あらすじ
ケンブリッジ大学の貧乏学寮セント・アガサ・カレッジ。カレッジの学寮付き保健師(カレッジ・ナース)イモージェン・クワイの家に下宿する学生フランが、ある数学者の伝記を執筆することになった。今は亡きその数学者は立派な人物ではあったものの、生涯であげた目覚ましい業績はただひとつだけ。しかも、フランは伝記を手掛ける初めての人物ではなかった。伝記の執筆がこれまで途切れてきた原因は、数学者の経歴でどうしても詳細が不明な1978年の夏の数日間にありそうで……。好評『ウィンダム図書館の奇妙な事件』に続く、実力派作家によるシリーズ第2弾登場!/解説=古山裕樹
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Posted by ブクログ
『ケンブリッジ大学の途切れた原稿の謎』
著者 ジル・ペイトン・ウォルシュ
訳者 猪俣美江子
学寮付き保健師〈イモージェン・クワイ〉シリーズ二作目になります。前作よりもストーリーの組み立て方が好みで、テンポも良かったです。とても面白く読ませて頂きました。
今回のお話は、イモージェンが友人のパンジーとシャーリーと共に、キルト作りをするシーンから始まります。三人はキルト作り愛好家のメンバーで、年末に開かれる予定の赤十字の福引大会に寄付する作品のパターンを考えています。この最初の場面だけでも、複雑なパターンから成るキルトの魅力が伝わってくるようです。
そして本筋では、イモージェンの住まいに下宿する学生のフランが、マヴェラック教授に頼まれてゴーストライターとして故人の数学者ギデオン・サマーフィールドの伝記を執筆することになります。
ギデオンは目立って優秀だった訳ではなかったようで、数学者にしては珍しく晩年になって一つだけ目覚ましい業績を上げており、ウェイマーク賞を受賞する運びになっていました。そんな彼の伝記を熱望しているのは妻のジャネットです。
伝記執筆には前任者があり、原稿は途中で途切れていました。フランは途切れた原稿の続きを調べようとしますがー。
亡くなった夫の伝記に強い執着をみせるジャネットですが、深入りされることを避けるようなところが見られます。彼女の言動は、常軌を逸しているところがあり、必死に何かを隠そうとしているようー。
そして、ギデオンの過去には不明な夏の数日間があり、ジャネットから調査を強く拒まれます。
その理由とは何なのかー。
前任で伝記執筆に当たったメイ・スワンは突然姿を消して失踪中、後を引き継いだマーク・ゼファーは突然亡くなっていてー死因は髄膜炎ー
そしてもう一人、最初の執筆者がいたこともわかり、何とフランで四人目、、。
イモージェンはフランの身に不安を感じ、ウェールズに向かいます。そこで彼女は大怪我を負ってしまいます。(治療を施してくれたのは獣医さん。その後の医者とのやり取りなど(怪我は酷いんですが汗)ちょっと笑えるところもあり、和みました。)
徐々に真実へと近づいていくイモージェン、、
お楽しみください。
読みやすく、事件の真相を追う過程も秩序立っていて、ユーモラスなところもあり楽しめますよ〜。
また、ストーリーの中では、物語の舞台のなっているケンブリッジ大学でも、一昔前までは当時の女性蔑視の考えが強くあったことが、キルトを交えながら描き出されています。
最後に、長い年月を経て名誉学位を授けられた94歳のヴィお婆ちゃんがとても印象に残りました。
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【解説より】
「最後にー。」翻訳者の猪俣美江子氏によると、『グリーン・ノウ』の著者でもある児童文学者のルーシー・ボストンは、本書の著者のウォルシュと親交があったそうで、本書の登場人物とパッチワークにまつわる共通点などが見られます。
ルーシー・ボストンが亡くなったのが1990年、97歳。本書の発表は1995年とあります。そんなところも感慨深いですね。
Posted by ブクログ
キルトの図案をどうしよう、という縫い物友達との楽しいやりとりから、この話がはじまる。
「難破船(ロストセイル)」「バラの羅針盤(コンパスローズ)」など、素敵な名前の伝統模様。
キルト、というと日本人はタータンチェックを思い浮かべると思う。ここでいうキルトはそうではなく、日本でいうと手芸の「パッチワーク」に近い。
日本語で検索しても、このトラディショナルキルトパターンの図柄は、ほとんど出てこず、「patchwork quilt pattern"connpass rose"」などで検索すると出てくる。
めんどくさいけど、検索しながら読んで良かったー!という印象。繰り返しのパターンが生み出すパッチワークの美しさを思い浮かべながら読むと、ストーリーの深みが全然違ってくる。
ぜひ検索してほしい。
犯人当ての外側にあるストーリーが、群像のようにうねりながら、集結していくのも、このストーリーの面白さだった。
Posted by ブクログ
学寮付き保健師の主人公が下宿人が巻き込まれた厄介な伝記の執筆に関わっていくお話。
退屈な伝記のゴーストライター、キルト作りにテストの不正と色んな事が並行して出てくる。
後半から色々と情報が繋がりだしてきて面白い。
主人公のバイタリティと行動力がすごい。後、地味に色んなコネクティングがあるし警官の友人が有能すぎる。
フランの熱くて猪突猛進な所すごい。海外だなと思うのは普通の会話のやり取りで男女平等とかが出てくる所。
この話、主人公が肉体的にも精神的にも痛めつけられ過ぎてちょっと可哀想になる。
犯人達も利己的で地位にしがみついた哀れな人達って感じ。
ラストの終わりが気持ちいい。
Posted by ブクログ
「イモージェン・クワイ」シリーズの二作目ですね。
イモージェンはケンブリッジ大学のセント・アガサ・カレッジのカレッジ・ナース(学寮付き保健師)。
彼女の家の二階に下宿している、カレッジの学生フランセス(フラン)・ブリャンが、お金に困っていたが、新任の伝記文学講座の教授レオ・マヴェラックから、ある数学者の伝記を書く仕事を依頼される。
ところが、この伝記は、先任が三人もいて、いずれも仕事を投げ出して、急死したり行方不明になったりしていた。不審に思ったイモージェンが調べだすと、数々の疑問や、厄介事が出てくる…………?
