あらすじ
「日本人」を取り戻す旅――われわれは何を忘却し、何を守ろうとしてきたのか? 歴史をひもとくと、古代の日本社会は多様な思想や価値観に満ちていた。しかし、いつからか「日本は集団主義的で同調圧力が強い」と評されるようになった。いったい、なぜ? ターニング・ポイントは? 我々の「日本人意識」は、どのように形成されてきたのか? そもそも、我々はいつから日本人なのか? 本書では、古代から現代までの「日本人のものの考え方」のルーツを探る。その過程で、時代ごとに影響を与えた思想を「マトリックス」で図解・整理。日本思想史を俯瞰する「見取り図」を通じて、その構造と大きな流れを読み解いていく。壮大な物語を読み解くナビゲーターは、駿台予備校のカリスマ世界史講師であり、YouTubeで14万人のファンがいる茂木誠氏。世界史の視点から、日本で繰り広げられる「大いなるドラマ」を解説する。日本人の思考様式・行動原理・アイデンティティは、どのように醸成されてきたのか? 日本人とは何か、どこへ向かうのか。そのすべてがわかる!
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Posted by ブクログ
資料として残っていない歴史は、論理やその他の証拠、あるいは合理的な空想で埋めるしかない。また、資料として残っていたとしてもその資料が客観的な事実なのか、記録者の主観や空想なのかも確かめようがない。そうした「記録」を繋ぎ直して、‟最も説得力のある仮説“を採用する事で「歴史」として認識する。だから、国によって‟歴史認識“が異なったり、最も説得力のある仮説ランキングが塗り替えられたり、その時々で歴史は変わるのだ。
それだから、本書の歴史認識が正しいのかは分からない。だが、人類史に匹敵する、日本人のルーツを紐解くようなとてもスリリングな内容だ。確かめようがないものもあるだろうが、それを繋ぎ直し、空白を埋め、論理を形作る仕事に感激し、そのドラマを非常に面白く読んだ。こういう説もある。正しいか否かは置いておき、一つの措定として。
その象徴的な文章を先ず抜粋したい。
― 「あま」という言葉は、「天」と表すだけでなく、「海」とも表します。そこから推測すると、高天原は「海の向こうの国」ではないでしょうか。海の向こうの国から、おそらく大船団で日本列島にやってきた。それがアマテラスの一派で、今の皇室につながる天孫族と呼ばれるグループです。これに対して、彼らが渡ってくる前から日本列島を治めていたのが、オオクニヌシです。オオクニヌシは「大きな国の主」ですから、縄文末期の王のような人物なのでしょう。ただし、王といっても中華皇帝のような専制君主ではありません。狩猟民をゆるやかに束ねる象徴的なリーダー、たとえばアメリカ先住民の部族長のような存在だったと想像できます。おそらく三内丸山遺跡の指導者も、そのような存在だったのでしょう。
― 「鬼」とは誰のことなのか。おそらく地方の王のことだったのでしょう。鬼退治伝説は、ヤマト政権が地方政権を屈服させていった物語なのです。ヤマトの人々から見て、奇妙な格好をしていた地方の王を「鬼」と呼んだのかもしれません。桃太郎伝説は、誰もが知っていますね。桃から生まれた桃太郎というヒーローがイヌ・サル・キジを従え、鬼ヶ島に渡って「悪い鬼」を退治する話です。でも考えてみれば、鬼には鬼の幸せな暮らしがあったはずで、その鬼ヶ島に桃太郎が攻め込んで、鬼たちを一方的にやっつけてしまうのです・・・ヤマトに激しく抵抗した国の一つが、吉備国でした。そして、この国を平定するために、ヤマト政権から大軍が送り込まれました。これを率いた吉備津彦という将軍がいて、「日本書紀」では七代孝霊天皇の皇子となっています。実はこの人が、桃太郎のモデルなのです。この吉備津彦を祀る吉備津神社の社伝(言い伝え)に、「吉備津彦が鬼の城に住む温羅(ウラ)という鬼を討った」と書かれています。こうしてヤマト政権に屈服した地方の王は、新たに地方長官に任命されましたと言うと聞こえがいいのですが、実質は王から地方長官への格下げです。彼らを「国造(くにのみやつこ)」と呼びます。
