【感想・ネタバレ】雨の中の涙のようにのレビュー

あらすじ

雨に溶けていく、罪も穢れも――。彼が現れたのは、雨の日だった。美しく出会う人すべてを魅了してしまう、アイドルの堀尾葉介。葉介と意外な形で関わる人々は知らぬうちに、皆その人生を変えられていく。そして葉介自身の苦悩もやがて――。雨の降るいくつもの情景の中で、悶え苦しみながら生きる人々とカリスマを持つ男が邂逅する。哀切と意外性に満ちた連作短編集。

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Posted by ブクログ

初めての遠田潤子さん、こんなに面白いなんて!
北上次郎氏がこの人の本は〜ってよく話題に出していたのでずっと気になっていた。
今作は連作短編集で、中心にいるのは堀尾葉介という芸能人。
過去に取り返しのつかないことや何かに囚われている人たちが彼との邂逅で人生を前に進めるだけの力をもらうみたいな話。
ぜんぶで8話あるけど全てがとんでもなく面白い。
2話目の時点でこのまま読み終わりたくないなって感じるくらいストライクすぎた。
探偵の話もいいし、炭焼きの話も好きだし、たまご屋さんの話もいいなあ。
遠田さんの持ち味はもっと人が苦しむ話が多いみたい(笑)今作は明確に救いが待ってるので安心できた。

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2024年11月24日

Posted by ブクログ

遠田潤子『雨の中の涙のように』光文社文庫。

先日、惜しくも亡くなった北上次郎が、本作の帯に『一編一編が実にうまく、たっぷり読ませることは最初に書いておく。問題は、心温まる話が多いことだ。なんだか遠田潤子らしくない。』という言葉を残している。確かにこれまでの重く、暗く、ハードな小説の多い遠田潤子とは味わいが異なる作品である。

人気アイドルから俳優に転身した堀尾葉介が関わった様々な人びとたちは、知らぬうちにその人生を大きく変えることになる。第三者の目を通して、堀尾葉介の人物像を浮き彫りにする連作短編かと思っていたが、第七章から事情が変わって来る。最終章で明らかになる堀尾葉介の人生の闇とその結末。面白いことにそれぞれの短編の中に懐かしい映画がモチーフとして描かれる。


『第一章 垣見五郎兵衛の握手会』。思わず涙が溢れてしまうような感動の物語。人生、出会いもあれば、別れもあり、思わぬ形での再会もある。映画は『長七郎江戸日記』と『忠臣蔵』。

愛媛県の大洲で印章店を営む中島伍郎は10年前に京都で時代劇役者になることを夢見て俳優養成所に入り、微かな夢を捨て切れずに京都に留まっていた。そんな中、伍郎は同じ俳優養成所の仲間だった小桜しのぶと同棲する。しのぶには20歳の時に産んだ若葉という娘が居たが、娘は奥出雲に住む祖父母の元で育てら、たまにしか会えなかった。いつの日か、伍郎はしのぶと若葉の3人で暮らすことを願うようになる。ある時、時代劇映画に主演することになった人気アイドルグループの堀尾葉介に伍郎が殺陣を教えることになった。必死に短期間のうちに殺陣を覚え、無事主役を務めた堀尾葉介だったが、突然グループを脱退し、本格的に俳優の道へ進むことを決める。そんな堀尾葉介の姿を見た伍郎は俳優の夢を諦め、実家のある大洲に戻ることを決意する。しのぶに若葉と一緒に大洲に来て欲しいと伝える伍郎だったが、しのぶの方は堀尾葉介の姿に触発され、夢は諦めないと言って東京の劇団に入る。

『第二章 だし巻きとマックィーンのアランセーター』。これも心が温かくなる話だった。アイドルから俳優に転身した堀尾葉介が小西章に伝えた父親の言葉にはジンと来た。映画はスティーブ・マックィーンの『大脱走』。

父親の鶏卵店を継いだ41歳の小西章。鶏卵店の人気商品はアイドルグループの堀尾葉介が幼い頃に食べたと絶賛したことで有名になっただし巻きだった。父親が亡くなり、会社を辞めて店を引き継ぎ、41歳になっても独身でいる章に見合い話を持って来たのは商店街の蒲鉾店の市川夫妻だった。章は編物講座を務める内藤百合という女性と見合いするが、あることが心に引っ掛かり、市川夫妻に断りを入れる。