二作目なので、登場人物に馴染みが出て来ている分、物語に集中して、スピード感のある展開を楽しめました。
小説なので、イモージェンに関わる様々な偶然が伏線になり、疑惑が事件に進展していき、思わぬ事件解明にたどり着くあらすじを、楽しいイモージェンの会話を満喫しながら味わいました。
キーワードのキルトが出てきますが、解説で翻訳者の猪股美江子さんによると、この作品の登場人物と共通点を持つ実在の人物がいるそうです。
作者のジル・ペイトン・ウォルシュと親交のある、ルーシー・M・ボストンだそうです。ボストンは作家であり、児童文学者ですが、パッチワークの名手だそうです。亡くなったのは1990年、九十七歳でした。
本作が発表されたのが、1995年ですので、親しかった友人を思い入れしたようにも受け止められるそうです。(作中でも、この登場人物は、愉快な才能あふれるお婆ちゃんです)
登場人物の個性豊かな人物像が、魅力的なシリーズを味わいながら楽しみました。
すでに三作目も出版されていて、楽しみですね。
(この本は、メメさんの本棚登録に惹かれて読みました。メメさん、読み応えのある素敵なミステリーでした。ありがとうございます(=^ェ^=))
Posted by ブクログ
前作よりは背景に納得できる。伏線に整理があったらな、とは思うものの←超偉そう なかなかのまとまり。いかにもありそうな感じでした。特によかったのはラストシーン。人生最後にこの風景が見られたこと、自分のことのように嬉しかったです。
Posted by ブクログ
ケンブリッジ大学の保健師・イモージェンを主人公にしたシリーズ2作目。
大学の数学教授(故人)が有名な数学の賞の候補になった事から、教授の妻が教授の伝記の執筆を伝記学者に依頼する。学者は、それを教え子に書かせる。イモージェンの家の下宿人のフランが伝記執筆をする事になるのだが、既に3人もの人が伝記執筆途中で姿を消している。なぜなのか、フランは大丈夫なのか?
ケンブリッジでも、女性が学位を取れなかった時代があったことや、女性達の精密な作業から生まれるパッチワークキルトが謎解きの重要なピースになっていて、おもしろい。
Posted by ブクログ
シリーズ第二弾。
ケンブリッジ大学のカレッジ・ナース(学寮付き保健師)・イモージェンの家に下宿する学生・フランが、担当教授のゴーストライターとして、今は亡き数学者・ギデオンの伝記を執筆することに。
ところがその伝記は、前任の執筆者たちが死亡や行方不明などで次々と頓挫していた曰くモノで・・・。
今回はいきなり死体が発見された前作と異なり、序盤は穏やかなのですが、件の数学者の経歴の不可解な部分を追求していくうちに、色々不穏になってきて結果事件と繋がっていくという展開です。
冒頭でイモージェンが友人達とパッチワークの制作している場面があり、その後もパッチワークキルトのテキスタイルについてのパートがあったりと、“何だかパッチワークに結構ページ割いているな・・”とパッチワークといえばキャシー中島さん(?)位しか思い浮かばない私は、その部分を斜め読みしそうになったのですが、後半でこのパッチワークの図案が謎解きのカギになったので、実はちゃんと繋がっておりました。
というわけで、イモージェンがフランの為に謎を解明すべく奔走するのですが、その間学生の不正疑惑のとばっちりを受けたり、調査の為に訪れた農場で大怪我を負わされたりと、結構受難でお気の毒でした。
そんな災難を受けながらも、様々な布石をちゃんと真相につなげていくイモージェンは流石です。
終盤はちょっとハラハラしましたが、友人の巡査部長・マイケルの協力もあり、事なきを得て良かったですね。
あと、最後にちょっとしか登場しませんでしたが、今回のキーマン(ウーマン)だったと言える、ヴィお婆ちゃんが素敵で、お婆ちゃんの輝かしいラストも清々しくて良かったです。
カレッジの伝統的な雰囲気を楽しめるのも魅力なこのシリーズ。
解説を読むと、原書の方ではさらなる続巻が出ているようなので、翻訳を心待ちにしております~。