― 敗北者ナガスネヒコの子孫は、実は日本各地に散っています。神武天皇との戦いに敗れた後、東北地方に逃げ込んだのが、ナガスネヒコの弟ともいわれるアビヒコ(安日彦)です。彼の末裔は東北で勢力を伸ばし、平安時代まで岩手県を中心に半ば独立国家を築いた安倍氏として知られています。平安後期に朝廷に逆らい、朝廷からの大軍に滅ぼされました(前九年の役)。この時に捕えられた安倍宗任という武将が京都まで連行され、九州に追放されました。その後、山口県に移った彼の子孫が、安倍晋三元首相の一族です。ですから、安倍一族の祖先はナガスネヒコということになります。二千年の時を超えて、政権を取り戻したわけです。
― 白村江の戦いのあと30年間、唐と国交を断絶したヤマトは「日本」=「日の昇る国」という国号を採用し、中央集権国家の実現を急ピッチで進めていきます。「唐に対抗するには、唐に学べ!」を合言葉に、官僚統制国家である唐の律令制に基づいた法体系や制度を取り入れた国づくりがスタートしました。それまで「大王」と呼ばれていた君主の称号も、中華皇帝を意識して「天皇」と改められました。公地公民制を導入し、豪族の支配下にあった土地を天皇の所有としました。人民の数を把握したうえで土地を人民に分配し、徴税する仕組みをつくったのです。
引用し過ぎなのでこの辺にしておくが、天皇の起源からスタートし、江戸時代の思想を経て、最終的に本書は現自民党政権まで辿り着く。一部論説の誤りが気になったがそれを上回る面白さだった。
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人気予備校講師である茂木誠先生の著書。
460ページもの大部だが、面白く読むことができた。
特に近現代の政治思想について、分かっていない部分が多かったことに気付かされた。
自民党内の派閥のスタンスなどはもうちょっと詳しく調べたいと思う。
Posted by ブクログ
縄文人気質:直感、感性、自己責任、個人・家族単位
弥生人気質:計画性、コツコツ、同調圧力、ムラ社会、自然を改変・開発
日本人:DNA、多民族
国家と宗教の成立は「認知革命」の賜物、国家という共同幻想。
神仏習合、相手を否定しない文化。
中華グローバリスト蘇我氏vsナショナリスト物部氏。
中臣・藤原氏:仏教・律令制を導入、唐との対等外交。
大伴部博麻:白村江の戦いで捕虜になり長安へ。自らを売って奴隷となり仲間4人を日本に帰し、唐の動きを伝える。30年後に帰国し持統天皇から恩賞を賜る。
大仏建立、行基。平安京遷都、最澄と空海。
両部神道:真言密教と合体した神道、金剛界と胎蔵界=外宮のトヨウケと内宮のアマテラス。
鎌倉幕府の最大の仕事は武士同士の土地の争いの調停、御成敗式目、男女同権、女性も家督を継げる。
元寇によるナショナリズムの再燃。
吉田神道(吉田兼倶)、伊勢神道(度会家行)
北畠親房の神皇正統記、易姓革命ならぬ易統革命、正統性に徳を求める。
江戸幕府の檀家制度により仏教は葬式仏教へ。
朱子学:中華文明の正統性、序列をつける、大義名分論、モンゴル支配への反発。
陽明学:知行合一、感情を発火点として現実を変える理論を生み出す。
日本陽明学の祖、中江藤樹。
西欧グローバリズム、蘭学、杉田玄白、高野長英。
国学、平田篤胤、賀茂真淵、本居宣長。
ナショナリズム、水戸学、会沢正志斉、藤田東湖。
(中央 レファレンス 104536852 121.0モ)
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宏池会とか、清和会とか学校で習った覚えがないのだが、結局、人間が集まるとサブグループができて対立し合うんだなというのを、古代から例示してもらってます。
