【感想・ネタバレ】ファントム・ピークスのレビュー

あらすじ

長野県安曇野。半年前に山で行方不明となった妻の頭蓋骨が見つかった。三井周平は悲嘆に暮れながらも、遭難場所から遠く離れた場所で発見されたことに疑問を持つ。あれほど用心深かった妻に何があったのか? 数週間後、沢で写真を撮っていた女子大生が行方不明に。捜索を行う周平たちをあざ笑うかのように第三の事件が起こる。山には、一体何が潜んでいるのか!? 稀有の才能が遺した、超一級のパニック・エンタテインメント!

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Posted by ブクログ

ネタバレ

中山間地域での穏やかで幸せな生活を描くプロローグが急転、物悲しい気分で本編へと入っていく。
読み始めてからすぐに感じたのは「人間の描写が上手いな」ということ。悲喜交々、感情の機微も良いのだが、それだけでなく山との境界域に暮らす人々の生活の様子もリアルに伝わってくる描き方だ。
主人公が理知的で思慮深く、それでいて人間味がある点が私好みでもあった。苦境にあってもその性質が一貫して描かれていたこともあって最後まで気持ちよく読むことができた。

著者の振れ幅が公平なことにも好感を覚えた。
主人公の周りの人達はそれぞれが温かく、田舎ならではの(良い方の)雰囲気が漂っていた。
序盤の様子から「心に深い喪失感を抱えながらも実直に生きる主人公と、それを有形無形の優しさで包む周囲の知人達。良い人は報われるストーリーか?」と想像して読み進めたのだが、行方不明者の捜索中に警察車両内でのやり取りで発覚する主人公への嫌疑やヒグマによる虐殺とそれによる恐怖のように、ただ優しいだけでは済まないハードボイルドさもしっかりと含まれている。
また、本書は「自然と人間の共生」ということが一貫して流れているテーマだと思うが、極端になりがちなそのテーマを、自然賛美や動物愛護に偏らせず、自然・人間双方の立場から扱っている点も良かった。
78ページの『もっと山や森に入るべき』『世話を焼くために山や森をもっと知れ』という言葉は「保護・維持するためには、介入を止めて放置するのではなく、守るための積極的な態度が必要」と読めて、現実的で面白い主張だなと思った。この直後のシーンを獣害による被害者側の心情から描くところからも、「(無責任な傍観者ではなく)現存する人間として自然を守りながら生活していくためにどうするか」が著者の思想なのだろうと覗われた。


本作はモンスターパニックもののホラー作品だと分類できるが、このモンスターの扱いにも一工夫があって良いと思った。
モンスターの正体として読者が想像するであろうクマ、それも(ヒグマではなく)本州に生息している大きなツキノワグマを適宜登場させてミスリードを誘い、それを中盤までに惜しげもなく退場させている。その際に、ツキノワグマとしては異常に大きなその個体でも敵わないようなより強力な生物の存在を匂わせているのも良かった。
モンスターパニックに共通する弱点として、モンスターの正体が明らかになると興味が一気に削がれてしまう点がある。そうならないためには相手の詳細が明らかになるタイミングを遅らせるという手段があるが、それでは虐殺をしている敵のイメージがあやふや過ぎて中弛みしてしまう。この相反する弱点を克服するために本作では巨大なツキノワグマを囮に中弛みを防ぎ、より強大な敵がいることを示して中盤からもう一段ステップアップをしている。読者が
“神の眼”で残りページ数を把握できてしまうことを逆手にとっているのかは分からないが、「事件はこれで終わりじゃない。敵は何だ?」と、もう一度興味を新たにして中盤以降の物語に入っていける。

ホラーとしての雰囲気作りだけでなく、直接的な描写も良かった。
理性的で比較的穏健だった中盤までの雰囲気は、225ページあたりから一変している。
この最初の遭遇戦は10ページにも満たない分量ながら、ヒグマの威容と俊敏性、容赦のない残虐性、化け物に対峙した人間の焦りと動転具合を見せつけた、手に汗握るシーンだった。
これ以降はモンスターの独壇場となり、人間が蹂躙される残虐なシーンと、ヒグマが化け物として現れた理由を探るパートが展開していく。

物語の終盤、子熊がいることは想像がついていたがその子が双子なのは予想外だった。この「小熊は一匹ではない」という情報は最終盤の展開に新たな緊張感を加えてくれた。
クライマックスの、橋の上でのヒグマとの対峙では、直前に明らかになった「小熊は双子だった」との情報と、殺戮を繰り返している個体との様子の違いから、「暴れ回っている牡ではなく、牝の個体なのでは」という疑念が湧いてハラハラした。
倒したクマも『ヒグマの躰がひどく小さくなって・・』のような主人公の感想や、銃創の有無に触れないことでミスリードされ「残りのページ数でもう一悶着あるのか?」との疑念を呼んだ。

エピローグは、残った謎も推測という形で解き明かされ、ヒグマにもかわいそうな事情があった(: 絶対悪ではなかった)こともわかる内容で、後味の悪いものではないが、一方で行方知れずのもう一匹がどうなったのかだけは明かさず適度な余韻も残している。


以下は完全に余談である。
本書は2025年の晩夏〜秋にかけて読んだのだが、「妙な時期に手元にやってきたものだな」という感想がある。
本書の184ページでは『羆嵐』やその元となった三毛別の事件を直接的に登場させているが、この夏までは、これらの作品・事件の恐怖がよみがえってくるような世相になるとは思っていなかった。
本書は20年近く前、熊の被害に現実味や社会的意義が薄かった頃の作品ではあるが、自然保護、共生への考え方やヒグマに対する対処(映像で見たことがある程度にしか知らないが)もかなり慎重でリアリティがあるものである。そういう点で、このご時世であるからこそ再び読まれる価値のある作品だなとも思った。

