あらすじ
なぜ粉飾決算はくりかえされるのか。なぜトップの不正は止めることができなかったのか。著者・奥村宏氏は、その要因は「株式会社制度」そのものにあると指摘している。奥村氏は、「株式会社制度は、第一期・個人株主の時代、第二期・経営者支配の時代、と発展してきており、現在は第三期・機関投資家資本主義=株主資本主義の時代である」としている。そして、「第三期の特徴として機関投資家の圧力による高株価経営が株式市場、さらに株式会社そのものを投機化させ、ギャンブル資本主義の様相を呈し」ているのがエンロン事件、ライブドア事件などになってあらわれていると喝破する。本書は、最新の事件情報を羅列するのではなく、株式会社制度の歴史を「補助線」として、現在起きている事件をもう一歩深く掘り下げ、読み解くことを主眼としている。一連の事件の流れを知りたい人、また粉飾決算事件などの報道洪水に倦んでしまった人にとっても、必読の一冊。
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Posted by ブクログ
エンロン事件、ワールドコム事件、ライブドア事件、プリンシパルエージェンシー問題、村上ファンド事件、利益相反など、近年の資本主義市場において起こった問題の理論的/歴史的背景を概観できる良書である。ある程度知識があった状態で、知識の体系化として読むのが良い。
主な論点は以下の通りである。
【エンロン/ワールドコムを粉飾へ駆り立てた構造】
・所有と経営の分離→プリンシパルエージェンシー問題→ストックオプションの導入による投資家と経営者の利害関係の一致(背景にはインベスターキャピタリズムによる株価上昇圧力の問題)→時価総額経営→粉飾へのインセンティブ増大
【各社の粉飾スキーム】
エンロン→SPEを通じた自社株評価益還流
ライブドア→投資事業組合を通じた自社株売却益還流
ワールドコム→オンバランス化を通じたコストの過少計上
山一証券→損失の飛ばし
【会計士事務所がコンサルティング部門をもつことによる利益相反】
アーサーアンダーセンの第2位顧客はエンロンだった。
【ライブドアによる需給逼迫を利用した株価吊り上げスキームの源流は1970年代にもあった】
・(安定株主政策がもとから存在→)株式の時価発行が解禁→プレミアムで第三者割り当て増資することによって需給関係を悪化させず資金調達+調達資金の一部を既存株主に割り当て+安定株主工作による需給逼迫で株価吊り上げ、を組み合わせたスキームが横行。最たるものが三光汽船。証券会社もディーラー部門で多額の利益を得た。
【日本式買い占め(グリーンメーラー)】
株式を買い占めて脅迫して高値で会社に買い取らせるスキーム→1970年代に横行。代表例は豊田自動織機株の買い占め→ライブドア、村上ファンド、楽天で復活。
【アメリカのコングロマリット化からLBOまでの流れ】
コングロマリット(買収により低PERの会社を買っても高PER会社側のマルチプルが適応される歪み)による企業価値増大の拡大→反トラスト法によるコングロマリットの解体→新たに登場したジャンクボンドを活用したLBOスキーム(背景にはジャンクボンド発行による証券会社の利益)→会社の資産を食い物にしてTOBの原資を返済する悪徳な方法
【アナリストとの馴れ合い】
ITバブルのときはアナリストが会社側と馴れ合ってBUY推奨を出し続けた。背景には、IBD部門やディーラー部門との共謀による利益相反関係。