Posted by ブクログ
縄文のアニミズムが神道の起源であり、古事記、万葉集では祭祀王としての支配を「しらす」、豪族たちの軍事行政的支配を「うしはく」と表現して区別している。
「しらす」は「知る」が語源で、民をよく知る、民に心を寄せるというニュアンス。
「うしはく」は軍を指揮するニュアンス。
これが皇室が長く続く理由であり、日本の特徴。
1935年の美濃部達吉の天皇機関説に対して、上杉慎吉が天皇主権論を唱え、天皇神格化が始まる。
国防思想の強い日蓮宗の信徒であった石原莞爾が満州を足がかりに、アメリカと最終戦争を行い勝者による世界統一をプランする。
陸軍内の皇道派と統制派の争い。皇道派は北一輝の革命思想の影響を受けた青年将校が中心。統制派は軍の上層部。政治家や財閥と妥協を図り思想がなく東條英機はこの典型。
二・二六事件で陸軍の主導権を握った統制派がなし崩し的に中国国内へ戦線を広げてしまう。
このように、縄文時代から現代までの日本国を特徴づけている宗教と政治思想がよく分かる本です。
Posted by ブクログ
思想史、というのは聞き慣れないジャンルだったが中々どうして面白かった。個々の歴史的事件も、その時代の背景となっている主流な思想を知ることでよく理解できた。
また、仏教と神道の絡み合いや、何となく聞いたことのある朱子学儒学なども簡潔に要点がまとめられており勉強になった。
Posted by ブクログ
駿台時代にお世話になった世界史の茂木先生の著書。世界史選択の自分でも、古代から現代までの日本思想史を読み物として非常に面白く理解できた。教養としての一冊。全日本人に読んでほしい名著でした。
あと今まで知らなかったが、陽明学が好き。
最近流行りのビジネス用語で言うと陽明学は「デザイン思考」、朱子学は「ロジカル思考」になるかも。
Posted by ブクログ
前半の南北朝時代くらいまでの思想史はすごい面白かった。歴史上の出来事は全てどこかの誰かの思想に紐づいていて、その思想をの基礎になる出来事がまたどこかにあってっと紐解いていくのが面白い。
後半の政治思想史は見てて絶望することばかりだからあまり読み進められないけれど、現在に至るまでを俯瞰で見ることは大切だとは思う。
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日本人とは何か――世界史の大きな流れの中から光を当てる。儒教や仏教、西洋思想の影響を受けながら日本独自の価値観がどう育まれたかを縦横に描く。ざあっと読めてわかりやすく興味深く書いてある。歴史を通して見えてくるのは時に受け入れ時に跳ね返してきたこともある日本人のしたたかな姿だ。付き従う今の日本人よ、ひとり立ちしようよ。
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日本の思想の系譜が日本史と世界史の観点からわかる本。
体系的に、思想の繋がりが見えるのは面白く、色々な発見もあった。
ただ、少し著者の主張が強すぎて、かくあるべき、この思想は好き嫌いというのが見え隠れしていて、近現代の思想の部分はちと読んでいて苦しいものだった。
保守の本当のあり方や、多様性と寛容さが大事という主張には大いに賛同できるものの、何となく鉛を飲んだような気分になった。
それは、本書を読んで、思想というものが、下手をすると自分の理想や頭の中で描いた都合の良さを論理的に説明するもののように見えてしまったからかもしれない。政治的に統制をかけるとか、自身の価値や権力に箔をつけて、正統性を出すようなツールとして思想が使われているからかもしれない。
信仰と同じく、思想も、体制と結びついたり、集団と結びつく時、その価値がなくなるのかもしれぬ。
