない。

『第8章 立山の中高年初心者遭難事故』。1989年、立山三山を縦走中の中高年パーティが悪天候に見舞われて遭難、10人中8人が死亡した事故。装備の差と決断力が生死を別けた。

『第9章 吾妻連峰のスキーツアー遭難事故』。1994年、吾妻連峰をスキーで縦走中の7人が道に迷い、5人が死亡した事故。

『第10章 トムラウシ山のツアー登山遭難事故』。2009年、北海道の旭岳からトムラウシ山への縦走ツアーに参加した15人と登山ガイド4人が悪天候の中、遭難し、8人が死亡した事故。商業登山のあり方が問われる。

定価1,210円
★★★★

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2023年10月01日

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