『第三章 ひょうたん池のレッド・オクトーバー』。一転して、何時もの遠田潤子の小説のようなハードな展開に驚いたが、同時に温かさを感じる短編だった。映画はトム・クランシー原作の『レッド・オクトーバーを追え』と『リバー・ランズ・スルー・イット』。

モンタナでフライフィッシングのガイドを務める60歳を過ぎた村下九月が帰国する。村下が語る23年前に村下九月の人生を変えた白い傘の女は後に俳優となった堀尾葉介の母親だった。

『第四章 レプリカントとよもぎのお守り』。本当の幸せは身近にあるのに気付かないのだ。映画はフィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』を原作にした『ブレードランナー』。

潜れなくなった元潜水士の35歳の横山龍彦は、山間の小さな町でカフェ&創作料理『森の塩』でオーナーシェフを務める志緒に拾われる。OLを辞めて念願の店を持った志緒だったが、店は赤字続きだった。ある日、龍彦が老夫婦を助けたことを切っ掛けに老夫婦が店を訪れるようになる。その老夫婦は堀尾葉介の両親だった。

『第五章 真空管と女王陛下のカーボーイ』。山あり谷ありの人生。その時の決断一つで、波に乗って駆け抜ける人生もあれば、足踏みする人生もあれば、後戻りする人生もある。映画は『真夜中のカーボーイ』と『ボヘミアン・ラプソディ』、『女王陛下の007』。

小学3年生の晴也と2人で暮らすペット探偵の丸子浩志は密かに28歳の歯科衛生士の鮎子と付き合っていた。突然、浩志の元に堀尾葉介からの依頼が入る。ペット探偵の役柄で映画で主役を務めることになった堀尾葉介が浩志の仕事を役作りのために参考にしたいと言うのだ。そんな中、鮎子にプロポーズする浩志だったが、ある事件を切っ掛けにプロポーズを撤回する。

『第六章 炭焼き男とシャワーカーテンリング』。何が人生を変えるのかは解らない。我武者羅に働いていても、それが報われるかと言うとそうでもない。映画は『大災難P.T.A.』

炭焼きの仕事をする38歳の岩田近夫がわざわざロケ場所まで堀尾葉介に会いに行く。岩田が話す堀尾葉介にまつわる不思議な話。今の世の中の不幸を全て詰め込んだような悲しい話だ。

『第七章 ジャック ダニエルと春の船』。映画は『スカーフェイス』と『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』。田舎ではありがちな、いじめや不正。

久し振りに実家に戻った大型貨物船の船長、玉木順二と堀尾葉介の不思議な縁。あらためて、全ての短編が堀尾葉介を中心につながっているのだなと感心した。

『最終章 美しい人生』。『雨の中の涙のように』というタイトルの意味が解る完結編。映画は『素晴らしき哉、人生!』。堀尾葉介の抱える心の闇が全ての明らかになり、堀尾葉介が辿り着いた人生の場所が描かれる。

本体価格700円
★★★★★

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2023年09月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

最終章で知れた、俳優でない堀尾葉介がよかった。
実はトラウマ級の過去を持っていたなんて。
明らかに今までと口調が違うし、翼を救って自分も救えた。

時代劇うんぬんから始まって、
時代劇、、いつの話だろこれ、ついていけるかな、と思ったけどそれは最初だけで、結果普通に読めた。
強いて言うなら、どの章もピシッとしまって終わるわけではなく、ふわ〜と、この章に出てくる人たちの人生はこれからも続くんだな〜という感じで終わった。それがこの本の特徴なんだろうけども、たまに物足りなさを感じた。
炭で作った木琴を堀尾に渡すのはちょっと意味不明だったかも。自己満すごい。

堀尾葉介、一般人に声かけられて返事しちゃうの、良い人すぎるよ、
現実世界の芸能人で言ったら誰だろ?と思ったけどあんまり思い浮かばなかったなー

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2025年08月08日

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遠田さん、相変わらずとても良い作品を書きます。今まで読んだことのないような視点から、それぞれの登場人物によって1人の男性にまつわるストーリーが語られていて興味深かった。最後の終わり方も考えさせられるものがありました。