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2026年01月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

失踪した原因はクマだろうというのは真っ先に考えるが、初めは凶暴化したツキノワかと思った
しかし、あの地にヒグマが出るという経緯が何とも人間の愚かさを現している
想像できる展開ではあるが、最後はドキドキした
文章が読みやすかった

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2024年07月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

長野県安曇野市を舞台に、山で失踪したのち遺体で見つかった妻の死から、物語は始まります。
序盤はミステリー風味ですが、ほどなく熊の仕業であることが判明します。
熊は怖い!
日本人にとって熊は割と身近な存在ですから、他のパニック物と違い、リアルに怖いですね。

遺体が食害されていたことから、犯人(犯熊)はツキノワではなくヒグマだろうという推測がなされるシーンがあります。
それが強く印象に残りました。
なぜなら2016年にツキノワグマによる連続食害事故があったから。
(十和利山熊襲撃事件)

小説ではあり得ないとされていたことが、現実で起きている。

ちなみに話の展開が2012年の秋田八幡平クマ牧場の事故に似ていたので、てっきりそこから着想をえたのかと思っていました。
ところが、小説の発表年は2007年。

現実が小説を超えていく怖さ。
あるいは作者の懸念が現実化してしまったのか。

そういう小説外の状況も含めて、面白く読める、そして考えさせられる一冊でした、

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2024年04月17日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ヒグマは最初に男性を食べると、その後男性しか食べません!
このストーリーでは、最初に食べられたのは、女性なのでその後の食害は女性ばかりなのです。
3/7/31

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2021年07月31日

Posted by ブクログ

ネタバレ

山中で起きた事件の犯人は何か?オカルト的な何か、もしくは山岳ミステリをイメージ(期待)して読み進めましたが、そうではないと分かった時に別の面白さに変わりました。登場人物と同じ視点で淡々と真実に迫っていくぶれない筆致に引っ張られました。巻末の映画監督黒沢清氏による著者(故人)との思い出を綴った解説もよかったです。ストイックと映画的という表現になるほどと思いました。

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2021年01月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

私も田舎のやや山育ちのため、山、川の知識がある。
自然の恐ろしさは幼少から身についているから、都会から
キャンプ、登山にくる人の安易さに危惧している。
この作品は山に関わる人への警鐘ともいえる作品かもしれない。
自然災害は単なる異常気象だけでなく、昔からのウイークポイントであることが伝承されていないのである。
海でもそうだが、遊泳禁止は必ず、死と隣り合わせという危機感をもっているのか?毎年、残念なニュースを目にする。

決して自然は侮っていはいけないということだと思う。

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2020年10月17日

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ネタバレ

長野県の山で次々と失踪する女性。

獣害事件かと見せかけて真相は殺人鬼による犯行かと思っていたらそのまんま獣害事件だった笑
でも変に真相を引っ張っらないし、話を複雑にしなかったのがかえって好感が持てた。最近の本は最後の20ページくらいまで読まんと真相分からんし。中盤でネタばらししても最後まで読ませてくれる、そんな本こそ称賛されるべきでは?

そもそも基本情報なしで読んだからどんな話なのかわからなかったのもあるが…
たまにはこういう読み方もいい。

文章も余分な物がなくて読みやすいしスリルもある。
なかなかよかった。

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2020年04月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

北アルプスの山村で突然行方不明になり白骨死体で見つかった妻の死因を探る男性と、山で続けざまに起こる失踪事件の対応に奔走する村の人々の奮闘を綴るパニックサスペンス。
書店でホラー小説として紹介されていてそのつもりで読み始めたが、怪異ではなく非常に現実的な自然の脅威を描いた作品で、読み進めると自然の前では人間などちっぽけなものだという畏怖の念が湧き上がってきた。一方で、怪異の正体を暴く流れは少し冗長かつ消化不良に感じ、最後までいまいちすっきりできなかったのが残念だった。

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2026年01月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

長野県安曇野で半年前に失踪した妻の頭蓋骨が見つかり遭難死とされたが、主人公は用心深かった妻が山で遭難したことに納得できなかった。
そしてその後、同じような女性の失踪事件が次々と発生し、主人公は妻の死の真相を追い求める、というお話。
この時期に読むからこそ改めて恐怖を感じる内容で、ハラハラさせる描写も度々あり面白かったものの、正直もう少しクライマックスを長く楽しみたかった節もありました。そう感じる理由がまさに解説に書かれており、とても納得しました。どうやら著者は以前映画の宣伝会社に勤めており、映画を作るとしたらという視点を小説に持ち込んだ故の起承転結だったというのです。その視点だとあれがこうなって、これはこうだから、なるほど!と、最後の解説まで読むとグッと読後感が深まるのでオススメです。

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2026年01月11日

Posted by ブクログ

ネタバレ

以前に読んだのだが、最近『羆嵐』を読んで思い出し再読。
羆嵐の時代と比べると、人間は自然や野生生物に対して、ずいぶん傲慢に生きているのかもしれないと改めて考えさせられる。

信州の山中で神隠しのように女性が姿を消す。
主人公が妻の失踪と死の真実を追い、やがて羆が人を次々に襲うのだが、結末に向けてハラハラしながらも、羆の怒りと悲しみが胸にくる。

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2020年09月12日

Posted by ブクログ

ネタバレ

妻が突然山で消息をたった。同様の事件が続き、神隠しと例えられたが、それは恐るべき惨劇の始まりだった。

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2020年09月04日

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