下手に被れたら危険なものが思想なのだという感覚を得られたのは良かったかもしれない。
されど思想なくしては、社会集団は動かず、成り立たないような気もする。
そうなると、禅のような無字の世界や、身体論、山伏などの体系化されていない世界にあごかれが募る。それも一つの思想?なのか。
ただ、江戸時代も、明治大正も、言論統制は比較的緩かったことはよくわかる。
それぞれのマトリクスでも、それぞれの思想が、それぞれの局面で機能して社会を前に進めているもので、誰かの拠り所にもなっていたりする。多様性が大事で、一つの思想にまとめることの弊害があり、だからこそ、日本古来の習合や、和をもって貴しとなす、と言った多様性と寛容さ、良い意味での良い加減さが大事なんだと思う、
Posted by ブクログ
1,これを読めば日本の思想の変遷がわかると思いたい
2,総裁選が今後行われていく中で、今(2024/09/14)読むべき本
3,未来と世界史の視点に立つとリベラル的に、過去と日本史の視点に立つと保守的な考えになるのかなと思った
Posted by ブクログ
後半の小泉政権当たりの現代史あたりからは著者の思想が入りすぎている感がある。だが、前半の宗教と日本人思想は読む価値あり。
かつて日本はひとつの国ではなく、多くの国があり、そしてそれを大和が滅ぼしていった、地方の王を「鬼」とした物語が「桃太郎」説はなるほど興味深い。日本昔話の「鬼」のどこかもの悲しさは、大和に敗れた王だからではないか、と。
鬼による被害は描写されず鬼をやっつけて財宝うばってめでたしめでたしの桃太郎に疑問を持つ人は多いと思うが、なるほどこの説だとなんだか納得できる。
Posted by ブクログ
日本に生まれ、住み、暮らしているので、私の価値観や考え方は、日本全体を包んでいる思想や歴史に、少なからず影響されているのだろうなと思い、手に取ったのがこの本である。
平易な言葉で分かりやすかったが、あと少し、もうちょっと、字が小さくなってもよいので、深く掘り下げても良いかも、本当はもっと書きたいことがあるのでは?という匂いを感じた(まぁ、入門書なので、このくらいが良いのかな、、、)
最後の方は、政治思想を中心とした解説が多く、それらの思想を私に結びつけるには、まだまだ勉強不足だなぁと分かった。この入門書を参考に他の本も読んでいきたいと思う。そもそも日本人の思想なんてあるのか分からなくなってきたけども。
感想を書いていて気づいたが、入門書としての役割は大いに達成された(笑)
Posted by ブクログ
わかりやすい。天皇とは?縄文から令和まで、日本国のあらましがみえる。朱子学と陽明学の違いなど、ふとした疑問が解決する。神話時代、明治から昭和が特に興味深い。
Posted by ブクログ
駿台予備校の人気世界史講師によってまとめられた日本思想史の本。教科書のような端的で分かりやすい文章だが、情報量が多いのでじっくり楽しめた。
歴代の日本思想家(宗教家や政治家)は、「国家主義」か「個人主義」か、「ナショナリズム」か「グローバリズム」かのグラデーション内で分類できるらしく、今までバラバラに理解していた有名な歴史上の人物が、キレイに「国家主義」と「個人主事」を両端に置くX軸、「ナショナリズム」と「グローバリズム」とを両端に置くY軸のマトリックス上に収まり、点と点が線や面として繋がってゆく様が快感であった。
実際は本書が「政治思想マトリックス」の続編に当たるらしく、そちらも読んでみたい。
Posted by ブクログ
ポップな表紙デザインで手に取ったが、なかなか思想の濃い内容だった。
うろ覚えだった日本史をおさらいするかのように読めた。面白い。
著者の色が濃く出た記述もあるので、そこは各々が考えて捉えるべきだろう。
天皇を主体として日本人の思想が形成されているという点は面白かった。南北朝時代の微妙なニュアンスも興味深い。