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2025年01月23日

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重苦しーーい話しか読んだことがなかったので、この作家さんがこんな風に優しい感じの話も書くんだなと、それが第一印象。相変わらずどの風景もきれい。登場人物みんなの人生に関わってくる彼が、豪雨をきっかけに生まれ変われたのは良かったけど、お父さんの人生はちょっと気にくわないかも。

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2024年06月21日

Posted by ブクログ

以前読んだ著者の『雪の鉄樹』が重苦しい展開だったこともあり、本書もその傾向かと読み始めた。
そんな思いを裏切るような話が続く。
第2章など、ハッピーエンドなハートウオーミングな物語。
各章に端役的に顔を出す俳優の堀尾洋介は、ずば抜けた容姿と才能の持ち主で、人気のアイドルグループから独立して俳優としても確固とした地位を築いている。少しも気取ったところのないそれでいて完璧なスター。
彼の訪ねた店は、スターが訪れた店との評判で行列の賑わいとなり、周りの人びとに幸運をもたらす天使のような存在。
しかし、中盤から彼の家族が描かれ始めると、次第に不穏な雰囲気が漂いだし、最終章の「美しい人生」では彼の知られざる過去が明らかにされる。
最後、彼の苦悩の先に希望が見出され、救いがあり、ホッとするエピローグ。

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2024年02月07日

Posted by ブクログ

食べたことのない物を口にしたらすごく美味しかった!
のような体験。
前情報なしでの読書の楽しみです。

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2024年01月18日

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ネタバレ

登場する映画を知っていれば、より一層楽しめたと思いますが、わたしが知っていたのは「長七郎江戸日記」と「忠臣蔵」だけでした(笑)。大洲の町並みや、臥龍山荘の景観の美しさも、思い浮かべることができて、第一章は想像とが現実がうまい具合に相まって、景色が流れるように読めたのがよかったです。アイドルの握手会は、見たことなかったので、うすぼんやりとしか想像できませんでしたが。

どの章にも、登場人物が基本的に、一回なんかしら暗い過去があって、それに捕らわれているんですが、それを昇華して気力を取り戻していくために切っ掛けになった人物が描かれています。ちょっとずつ出てくる過去が繋ぎ合わさって、一人の人物になっていくのが面白かったです。

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2023年11月05日

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202308/謎と映画を絡めつつ、人間と人生を見事に描いた連作短編集。これもまた遠田潤子の恐ろしさ凄さが詰まった名作!第二章の「だし巻きとマックィーンのアランセーター」が何故か一番心に残った。

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2023年10月25日

Posted by ブクログ

どこかしらで一人の俳優と繋がっている主人公の短編が電車で読むのにちょうど良い長さ。そして、ちょうど雨の日に最終章を読み終えて、なんだかほわっとした。

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2023年09月09日

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八篇からなる連作短編集。各短編の主人公は過去の傷や重いものを背負って生きていてそれに不器用。子供の頃のことや、男女間のこと、仕事などさまざまな環境や生活が描かれている。各短編に共通するのが一人の俳優が何かしら影響を与えていること。それがそれぞれの心を少し軽くしてくれる。知らず知らずのうちに影響を与えていた俳優のこれまでが語られるラストもとてもいい。これまでの遠田作品にはない温かみがありこういう作品をもっと読みたくなった。

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2023年09月08日

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各章で映画のシーンや台詞が登場すると、自分の頭の中にあるその映画のシーンが再生されて話を更に盛り上げ、より先を読み進めたいと言う原動力となった。
文字が映像を引き出し、引き出された映像が文字を補完してくれる1読で2度おいしい小説だ。

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2023年08月14日

Posted by ブクログ

堀尾葉介という1人の芸能人を軸にして紡がれる短編集。と同時に、堀尾葉介自身の物語として成立する長編小説でもある。悔恨と愛憎と狂気が混在する世界観ではあるが、くるんでいるオブラートが厚すぎて、どれも少しばかりきれいすぎるのが物足りない。それでも登場する映画のタイトルが知っているものばかりだったのは幸運だった。特に真夜中のカウボーイとスカーフェイスは大好き。そして中島みゆきさんの船を出すのなら9月も好きでした。それにしても遠田さんって、本当にストーリーテラーですよね。
でも本音は、それまで美しかった短編の世界観が、最終話でもっと劇的に醜く姿を変える様が見たかった。次も期待しています。

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2024年07月16日

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