あらすじ
大阪のある被差別部落では、そこでしか食べられない料理がある。あぶらかす、さいぼし……。一般地区の人々が見向きもしない余り物を食べやすいように工夫した独自の食文化である。その“むら”で生まれ育った著者は、やがて世界各地にある被差別の民が作り上げた食を味わうための旅に出た。フライドチキン、フェジョアーダ、ハリネズミ料理――。単に「おいしい」だけではすまされない“魂の料理”がそこにあった。
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Posted by ブクログ
元「部落」出身者の著者が、同じく身分制度や奴隷制度の陰で支配階層に冷遇されてきた人々の食卓を巡る。
こんなものを食べているのか!といったものが多数出てきて、単純な紀行ものとしてもかなり面白い。
しかし、本書を単純な紀行ものと分けている点は、筆者の思いだ。
自分と同じルーツを持つ人間が何を食べてきたのか、今何を食べているのか、そしてどう暮らしているのか、それを知りたい。
その思いが、本書に普通の紀行ものにはない「厚み」を与えているように思えた。
また、日本で被差別部落と言ってももはや知る人も少ないと思うのだが、世界ではまだまだ差別問題というのは根深いものなのだと知ることができた。
アメリカ等での有色人種に対する差別は何となく知っていたが、ネパールやインドといったカーストが残る国々で、「不可触民」と呼ばれる最下位カーストの人々がこれほどまでの差別を受けているというのは、正直少しショックを受けてしまった。
Posted by ブクログ
自分の好みにタイプのタイトルなのでジャケ買い。文体も違和感がないし、内容も非常に興味深く面白い。
作者のフィールドワークの細かさが正確に伝わってくる。そこにあるものを食べるだけでなく、可能な限り人の話を聞いているし、その土地のことも詳細に書いてある。
おそらくもともと被差別の話は文字で残っているものが少ないんだろうな思った。口承や経験から辿る話が多く、誰かが研究として残さないと、おそらくなくなっていってしまうものであるかとも感じた。当然背景には被差別であったことを自ら残したくないんだろうという予想が容易につく。
『食っていうのは、命そのものでしょう』『料理にとっての精神性とは、多くの場合雰囲気だけではない。雰囲気というのは心理であり、精神性の一つでしかないからだ。料理の精神性とは、その料理の生まれ、歴史、場所から生じる。』
Posted by ブクログ
著者は自分の地元でよく食べていた「あぶらかす」「おでんうどん」などの食べ物が被差別部落に特有のソウルフードだったということを知る。
そうした食べ物のルーツや分布を調べていくと、いろいろと興味深いことがわかってきた。
○肉の内臓系が多い
○食べにくいものを工夫して食べられるようにしている
○カロリーが高い
○九州と大阪など離れた被差別部落間で婚姻関係を結ぶことが多く、このため遠く離れた地で全く同じ食べ物が残っていたりする
などなど・・・。
そのうち、作者の興味は海外へ。
フライドチキンにナマズフライなど、海外の「被差別の食卓」にもそれぞれにいろんな歴史や背景がある。
単に被差別というよりは「貧民の食卓」な部分もあるが、それはこのさいヨシとしよう。
・・・と、ここで私なぞが想像するありがちな展開は「いかに被差別民が理不尽な逆境を乗り越えて厳しい環境で暮らしてきたか、その労苦に思いをはせる・・・」という話なんだけど、この本はいい意味で裏切ってくれた。
著者は自分のルーツや被差別民への思いはあるにせよ、単純に「食べることが好き」なのだ。
食べることが好きなので、食べられないものを食べられるように工夫して、しかも美味しい!となると、それだけで嬉しくなるようだ。
この気持ちわかるーー。ww
世の中への怒りや過剰なシンパシーを排除して、淡々と食べ物を語る作者に、同じ食べ物好きとして共感するし、被差別部落問題を本質的なところで考えるきっかけを与えてくれた気がする。
私は「さいぼし」も「あぶらかす」も全く知らずに育って、内臓といえばハラミとレバー(でも好きじゃない)くらいしか食べられないんだけど、なんとなく「美味しそう!」と思えたのは間違いない。
Posted by ブクログ
私もたまに食べるファーストフード、ケンタッキーフライドチキンは黒人料理だそう。思いもよらなかった。「アメリカの料理」と漠然とした認識しか持っていなかったけど、料理のルーツをたどれば見えなかったものが見えてくる。
ほかにも、いろいろな国の被差別社会から生まれた料理が載っていて、どの話も興味深く読めた。 被差別部落でしか食べられない料理「あぶらかす」。道一本はなれた一般地区では食べられていないのに、遠くの被差別部落では、同じように食べられている。 これは、被差別部落が一般地区との隔絶を示していると、作者は言う。 確かにそうだと思う。 部落差別は解消傾向にあると、書いてあったが、早くそうなってほしいものです。