あらすじ
ロバと歩いて旅したい。新聞記者の職を辞し、「私」は旅に出た――。雌ロバ、スーコとの旅路で一躍話題を集めた著者が、朗らかなロバ達と歩いた日々、出会い、別れ、葛藤をしなやかに綴る。
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Posted by ブクログ
のどかな旅の記録だと思って読み始めたら、存外に過酷で驚かされた。なにしろいきなりロバが死ぬ。筆者が命の危機に晒されるのも一度や二度ではなく、時には雨風に心折られそうになりながら歩く。まるで修行僧のような姿に「自分には、こんな旅路は絶対に無理だ……」と恐れ戦く。
それでいて、書き味はすっきりと読みやすい。
筆者は「ロバほど感情に素直な生き物はいない」と言うが、わたしには筆者もまるでロバのようだと感じる。旅路の最中で、嫌なこと、苛立たしいこと、不快なこと、面白いこと、ありがたいこと、幸せなことに筆者は出会う。人の好意にも悪意にも晒される。そのひとつひとつに怒ったり喜んだりし、しかしあっけないほどに気持ちを切り替えながら旅は続く。ロバの写真見たさに読み始めたのに、やがて筆者そのものに面白さを感じていることに気がつく。
奇しくも筆者とわたしは同年代だ。34歳(2023年時点)というのはとても微妙な年代で、若者ではなく、しかし老成というにはまだ早い。キャリアがある程度固まってくる年代だからこそ、人生のあまりの長さに挫けそうになる。そんな同世代の目からして、筆者の生き様はいかにも危なっかしい(筆者自身も度々不安を口にする)。同時に憧れる思いもある。自分がそうなりたいというわけではない(絶対無理だ)、旅人という生き方に対する畏敬の念に近い。
旅路はX(旧Twitter)にて今も綴られている。そこだけ聞くといかにもイマドキ風だが、実際覗くとわかるが結構内向きなのだ。今の時代、いくらでもマネタイズできようものを。その辺の不器用さに焦れったくなり、でもそれこそがこの筆者の持ち味だよなあとも思う。
見知らぬ旅人に一宿一飯を施すひとのことを、かつては不思議に思っていたが、この本を読み終えた今は少しわかる。旅行へは誰でも行けるが、旅人は誰でもはなれない。旅人になることを決めたものに旅人でない者ができることは、旅の無事を祈ることと、幸運にも出会えたならば一宿一飯をご馳走することくらいだ。お代はいらない。代わりに彼らの愛するロバの背中をひと撫でさせてもらえれば、それでいい。
Posted by ブクログ
コロナ前の話ではなかった!というところでまずびっくり。ロバのイメージがますます固くなる方向で、変わるわけでもないのにもびっくり。読んでてしんどくならない話の持っていき方が今風だなあ。
Posted by ブクログ
イラン、トルコ、モロッコをロバと旅した記録。イランでは警察に急にロバと引き離されてしまうが、トルコではオスのソロツベ、モロッコではメスのスーコと、のんびり歩いて旅をする。土地の人の温かさと、旅の厳しさと、ロバのマイペースさと、なんとも味わい深かった。
チャイをご馳走して話をして仲良くなる、そんなイスラム圏の人たちの暮らしがとてもよい。
最後に書いてあった、SNSで別れたくない人と繋がっていられるようになった現代、人は別れるのが下手になったという言葉に胸をつかれた。千キロ以上一緒に旅をして愛着が湧いたロバも、現地で次の飼い主に渡して別れる。たまたま出会った人とロバが一緒に旅をして、別れるべき時に別れるそのサバサバした関係こそがあるべき姿なのだと思った。執着や束縛になってしまうから、というのは本当にそうだなと思う。一緒に旅をしてくれる、旅をさせてくれるロバに感謝して、その時が来たら別れるというのは、人と人との関係でもきっと同じくあらまほしい姿なんだろうなと思う。